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第五十一話(39~40の途中まで)

「思い出を、呪いにするな。

長い間仲違いしていたマトマトンの兄ちゃんとだって、さっきは和解出来ただろ?

それと、同じことだよ。

お前の母ちゃんは、もういないんだ。

母ちゃんを幸せにしてやることは、もう出来ない。

……返事を聞くことも、出来はしない。

出来るのは、ただ母ちゃんのぶんまで幸せになることだけだ

なにより、お前が幸せになることは、お前の母ちゃんにとっても……」


「そんなこと、私が今まで考えなかったとでも思うんですか!

私が伝統を守らなきゃ、受け継がなきゃ、もう誰も、母の思いをんではくれないじゃないですか!

母の、あの人の名残りは全部無くなってしまう!

その何もかもが!」


ラム……」

「そんなこと、悲しすぎます!」


つい、言い返さずにはいられなかった。

自分で『神々の使い』様のことは、ちゃんと尊重すると決めていたはずなのに…そのお言葉をさえぎってしまうなんて……

そんな自分自身に、心底から怒りを感じる。


「……すまん、ちょっと言い過ぎた。

けどよ、それでも言わせてもらう。

今のお前、カッコよくないぜ。

まるで、自分を不幸にするために母ちゃんを利用しているみたいに見えるよ」


けど駄目だ。

我慢、出来ない!


「貴方に、何が分かるんですか!」


また、叫んでしまった……


彼は、言う。


「分からないね」


冷たく、言う.


「ああ、分からないよ

他人の気持ちなんかはな」


乗っては駄目だ。

こんな見えすいた挑発になんか。

けれど、いくら冷静になろうとしても、なりきれなかった。

私は、私を抑えきれない……!


そして、


「だが、お前の母ちゃんが何をやったのかはちゃんと知ってる。

何をしなかったのかもな」


「なら、なんでそんなことをおっしゃるのですか!」


ついに、私は爆発してしまった。


「ご存じでしょう!

母は、自ら死を選んだんです!

あの人は、ただ一人で死んでいった!」


けれど彼は、静かにその爆発を受け止める。


「そして、娘のお前を置いて行った。

そう、思ったんじゃないか?

そして、それはとても寂しいことだと」


「……」


「けど、違うな

その解釈は間違っている」

「いきなり、何を…」


「置いていかれた、のではなく、『解放したかった』

伝統に縛られて生きるしかない自分から、離れて欲しかった。

一人でも強く生きていてほしかった。

だから、お前の母ちゃんは、一人でった。

娘のお前を、心中に誘ったりはしなかった。

そう……考えてみることは出来ないか?」


「そんなの….都合が良すぎます!

母は、裏切られて、みんなに、私に見捨てられて死んでいったんです!」


「都合が良くて、何が悪いんだ?

もっと言おう。

母親が自分の娘に都合が良くて、つまり、娘のことを第一に考えて、一体何が悪いんだ?」


「え?

そ、それは…な、なんて…」


彼は今、なんて言ったのだ?

思考が、まとまらない。


「お前は、矛盾している。

『里』のため、家のためと言いながら、実際にやっていることは、一体なんなんだ?

『里』も家も、別にお前が食われなくても、いや、死ななくても別に困らない

むしろ、死なない方が喜ばれるだろうな。

お前の仲間たちは、お前をとても大事にしているよ。

それに、俺も聞いたぜ、お前の母ちゃんのことをよ。

それも、毎日だ。『里』では、その話ばかりだったぜ」


私は、顔を伏せ…ようとして、失敗した。

まだ、彼に顔をはさまれたままだったのだ。

どうにも逃げようがないので、せめて彼をにらみつける。


「もちろん、お前の話も聞いたぜ。

全部な!

誰も彼もが、お前の心配ばかりしていたよ」


「そんなの嘘です!」

「嘘じゃないさ。

そりゃあ、中には自分のことしか考えない、根性が曲がったようなヤツだっている。

けどな、決してそんなヤツらばかりじゃあ無かったんだよ。

なにせ、村の英雄一家の末娘なんだ。

心配して当然だろ?

それがなんと、当のご本人は、ひとりで死ぬことばかり考えている、と来たもんだ。

神さまがいるとしても、きっとあきれ果てていることだろうよ!

『心臓』の娘の使命?一族を守る?

ラム、お前は、それに甘えているだけなんじゃないか?

手段と目的を取り違えてないか?

みんなが幸せになるための伝統で、逆に不幸にしてどうするよ?

不幸になりにいって、どうなるんだよ?」


その答えは、血を吐くように、私の体内からこみ上げてきた。


「そんなの、そんなの最初から分かっているんですよ!」

「だったら!」


彼が、ここまで声を張り上げる姿は、初めて見る気がする。


思わず顔を見つめると、救世主様は、一緒だけ、自分でも驚いているかのような表情を浮かべていた。

だが、それも束の間、彼はすぐに冷静に戻った。



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