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第五十六話(43~44の途中まで)

そのときふと、私は自分の足を見ていた。

正確には、“足があるはずの場所”を。


もちろん、この真っ暗やみでは、何も見えるはずがないのだが……


それは、小さな泡、光…

何か、この闇の中でも確かな存在を示している何かよく分からないものが、こちらへ向かって浮かび上がって来るような…?


私は息を止め、その正体をはっきり見定めようと目をこらした。


見つけたそれは、夜露のような、かすかなきらめきだった。

不思議なことに、それは見つめれば見つめるほど、その明るさに私が集中するほどに、よりその輝きを増していくようだった。


これは一体…?


光は見る間に大きさを増していき、ゆっくり、ゆっくりと浮上して私の方へ近づいて来る。

そしてついに、丸みを帯びたその形をはっきりと見定めることが出来た。


と、そう思った途端、それは変化した。

ぽん、と小さく弾けたのだ。


そして、それと共に……



「聞け、ラム

お前は旅に出たかったんじゃないのか?

お前は、選んできた

自分で自分を幸福にしてきた。

お前には、既にそれが出来ているんだよ

だから、これからだって出来るはずだ」



今のは…『彼』の声?

ついに、幻聴が聞こえるようになってきたのだろうか?

私も、もう完全な狂人になったのか。


いや、そんなことは、もう何千何万と考えたはずだ。

自分の正気を疑うことになんか、意味は無い。

今、考えるべきことは、もっと他にあるはずだ。


そうだ。


ようやく思い出せた。

私は、こんなところに落ち着きたくは無かった。

もっと他のところへ行きたかったはずだ。


そこで、気を取り直してあたりを見回すが、先程の光は見当たらない。

どうやら、消えてしまったようだ。


足元をよく確かめた。

わずかだが、光が見える気がする。


いや、あるはずだ。


あって欲しい。


私の、光を、出口を欲する願いは、どんどん強まっていった。

それは、つい、口をついて出てしまう。


「お願い、来て!」


するとなんと、足元からたくさんの光が…星空のように無数に現れたのだ!





…これではない。


…これでもない。


泡が弾けるたびに出現する、無数の音、匂い、光景。

その正体が何なのか、それに気づくこと自体は容易だった。


これらは全部、私の記憶なのだ。


悪夢の底、世界の外側かもしれないこの場所に、そうしたモノが集まるのは、あるいは当然のことなのかもしれない。

私のように“悪しきモノ”が世界から排除されるのなら、逆に“良きモノ”が取り入れられることがあってもおかしくはないからだ。


実際、そうして浮かび上がってくる“モノ”ーー記憶の大半は、美味しそうな匂いや料理の映像だった。

あの人の故郷、異世界にあるという『映像機器』というのは、あるいは、このようなものなのだろうか?

これは、記録して後世に残すべき美食の記憶、だということなのか?


ただ、この仮説にも疑問は残る。

なぜなら、“記憶の泡”の中には、どう見ても美食や料理と無関係なモノもたくさんあったからだ。


父様の記憶、里の風景、食べられない花の香り、そして、これまでの旅であったささいな出来事の断片。

最多なモノは、やはり母さまに関係する記憶だが、あの人に関わるモノも負けないくらい多く、その輝きも鮮烈だ。


そうなると、共通点は『美食』ではなく“良い記憶”だという結論になる。

観察した結果をどう解釈しても、そうとしか考えられない。


だが、それはおかしい。

この場合の“良い”は、あくまで私という、いち個人にとっての価値だからだ。


『美食』であれば、世界ーー【食卓界】共通の普遍的な価値である。

こちらが、世界に“良きモノ”として受け入れられるのは、実に自然だ。


だが、この場合における“良い記憶”というのは、あくまで私の主観、いち個人の価値基準による評価でしかない。


果たして、こんな空間がそのような評価から出来上がるものなのだろうか?


私が世界の中心であるのならともかく、そんななことがあるわけがないだろう。

星空の中心、太陽女神アレヴォドの夫である夫神シャムザルの骨が死後に変じたという、シャムザル星じゃあるまいし。


こんなのは、悪夢にしてもずいぶんと荒唐無稽こうとうむけいだ。


…それにしても、さっきから必死に探しているのに、どこにも出口が見つからない。

おかげで、ひどく疲れる。

私を導く人は、一体どこにいるのだろうか?


頼るものも、目標も何も無いような状態になるなんて、あの小屋に閉じこもっていたとき以来で、とても居心地が悪い。

こんなときは、一体どうすれば良いのだろうか…?


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