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第三十二話(24の途中まで)

そう、私は、私たちの家系は、【羊人】族の中でもある特別な使命を背負っていたのだのだ。

その名も【心臓の家】

伝説の食材の家系である。


それは、美食を提供するためだけに作られたイケニエの家系であることも意味している。


だがそれは同時に、一族のなかで最も尊く、最も『英雄的』な家系であるということをも意味していたのだ。


そのことを詳しく語るには、私たち【羊人】の歴史をさかのぼる必要がある。

面倒ではあるが、そうしなければならない。


なぜなら、私たちの家系は、ある意味では【羊人】族そのものだからだ。


その運命は、この世に【羊人】という種族が認識され、確固たる存在として認められた、ちょうどその時に定められた。


かつて、長く続いた戦乱があった。

【原始の戦乱】と呼ばれたソレは、今となっては誰も省みることのない過去の出来事であり、もはや、私たちの来し方を語る起源神話のひとつでしかない。


それは、ずっとずっと遠い昔のことであり、私も昔話で聞いただけの出来事。


けれど、それでもそれは重要なことなのだ。

【羊人】の運命は、それが生み出した流れによって、決まったのだから……



この世界、【食卓界】では今では料理人が最も大きな力を握っている。


しかし、大昔はそうではなかったという。

その頃もっとも強大な力を持っていたのは、各地の【領主】たちであり、またそれぞれひとつの【民族】を治める【族長】たちだったのだ。


料理の技術が未発達であったころは、武力によって新鮮で上質な食材をよそから奪い取ったり、また守ったり蓄えたりすることが出来る【武将】たちこそが、最大の力を誇っていたということだ。

作るより奪う方が、楽に美味しいものを手に入れられたという意味で、【怠け者の時代】だったと言うべきだろう。


そして、その頃は、現在では覇権種族である【人間種】という区分も、まだその次代には存在していなかった。

その特権を保証する『種族の定義』自体が、定まっていなかったからだ。


つまり、まだ【食材】と【人間】の区別もまた曖昧だったのだ。

その結果なにか起きたのかと言えば……それは混沌だった。


あらゆるものが互いを食い、食われる、それは、まごうことなき【地獄】であった。

そう、語り継がれている。


たとえば、『あの人』のような種族、異世界でいうところの【くろーまによん】?とかいう猿系の人も、昔はより大型の猿系の人に、好んで食べられていたらしい。

幼体の方がデザートや離乳食に良いから、と捕まえた仲間に、より幼い同族を探させる狩りすら行われていたという。


その恐怖は、彼らの文化の奥底に残り続け、今では、子供の遊びとして残っているのだそうだ。

まあ、【鬼ごっこ】くらい私たちもやるし、この説は大変疑わしくはあるのだけど。


閑話休題。


当時、【武将】たちは、自らの利益を求めて、子や妻をより強かったり豊かな領地を持つ【武将】に献上したり、逆に負けて一族ごと【食材】としてそうした【武将】の食卓を飾ったりしたのだそうだ。


昨日まで主人だったものが今日には食われる側となり、先月まで食材だったものが、今月には美食をもたらす王として崇められたりもした。


中には、結婚したばかりの新郎新婦のどちらかが、翌朝のメインディッシュになったり、かつて覇を競い合っていた武将同士が、同じ鍋のなかで煮られて妻たちの祝いの宴で供されることすらあったという。


今では考えられないことであるが、そうした恐ろしい時代が、確かにあったのだ。


だが、そうした時代は長くは続かなかった。


終わりがないかのように思われた【武将】たちの戦いが、だんだんと収束していったからだ。

先ほど語ったような略奪や残虐行為にしても、それは『奪われる側』があってのこと。

食糧生産や子孫繁栄に重きをおかないような共同体が、長続きするわけもない。


武将の中でも知恵があるものたちは、自分より弱い者たちを庇護する代わりに配下と成し、戦乱の世を生き抜いていった。


戦の上手さや所有資源の差に加えてそうした要素もあり、だんだんと強弱の序列が固定化され、それを覆すような大きな争いは起きなくなっていったのだ。


また、有力な武将が勢力を固めると、それに合わせて彼らの、つまり『勝利した種族』の覇権を文化的に正当化する必要性が出てくるようになった、ということもある。


それに、料理の技術が発達し体系的にまとめられる必要が出てくれば、【食材】とそれを料理する【料理人】は、どうしたって区別されなければならなくなった。


そういうわけで、新しい時代では、【食材】の種族と【料理人】になれる種族は、明白に分けられることになったのだ。


それに、誰だって『奪われる側』より『奪う側』、『調理される側』より『調理する側』の方が良い。

弱い武将や武将になれなかった者たちは、競って【料理人】や食材を提供する【生産者】【狩猟者】などになり、『調理される側』の運命から逃れていった。


一部の例外を除いて……




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