第五十七話(44~44の途中まで)
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そうしてしばらく思い悩むうちに、閃きが訪れた。
この無数の泡、いくつもの記憶の正体がなんなのか、その性質についての、新たな真実が分かってきたのである。
これは…夢のもとだ!
夢は、きっと忘れられた記憶から出来ている。
連想と共に浮かび上がり、弾けて幻となって蘇る。
ソレらは、忘れていた記憶、心の奥に残った過去の影なのだ。
シンプルに『幸せな記憶』と呼んでも良いかもしれない。
かつて魂を震えさせた感動、精神を刺激した感覚、失敗したりそれを乗り越えたりした懐かしい思い出…
これらの記憶が夢のもと、材料であるというのは、その性質からも、見てとることが出来る。
見ていると、それらが浮力を持ち、上方へ向かおうとしているのが、はっきりと分かるのだ。
上が、私が落ちてきた夢の世界だとすれば、そうした記憶がこれからどう変化するのかは、考えるまでもないだろう。
ふわふわと『上』を目指して浮かんでいく、無数の金の泡。
ときに痛みや後悔をともなうこともあったけれど、それらは、皆、どこか輝いていた。
それは、とても美しい光景ではあった。
…だが、それはそれとして、気になることもある。
そうした『記憶』は、どれも未熟なのだ。
泡は、大きく、そしてより強く輝くものほど、つまり幸せな記憶ほど浮力が強いようだが…
私の顔より上へ昇っていくものが、一つもないのだ。
というより、どんどん弾けて無くなっていく。
まるで、成長しそこねたセミの幼虫(前に里の外から入ってきたレシピで見た)のようだ。
殻から出ることなく、空へ飛ばずに死んでいく。
ただ、セミはそれでも、揚げれば美味しく食べられる。
問題なのは、それとは違ってこの『記憶の泡』は、ただ消えてしまうだけだということだ。
後には、何も残らない。
…私と同じように。
…もう、こうなったら勢いで乗り切るしかないかもしれない。
ここは、あの人を見習って無茶苦茶にやってやる!
私は、成功を祈願して、また思い切り叫んだ。
「何か頼れるものとか、問答無用で幸福になれて、今後も完全完璧に人生安泰にしてくれる何か良い感じの記憶、どうか出てきて!」
こうなったら、なんとしても『出口』を見つけ出してやる!
そして、私は、全力で泡を探し始めた。
それこそ、無茶苦茶な勢いで!
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…………そして、無茶苦茶にやり終わった。
すごくすごく疲れた。
成果はゼロ。
なんにもない。
私は、方向性を間違えたとでもいうのだろうか!?
…そうかもしれない。
自問自答の結果は、明白だった。
私は、自力で自分の道を見つけなければならないのだろう。
それはまあ、分かる。
…分かっていると、思っていた。
けれど、それがすごく難しい。
だって、なんにも当てが無いのだ。
どんなに輝いていた思い出も、どれほど充実していたはずの大切な記憶も、触れたと共に、伝説の飲み物『サイダー』の泡のように、あっさりと消えて、無くなってしまう。
一瞬の輝き、ひとときの幻、夜が来る前の一時の残照。
明かりを消せばより闇が際立つように、それらの光は、決して長続きすることは無かったのだ。
それは、どんなに幸せな出来事にも、その後には嫌なことや不幸があったり、何より長続きはしなかったせいもあるのだろう。
そもそも、私の仮説が当たっていれば、これらの泡は、夢にすらなれなかった断片なのだ。
そんなものが長持ちしないのは、当然のことなのかもしれない……
気分が暗くなる。
すると、辺りまで一気に暗くなってしまった。
いけない。
どうやら、ここの明るさは、私の精神状態を反映しているらしい。
なら、もっと明るいことを考えないと!




