第二話(1の最後まで)
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そう、それは異世界人の料理人【橋本八助】とそのパートナーの羊少女【ラム・スケープシープ・ヤミーミート】が、この北辺島を訪れたときのことであった。
と言っても、彼らは直接的にこの試練に参加したわけではない。
彼らがこの島の試練に関わったのは、あくまで行きがかり上のことであった。
八助とラムは、北辺海を航行中に海賊に襲われた。
嵐と怪物の襲撃にまぎれ、辛くも海賊からは逃げ出したものの二人は難破し、漁師の老人とその孫娘に助けられてようやく命を拾うことが出来たのだ。
だが、彼らの恩人である漁師は、悪徳商人に騙され多額の借金を背負っていた。
その借金を返済する唯一の道こそ、北辺島の【コルセスカ】へ挑む試練……に参加する悪徳商人のため、食材を用意することであった。
そう、八助たちは、べつに試練に参加してはいなかったのだ。
そもそも、北辺島の試練は、辺境の数少ないイベントとして形骸化して久しい。
一向に成功者が出ない試練、それも都より離れた辺境の中の辺境の地の祭事に、わざわざ参加する者など、もとより実力が無いごろつきや面白半分の参加者しかいなかったのだ。
だが、その日、その朝だけは違った。
それは、八助たちが調達した【ブルーダイヤモンド・マカジキ】を悪徳商人が雇った料理人【包丁王ブラーサーム】が見事な刺し身にした、そのすぐ後のことであった。
その時、伝説の魔包丁【コルセスカ】は確かにブラーサームの前に現れた。
【ブルーダイヤモンド・マカジキ】をも上回る美しい蒼い輝き、その全てが特殊な水晶で出来た刀身。
それこそが、まさに伝説に謳われる厨具であることは疑いようがなかった。
ブラーサームは、そしてそのスポンサーの悪徳商人は、自らの勝利を確信した。
だが、その次の瞬間……!
「それは、お前のようなクズ料理人には、過ぎた道具だ」
突如として現れた謎の料理人が、宙に浮かぶ【コルセスカ】を掴み取ったのだ!
その人物は、奇妙な服装をしていた。
それは、一見しただけでは、コック帽にコックコートと、ごく基本的な料理人の格好に見えた。
だが、その服装のあちこちには金属がくっついており、その背からは、三つの金属棒が伸びていた。
そして、その棒には不可思議な金属の羽が生えていて、まるで車輪のようにぐるぐる回っていたのだ。
「ジャークックックックックックッ!」
その怪人物は、奇妙な笑い声をあげた。
そして、続けて高らかに名乗りを上げたのだ。
「我輩こそは、史上最高の料理人になる男、”神を食った料理人”邪苦・クックである!」