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第三十一話閃光、そして彼女の話(23~24の途中まで)

今度は助からないかもな。


少年は、そう思っていたただろう。

だが彼は……最後の瞬間まで、決して目をつむらなかったのだ。

まるで、自分を含めた全てが許せないかのように、少年は目を大きく開き、にらみつけたままであった。


その瞬間、その口が、まるで打ち上げられた魚のようにぱくぱくと開閉したかのようにも見えたが……果たして真実はどうであったかそれは分からない。

直後に島中を包み込んだ轟音と閃光の中に、全ては呑み込まれ、包まれてしまったから。


確実に言えることは、ただ一つ。

彼は、最後まで逃げなかった。



その時私は叫んだ。

叫んだはずだった。

だが、何を叫んだのか、それは、自分自身でも認識することは出来なかった。


なぜなら、その叫びはあまりにも遅く、あらゆるものは真っ白な光と轟音の中に包み込まれてしまったからだ。


だから、それがどんな思いだったのか。

それは私には分からない。


それが勝負を延期させようと食い下がる八助様への罵倒だったのか、それとも彼をこれ以上苦しめないでくれという懇願だったのか。


あるいは、彼の見苦しい姿の、そのどうしようもない苦しみへの嫌悪を示す非難の叫びだったのか。


あるいは……あの時、本当に放ちたかったのは、私自身の苦しみの叫びだったのかもしれない。


何もかも、いいかげんにしてくれ、と。

もうこれ以上、私を苦しめないでくれ、と。

結局は、ずっと前から、私はそれだけを、それだけを伝えたかったのかもしれない…


結局、私には分からない。

自分で自分が、分からない。


だが、そんなことにはお構いなく状況は急変し、全ては光の中へ消えていって……


そうして私は夢を見た。

それはずっと昔。

八助様と出会う前の懐かしくて……そして、今でも痛みを訴えてくる、思い出の時のことを。





子供の頃のことを思い出すたびに、胸に感じるのは、まず暖かさだ。

胸から広がり、全身を優しく包み込んでくれるような、そう、それは春の温もり。


色々なことがあったはずなのに、思い出を包む背景は、なぜかいつも春だけなのだ。


もう一つ、温もりと共に思い出すのは、母の顔だ。

優しく美しく、あの頃の私の全て、世界のすべてであった母は、いつも笑っている。


だが、そこにあるのは喜びだけではない。


もちろん、私に向けてくれた笑顔には、いつも優しさと思いやり、そして我が子に注いでくれた愛情はある。


だが、その奥には、隠しても隠しきれない思いがつねに見え隠れしていた。

それは悲しみだ。

そして痛みだ。


母は、つねに何かを拒絶しているように見えていた。

拒絶しても拒絶しきれない。

決して回避できない運命が、彼女にそんな振る舞いをさせていたのだ。

今の私なら、それが分かる気がする。


そう、母は苦しんでいた。

あの頃の私には、その苦しみをうまく汲み取ることが出来なかったし。

今でも完全には理解してあげることは出来ないと思うのだけど。


それでも、その苦しみだけは忘れたくはない。

私は、ラム・スケープシープ・ヤミーミートは、それだけは、固く心に誓っているのだ。


そんな誓いを抱くことになったきっかけは、忘れもしないあの出来事だった。

あれは、そう――――



あれは、私が七歳の頃だったか。

その日も、わたしと母は日課の散歩をしていた。


今も鮮明に覚えている。

あれは、柔らかな陽光が降り注ぎ、あらゆるものに平和を約束しているような、そんな午前のことであった。


「母さま、母さま!これあげる!」


幼い私は、母に贈り物をしたのだ。

それは、私たちが暮らす【羊人の隠れ里】において、当たり前に生えているハーブの一種だった。


もちろん、食べられる。

私は、そのことを数日前に習ったばかりだった。


私の家系は【羊人族】の中でも特別な扱いを受けており、幼少期から数人の家庭教師から、代わる代わるに最高の食材知識を授けられるのだ。

どうしてそんなに丁重な扱いを受けるのか、その理由を私がきちんと知るのは、このずっと後のことなのだけれど。


ともかく、そうして幼い娘は、自信満々に母にハーブを渡した。

一度だけではなく、二度も三度も。


「母さま、これどうぞ!」

「母さま、これとっても美味しそうよ!」

「ありがとうラム」


だが、母はそれを食べず、ただポケットにしまうばかりだった。


「どうして食べないの?こんなに美味しそうなのに」


私が差し出したハーブを母は優しく、しかし断固として拒絶したのだ。

その時が、私が母に、肉親や庇護者としてではなく、【羊人】の娘としての彼女に興味を抱くその始まりとなった。


私たち【羊人族】は、基本的には植物類を食べる種族である。

生物的には雑食性であり、他に食べ物がないときや特殊な病気の時などタンパク質を食べないこともないが、それはあくまで特殊な事例でしかない。

そして、ハーブはそんな私たちにとっての好物のひとつだ。


それなのに、なぜあのとき母は私が差し出したハーブを拒絶したのか?

あの頃の私は母にひどく甘やかされており、注意されたことはあっても、叱られることも、ましてや大きな声を上げて怒られたことすら無かったというのに。


不自然な偏食。

厳密に言えば、厳しい食事制限。


いつも優しく柔らかだった母が、ただひとつ見せた、かたくななこだわり。

幼い私を唐突に襲い、猛禽のように心臓を鷲掴みにした疑問の原因。


その答えを知るためには、私は、自らの家系について深く知らなければならなかった。

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