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第二十九話(21~22の途中まで)

なんだ、アレ?」

「おお…」

「なんでしょうか…?」


(なんだ…?)


ただ眼前だけに集中せんとしていた八助ではあったが、人々の間に巻き上がったざわめきに、否応なく注意を惹かれてしまう。


「何かが、坊主の顔を這っておるぞ!」

「赤い光が…」

「みなさん何を気をそらしているのですか!今は、私の商売ビジネスがかかっているのですぞ!」


(這ってる?光?)


だが、その内容は、よく分からないものであった。


なんだか勝手に一人で追い詰められている商人のことは置いておくとして……みんなは一体何を言っているのだ?

気になった八助がうかがえば、確かに、なにやら赤い光が見える。

しかも、その光は、どうも自分の顔を這い上がってきているようで…?


(この光…発信源は……邪苦の腕か!?)


原因らしきものは、発見した。

しかし、その目的が分からない。

しかも、それを見ていると、なにやら脳裏に引っかかるものが感じられるのだ。

なんだろうか。


少年は、謎を解明するべく、目前の光景を分析した。


(すぐにダメージが無い。攻撃じゃないのか?赤い…光…まっすぐ……這う…虫…ヘビ?…待て、つまりこれは……!)


八助は、記憶の底をさらってようやくその正体に気づいた。

だが、その直後。


赤い光の発信源、半機械料理人の腕が強く光ったのだ!

いつの間にか大きな穴が空き、赤い光に沿って狙いをつけるそれはまさに…


(しまった!砲口だ!アレはレーザーで狙いを…!)


遅かった。

次の瞬間、強い光が少年を襲った!





(撃たれた…!)


一瞬、目の前が真っ白になった。


(死んだ…のか?)


少なくとも、痛みはない。

何が起こったのか分からぬままに、一歩、足を前に踏み出す。


そこで、ようやく気づいた。


(歩ける……死んでない…?)


足の下には、確かな大地の感触がある。

だが、先ほどの砲撃は?

あれは幻だったのか?


(それとも今が夢で、この感覚のほうが幻覚なのか…?)


わからない。

あの一瞬から視界は戻らず、目も耳もきかないままだ。

何もわからない。

外界が何もわからないから、考えもまとまらず、つまりは何もわからないままで…


(…迷っていてもどうにもならねえ!ここは!)


更に一歩、前に踏み出した。

そこでようやく…視界が開けた。


目の前に見えるのは、相変わらず奇妙な格好をしている敵の姿だ。

"神を喰った料理人"邪苦。

四つの砲門を背負い、皮肉げな笑みを浮かべたその姿には何の変わりもなくて……いや、違う?


よく見れば、違いはあった。

その右手は、指差す形を作っている。


(指指す先は……左後ろか!?)


少年の後方。

そこには確か。


(凍りついて落ちたおっさんの、"包丁王"ブラーサームの右手が落ちていたはず……ない!?)


そこには、何もなかった。

グロテスクなオブジェとなっていた右手どころではない。

何一つ存在しないのだ。


岩だけの海岸は大きくえぐれ、そこには巨大な穴だけが空いていた。

黒く固く、何よりも堅固であったはずの大地が…そこにはもうなかったのだ。

疑いようがないほど、確かであったはずのものが。


その時、ようやく八助の聴覚が復活した。

少年の世界に、音が蘇る。


轟音がとどろいた。

押し寄せる波が、早くも欠落を埋め、その存在感を主張していた。

たった一瞬、八助が一歩を踏み出すだけの間に…地形が変わっていたのだ。


先ほどの砲撃は、幻などではなかった。

あの半機械の料理人は、たった一発の砲撃で、ブラーサームの右手を消し飛ばし、島を削り、そして…


(島が…小さくなってる…)


島の面積を大幅に縮小していた。

もうそこは、新しい湾だ。

大地などは無い。

つい先ほどまで大地があったことの方が幻であるかのように、打ち寄せる波がとどろき、叫んでいるだけだ。


「ゴミが落ちているのは不衛生だからネ。消毒させてもらったよ」


現象を引き起こした張本人は、そんなことを言う。

それはまるで『自分はちょっとボランティアをしただけだ』とでも言うような、気軽さであった。


八助は、思わずツバを飲み込んだ。

少年の前には、変わらず二門の砲口が並んでいる。

その大砲は、目の前に立ちはだかる半機械の料理人の肩から生え、冷たい輝きを放っていた。

それは、歴然たる脅威であった。


だが、少年は迷わず歩んだ。

彼は一歩ずつ、少しずつ、眼前の脅威に向かって近づいていく。


料理人の肩越しからは、海岸に漂着した黄金の皿が見えた。

巨大な骨が飾られたそれは、もはや神業の記念碑というより、死を象徴するオブジェでしかない。


オブジェは告げる。

この先、お前に待っているのは『死』のみであると。


けれども、少年はその忠告を無視した。


少しずつ、少しずつその『死』を目指して突き進んでいく。

もちろん、そうやって進む自分を支えてくれるブラーサームをねぎらうことも、忘れない。


「もう少し…もう少しだけ付き合ってくれ!ブラーサームのおっさん!」


まるで、機関銃に突撃した昔の兵士のような無謀さ。

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