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第五話(3途中まで)

八助は、何よりケガ人の介護を優先したのである。

ひたすらに料理談義をしようとする邪苦とそれを無視し続ける八助。

二人の間には、いかなる関係が生じる隙もないように見えた。

だが…


だが、次に発せられた邪苦の言葉が、その場の空気を一変させることになる


「だが、わざわざそんなクズ料理人の面倒を看ているのは減点だ。そんなクズなど放っておけば良い」

「…おい、そこの人間ヘリコプター、今なんて言った?」


ここへ来て初めて怒りをあらわにする八助に対し、宙に浮く料理人は顔に笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「利き腕は料理人にとっての宝!その宝を自分から台無しにしてしまうようなクズに構っているのは時間のムダだと言ったのだよ!」

「この野郎!アレはただの事故だ!初めて使う道具を一回や二回使いこなせなかったことの何が悪い!あんな危険なモノ、取説無しで使えるわけないだろ!」

「それを使いこなしてこその料理人だ。調理器具を使いこなせない料理人をクズと言って何が悪い!」


そう言いながら、邪苦は横たわる"包丁王"に侮蔑のまなざしを送った。

とたんに暴れだすブラーサーム。


「うう…ぐ、ううう!」

「ブラーサームさん、しっかり!」

「今暴れるとヤバイ!なんとか抑えつけてくれ!」

「気をしっかり持つのじゃ!」


暴れるけが人をなだめながら、強く邪苦を見返す八助に対して"神を食った料理人"はあきれたように語った。


「右腕がなくなったとしても、だからどうだと言うのだ?」

「お前、今『利き腕は料理人の宝』って言ったじゃねえか!」

「言ったとも。だが、宝の一つや二つなくなったからと言ってどうということもないだろう」


語気荒く言い返す八助に比べ、邪苦の言葉はあくまで静かだ。


「右腕がなくなれば左腕で!左腕がなくなれば脚で!口で!髪で!身体にくくりつけて!新しい腕を生やして!それでも料理をするのが、本物の料理人と言うものではないか!」


だが、冷静に言葉を述べるその眼には、その言葉以上に冷たく光る狂気が宿り、その言葉は煮えたぎる溶岩のような執念をうかがわせたのだ。

その狂気に、いつの間にか暴れていたブラーサームすら動きを止め、騒々しかった場は一瞬にして静まり返っていた。


人口密度が低い北辺島に集った全ての人々が黙り込んだため、世界から生命の気配も消え去ったかのように思われた…。

辺りに響くのは、ただ岸壁に叩きつけられる波の音だけであるかのように。

だが…

だが、またしてもその予想は打ち砕かれた。

唐突にラムが声を上げたのだ。


「あーっ!」

「な、なんだ?

「ラムちゃん、どうした?」


皆の問いに羊少女は意外な答えを返した。


「違うんです。これは、私たちが襲われた魔獣ではありません!」


羊少女は"包丁王"が調理した【オルカ】の刺し身を指差す。


「そうなのか?でも、」


今、そんなことはどうでも良いだろ、と八助は続けようとしたが、唐突に持ち出された話題はそこでさらに広がりを見せる。


「確かに、これは北辺海を荒らし回った魔獣【北辺海の主】ではない。コイツには、ワシが与えた傷が無い」

「マジか爺さん!?」


漁師の老人が、ラムの証言を裏付けたのだ。


「だが、この大きさだぞ!【アイスクラッシュ・オルカ】は気性が荒く、同じ海域には同時に二匹しか共存できない。オスとメス、親と子のどちらかの組み合わせしかないのだ!コイツが【北辺海の主】でないとすれば、本物はこれよりさらに…」


悪徳商人は、交易で培った知識をもとに疑問を呈する。

"包丁王"が殺した【オルカ】でさえ、既に小舟よりも大きいサイズであった。

それは、残った骨を見れば明らかだ。

もし、この【オルカ】がより”小さい方”であるとするならば、”大きい方”は一体どれだけ大きいというのか?


その疑問の答えは、すぐに明らかとなった。

八助たち以外、何の生命の気配も無かったはずの海に、野太い咆哮が響き渡ったのだ。


『グゥオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー!』

「こ、これは!?」

「間違いない。これだ、これこそがワシが生涯追い求めてきた海の魔獣、【北辺海の主】じゃ!」


「こ、これが!?」

「だがコイツはちょっと…」

「ええ、とても…」


咆哮と同時に、島へ向かって巨大な波が起こった。

それは誰が見ても、巨大な海魚が泳ぐ時に起きる波そのものであった。

だがそれは、あまりに大き過ぎた。

その大きさは…八助たちがいる北辺島そのものより、遥かに大きかったのだ!

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