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第二十二話(15~16の途中まで)

しかし、包丁の少女はそんなことに構わず、立て板に水を流すように、高速でまくし立てた。


「この試練は、逃れられない過去と向き合ってそれと闘う試練です!見れば分かるでしょ!それを叩き割ってどうするんですか!格好つけてもなんにも解決してないじゃないですか!言っておきますが異世界人だからという言い訳は通用しませんよ!私も異世界文化くらいは研究してますし、第一、たった今貴方の過去を【鏡】で確認させてもらったばかりですからね!全部割られちゃいましたけど!

だいたい今まで…」

「ちょ、まっ…」

「いいえ待ちません!鏡】の試練を攻略して力を手に入れなきゃならないっていう話の流れでしたよね!そうですよね!私間違ってませんよね!それをいきなり叩き割るとか……」

「ぐ、ううう…」


「なにが『ううう』ですか!馬鹿なんですか馬鹿なんですね!馬鹿でしかありませんね!なんでそんなに馬鹿なんですかー!!!一時の思いつきで衝動的に行動して、それで良いと思っているのですか!だいたい貴方は・・・」


「ま、待って、ちょっと待ってくれ!俺の言うことも聞いてくれよ!」


橋本八助は、ここでようやく激流のような少女の説教を遮った。

少年は、まだ言い足りないらしく鬼神のような眼光でこちらをにらみつける【コルセスカ】を相手に、なんとか弁解を試みる。


「考えたんだけどさ、俺には試練なんて必要ないんだよ」


「んん~?」


疑い深そうな視線。

岩をも貫きそうなその眼光に脅えながらも、異世界人の少年は、話を続けた。


「なんて言えば良いかわからないけど……ラムが自分を食材、モノ扱いするのをやめさせるための旅なのに、【羊人】をモノ扱いする料理人になるというのは、なんだか違う気がするんだ」

「ふむ、確かにそれは一理ありますね」

「だろ!それで…」


「ですが、それはそれ。現在の【食卓界】が美食を最高の価値観としている料理人が有力な世界である限り、そこで力を持つには料理人になるしかありません。貴方は、武力を持つ貴族でも、食材を生産する生産者でも無いのですから。

それとも、貴方はそこのヒトたちみたいに、最近力を得てきた商人にでもなると言うのですか?それとも、漁師に?」

「い、いや、俺にはそんな才能は…」


加速している二人に取り残された島の人びとを指差した少女の問いに、うろたえる少年。

その反応を確認して、包丁少女は話を進めた。


「でしょうね!まあ、たとえそちらの才能があったとしても、成功して認められるまでには何十年と月日がかかるでしょう。それにそもそも【羊少女の心臓】などの高級食材の管理は、公認された最高の料理人の専売特許ですし!」

 

「なら、なんで聞いたんだよ…」


「それはもちろん、貴方に、ものの道理を分かってもらうためです!」

氷の少女は、ここで八助の胸ぐらを掴み、その瞳を覗き込んだ。

そうやって逃げ道を完全に絶った上で、少女は、【氷晶包丁コルセスカ】は、少年に最後の問いかけを挑んだ。


「これで最後の質問、最後のチャンスです。【羊少女】のラムさんへの恩を返すため、彼女への責任を果たすため、私の試練へ再挑戦しませんか?

これが、本当に最後の機会です。この【氷晶包丁コルセスカ】を獲得出来る試練なんて、今を逃したら後一年は、いいえ、もう一生受けることは叶いませんよ!」


今までで一番、語気が強い少女の問いかけ。

それを少年は、静かに受け止めた。


「確かに、俺にはラムへの責任はある」


「では、貴方は、その責任を果たすために、力を手に入れるべきです。もう一度だけ【鏡】を作ってあげますから、それを使って…」


だが、それに対して八助が返した答えは……


「いや、それは要らない」

と、きっぱりとした拒絶の言葉であった。


「これだけ言っても貴方はまだ…」


そこで、少年は中腰の姿勢を止め、立ち上がる。

「確かに、今の俺は、責任から逃げているのかもしれない。俺たちのこれまでの旅は、ただの、責任から目をそらすため逃避行だったのかも」


そして、自分の胸ぐらを掴んだままの少女を見つめながら、言葉を続けた。


「でも……これからは、違う」


「その断言、何か根拠があるのですか?」

「残念だけど、今は特に無いんだ」


答えながら、苦笑いを浮かべる八助。


「ならそれは、ただの無責任なワガママです!」

当然、そんな返答で満足するわけもない。

食い下がる、氷の少女。


「否定はしない。けど、それだけじゃない……気づいたことがあるんだ。大したことじゃないんだけどな」

「……それはなんですか?」


問いかける少女の眼光は、ひどく鋭い。

その眼は、それがくだらないことだったら、このまま泣くまで貴方を殴り続けると語っているようであった。


だが、異世界人の少年は、その気迫にも揺るがない。


そのまま彼は、少女に向き合ったまま、左手で自分の後方を指差した。

それによって指摘する。

先程、自分が気づいた、違和感の正体を。


「ほら、俺って、結構運が良いみたいなんだ」


「ああ、気づいていたのですね。ひどく混乱されていたようですから、このまま一生気づかれないものだと思ってました」

「それはひどいな。まあ、あの【鏡】が、ひどくゆっくりと回ってたことには最初から気づいてたさ。……気を使ってくれてたんだな。ぶつかるまで、そんなことにも気づけなかった」


「"彼"は、【高速調理時間】(ラディカル・クッキング・タイム)に入ることが出来ませんでしたからね。それでも、とっさにこれだけ動けるのは、流石と評価すべきなのでしょうが」


そこで、少年は後ろを振り向いた。

そこにあったのは、いや、そこに居たのは……一人の男だった。


片手が落ち、隻腕となった料理人、"包丁王"ブラーサームがそこに居たのだ。

――――その両手を前に突き出し、全力で"誰か"を支えようとするような、そんな体勢で。


彼が誰を支えようとしていたのか、そんなことは、考えるまでもない。


そして、異世界からの迷い人、橋本八助は目を細め、顔に笑みを浮かべた。

それはまるで、まぶしいものを見ているように。


「な、俺って、すごく幸運ラッキーだろ?」


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