第二十三話(16~17の途中まで)
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そして、少年は、結晶の雪が舞う海岸を背にしたながら、断言した。
「今までほとんど気づいてなかったけど、俺はすごくたくさんの良い人達に出会うことが出来て…そのみんなに支えられていた。だから俺は、伝説の料理道具なんて、必要ないぐらい……恵まれてるんだ」
「それが、貴方の答えですか。ラムさんを守るための力の問題はどうするのですか?その"運"頼みで生きて、片っ端から人に頼るとでも?」
追加の質問。
少年は、それに間髪を入れずに返答した。
「ああ、そうだ。流石に、この世界の全員が力を貸してくれるとまでは、俺だって思わない。だけど、最初から『守るために戦わなきゃならない』とか『全員が競争相手だ』とか、別にそんなふうに思いつめなくても良い。そう、俺は思うんだよ。なにしろ……」
もう"最後の質問"はしたんじゃないのか?などといった茶々は、ここでは不要だ。
包丁少女コルセスカは、自分の身を本気で案じてくれている。
異世界人の少年は、これまでの彼女の言動から、それを感じ取っていた。
だからこそ、ここは率直に自分の思いを語るべきなのだ。
八助は、加速した時間についてこれなくて彫像のように硬直したままの料理人・ブラーサームの手を握り、言葉を続けた。
「出会ったばかりの人まで、こうして助けてくれたんだからな!それを思えば、世界中誰とでも友だちになれるはず!そう思えてこないか?」
そう、続けたのだが……。
「……」
「あれ?」
「……」
「あ、あのー。」
「……」
「と、俺は思うんだけど…思うんですが、その、いかがでしょうか?」
期待したような色良い反応は、返ってこなかった。
そこにいるのは、ただ、無言で見つめてくる少女。
やはり、八助が率直に…言い変えるなら衝動的に語っただけの発言だけでは、説得力が足りなかったのか?
そんな無言の圧力に耐えきれなくなった異世界人は…
冷や汗を流し…
キョロキョロと目をさまよわせ…
うろたえた後…
ようやっと、しどろもどろに追加の解説を話し始めた。
「その、なんだ。話せばなんとかなる…こともあるんじゃないかと思うんだよ!ええっと、【世界…知的生物権利…なんとかもあったはずだし!」
「【世界知的生物権利条約】ですね。かつては食材扱いされていた知的種族が、度重なる反乱や戦争、そして様々な状況での社会への貢献によって認められ、ようやくその権利を認められるようになった証拠と言える条約。なるほど、国際社会に訴える方向性を考えていたのですね。」
「あ、ああ、そうそう。コクサイテキなアレだよ!いやぁ~さすがは伝説の【コルセスカ】さん、」
「……まあ、良いということにしておきましょう」
まともに応答することすら出来なかったがけれど、とりあえず胸をなでおろす少年。
実はまだ、包丁の少女は、未だにそれを冷たい目で見つめ続けていたのだが……なんとか問答を切り抜けられたことん安堵する少年の目には、そうした姿は全く映らなかったようだ。
とりあえず、勢いで会話を続ける。
「お、おう。いや、そうしていただけると助かります!」
一度反射的に放ってしまった答えを、あわてて丁寧な表現に言い直し、なんとかお茶を濁そうと試みる少年。
努力はしていても、会話の流れはズタボロである。
そしてどうやら、この短時間の質疑だけで、すっかり相互の立場というものが決定してしまったようだ。
そうして、話が一段落したところで、包丁の少女は、再度の問いを放った。
「それで、これからどうするつもりですか?」
それは、最終確認の質問なのであろう。
少年は、それに対しても気負わず、さらりと答えた。
「どうすれば良いかわからないけど、アイツの夢と…いや、違うな。"夢を見るアイツ"と出来るだけ向き合ってみようと思うんだ。俺には、あの料理人二人のように命をかける夢は無いし、それを欲しいとも思えない。だから、夢のことは俺には良くわからないんだけどな」
そこで少年は、かがみこんだ状態から、完全に立ち上がった。
その動作で、胸ぐらを掴んでいた少女の腕が外れる。
そのまま、八助は話を続けた。
「昔からの夢を心の支えにしたり、追い続けることだって悪くはないと思う。
だけど、それでも別に幸せになるのに夢を追ったり叶える必要は無いと思うんだ。たとえなんにもなくても、それはそれで悪くないって。だから……きっとアイツにも夢以外の幸福を見つけて…いや、それも違うか」
「違うのですか?」
氷の少女の問いかけに、少年はうなずいた。
「そう、一緒に探していこうと…探させてもらおうと思うんだ。ちょっと身勝手な話かもしれないけどな」
「それは、貴方のワガママなのではないですか?」
またもうなずく。
「もちろん、それは俺の欲望だ。だけどそれを言っていたら、困っている人に声一つかけることだって出来ないだろう?
俺の欲望が勝つか、アイツの夢が勝つか。旅で今まで見なかったものを見て、知らなかったことを知れば、アイツも変わるかもしれない。
今は死にたがっていても、他にやりたいことや生きる望みを見つけられるかも知れない……俺みたいに」




