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第三十話(22~23の途中まで)

一方、その目標地点となっている『機関銃』邪苦はといえば……ただ、それを面白そうに眺めているだけだ。


「さて、どうする気かな」


そんなふうにその口がつぶやいたようにも見えたが……それも、ひたすら進む八助にとっては、関係のないことのようだ。

彼は、特にそれに注意を払うでもなく、進み続けている。


そして…短くも永遠に続くかのように思われた突撃行は、唐突に終わった。


「ありがとな…後は俺一人でなんとかなりそうだ」


それまで支えてくれた援助者にあっさりと別れを告げ、


そして、橋本八助は再び宿敵に向かい合った。

今度は、砲撃どころか、組み討ちを回避することすら難しいほど、近接した距離である。


その息は、荒い。

強大な威圧を感じながらの前進は、わずかな距離でも体力を消耗したのか、少年は肩で息をしている。


そして彼は、その苦しそうな呼吸の中から言葉をひねり出した。


「勝負……延期にしようぜ」

「まだそれを言うか」


待っていたのは、予想どおりの冷たい反応。

さっき砲撃までして、拒絶を示されたばかりなのだ。

距離が近づいた程度で、その対応が変わるわけもない。


だが、そこで八助が動いた。


がしり、と。

彼は、交渉相手の肩をその手で掴んだのだ!

その相手は、つい先ほど島の大半を吹き飛ばすほどの破壊力を見せたばかりだというのに……!


「何度でも……言うぜ。延期にしろ…してくれ……」

「放し給え」


当然拒絶される。

半機械の料理人の言葉遣いはフザケているようにも聞こえるが、その眼差しは冷酷そのものだ。

左肩を八助に掴まれた代わりに、こちらも彼の右胸に右の手を突きつけている。


そしていつの間にか、その右手は新たな大砲へと変じていた。

先ほど、島を吹き飛ばしたのは、この大砲に違いない。


だが、少年はそんなものには見向きもせず、さらに懇願を重ねた。


「頼むよ…アイツが…ラムが大事なんだ。アイツがいてくれたから、俺はまた…料理を好きになることが出来たんだよ…」

「それが吾輩に何の関係があるのカネ?勝負をする気が無いのなら、とっととそこをどいて『食材』を吾輩に引き渡し給え」


冷たく突き放す異形の料理人。

当然である。

この【食卓界】では、『美食』こそが全て。

立身出世も、国の力さえも、その全ては『美食』をどれだけ供給できるかによって決定される。

市民革命を経て、『経済』と『人数』に勝る市民が貴族や王族に勝利した八助の世界とは、大きく異なるのだ。


言い換えれば、この世界では、武力も財力も、『美食』のあるところに集まるのである。

それらの前では、いまだ発展途上な『ローカルルール』にすぎない『人権』などは、このように大砲の前の繰り言に過ぎない。


弱肉強食。

弱者は文字通り、強者の『糧』(かて)となり、その肥やしとなるしかない。

それが、この世界の冷徹なる一面の姿である。


そうした『原則』から見れば、目の前の少女を『食材』としか見ない邪苦の考え方の方が『普通』であり、むしろそれを止めようとする八助の方が『異常』であるとさえ言えた。

しかし、それでも、そんな理屈が分かっていても、異世界人の少年は引き下がらなかった。


「邪苦…正直、今の俺じゃアンタには勝てない。…あんなすごい技を振るえる相手に勝てるわけがない」

「ならば、とっとと…」

「でもダメなんだ!アイツがいなきゃ、もう生きていけないんだよ…!」

「くどいネ」


その時、更なる新展開が現れた。

邪苦が動いたのだ。

とはいえ、右半身を突き出し左肩をしっかりと掴まれていては、いくら超絶技術を振るう怪人といえど、容易には行動を起こせない。

下手に動けば、掴み合いから組み合いに移行したり、ロクでもないことになってしまうだろう。


そこで、凡人ではない怪人は、通常では考えつかないような新たな選択肢を用意したのだ。


右肩でもなく左肩でもない。

新しい彼の『手』は、その両方から『生えて』きていた。

『手』、そう、それは文字通り『手』であった。


銀色の光る『ソレ』は、あるいは回転し、あるいは赤熱して、毒を宿したヘビのように異世界人の少年を狙っている。


そう、半機械の料理人がこの機会に用意したのは、追加の『腕』であったのだ。


新たに出現したその二つの『器官』は、まるで歯科医が使うドリルのような回転音をあげながら、少しずつ八助に迫っていった。

ドリルは細いが鋭く、いかにも硬そうである。


ひとたびアレに接触すれば、まさに八助が嫌うスプラッター映画のようなありさまになってしまうことは、疑いようがない。


だが、少年はその暗黒の未来を予見していながらも、けっしてその手を離そうとはしなかった。

このままでは、自分が最も恐れるような光景が確実に訪れる。

それを分かっていながら。


だが、だが少年の予想がそれだけ、『想像できるかぎり一番ひどい目に遭うこと』だけなのだとしたら……それは甘すぎる予見であったと言うべきであろう。

新しい『腕』とは別に、半機械の料理人は、その右腕をいまだに少年に突きつけているままなのだから。


当然、それは彼の意志次第でいつでも使うことが出来る。

しかも、今度の砲撃は、ほぼゼロ距離である。

先ほどの威嚇射撃と違って、直撃は免れないし、当たれば当然、命はない。


異世界人の少年にも、それを見守る島の人々にも、そんな砲撃に対抗する手段など髪の毛一本すら存在しないのだから。


だから、邪苦は、彼はそれを使ったのだ。

容赦なく、無造作に。

まるで、幼子が何の害もない虫を面白半分で殺すかのように


そして…再度の閃光が走った。


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