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第十五話(9~10の途中)

「やれやれ、やっと終わったな」


異世界人の少年、橋本八助は伸びをした。

故郷へ帰還する手がかりをつかむための旅の途中で、とんだ事件に巻き込まれたものだ。

だが、事件はもう収束した。


番狂わせの飛び入りこそあったものの、試練自体は無事終了したのだ。

せっかく調達した【ブルーダイヤモンド・マカジキ】こそ、【オルカ】のエサとして使われたものの、それを確保する依頼自体は見事達成している。


八助は、恩人である老漁師の借金返済を手助け出来れば、それで良い。

試練の勝利者が誰であっても、構わないのだ。


試練の中で右手を失った"包丁王"も、敗北こそしたもののどうやら元気なようであるし、彼としてはこの結末は上々だ。


元々試練とは関係ない部外者であることもあるし、あとはただ島の人々に別れを告げて旅に戻るだけ。


橋本八助にとって、この事件はそうして思い出になるだけのイベントである……そのはずだ。


だが、そこで呑気に伸びをしている彼に、意外な声がかけられた。


「何を、他人事のように振る舞っているのかね。次は君の番だよ」

「え?」


間の抜けた声を出してしまう八助。


それはどういう意味なのだ?

すっかり傍観者気分でいた少年は、反射的に問い返した。


「おい、"神喰い"のおっさん、試練はもう終わったはずだぜ」

「誰がおっさんかね。確かにこの島での試練は終わった。だが、だからといって別の勝負を始めてはいけないわけもなかろう」


「別の勝負?」

「寝ぼけているのかね?いくら異世界人とはいえ、この【食卓界】で料理に携わっている以上、料理人としての"掟"が何かぐらいは分かっているだろうに」

「料理人としての"掟"?……まさか!」


驚きの色をあらわにする八助に対して、"神を喰った料理人"は、ただ一つの動作をもって、その答えとした。

つい、と上げたその指先。

そして、彼の背部から生えた三本の機械腕マシーンアームは、全て同じ対象を指差したのだ。


『ラム・スケープシープ・ヤミーミート』


すなわちそれは、【北辺島】の海岸にたたずむ一人の『羊人』の少女であった。


「そうか、『羊少女の心臓』……!」

八助がもらした言葉に、島の人々はどよめいた。


「ワタクシも聞いたことがありますぞ!伝説の食材【羊少女の心臓】!食べれば永遠の命を得られるとも、世界を支配するとも噂される最高峰の食材のひとつ!」

「おい待て、けどさっき解放されたとかなんとか言ってなかったか?」


「うむ、そもそも【羊人】のような知的生物は、現代では【世界知的生物権利条約】によって保護されるはずじゃ。それでも地方によってはまだ食材としか見ないところもあると聞くが、そうした古き習慣ならわしも、結局はあちこちで正されているらしいな」

「そういえば、エーラマーン(=風の噂)によれば、【羊人の里】の領主は、料理勝負で未知の調味料で負け、里に対する権利の一切を失ったとか……まさか、あの少年が!」


「そういうことじゃろうな。古き習慣には古き習慣で対抗できる。"料理勝負で勝った料理人は、食材の所有権を持つものとする"あの少年は、それを利用して【羊人の里】を解放したのじゃろう。だが……」

「【羊人】の権利をかけて、もう一度勝負を挑まれたら……!」


つまるところ、新たな料理対決の条件が、今ここに整ったのだ。

人々の視線、そして期待が一点に……異世界人の少年のもとに集まる。


彼、橋本八助の実力は、ほぼ未知数ではある。

だが、その腕前は、つい先ほど他ならぬ邪苦がその腕前を褒めたばかり。

勝負が行われれば、かなり良いところまで行くのではないか、この場合、そう期待が集まるのは当然だろう。


誰しもが、少年が英雄的に立ち上がり、勝負を雄々しく受けて立つところを想像した。


だが……


だが、当の少年はといえば……その実態は、期待される姿とは大きく異なっていた。


顔面は、蒼白。

その表情はひきつり、良くみれば、手足にも細かな震えがある。

まるで、いや、どう見ても怯えているかのよう。


この時、異世界から迷い込んだ少年、橋本八助の脳裏によぎったことは、そう多くはない。

少年に浮かぶ思いは、たった一つだった。

それは……



もうだめだ。

俺じゃ勝てるわけ無い。


八助は、胸中にて独白した。


続けて、嘆く。


異世界転移経験者が、みんなチートな力を持ってるとは思うなよ!

なにせこちとら、転移直後にこの世界の病気に感染して、1ヶ月くらいずっと看病されてたんだぞ!

チートとかあったら、そんな目に遭わねえよ!


俺は、海外旅行の最終日に、路上で『驚くような料理を食べさせてくれたらなんでも願いを叶えますよ』とかいう、胡散臭い料理勝負に憂さ晴らしで参加しただけなのに……。


気づけば、異世界。

そして、この有様だ。


異界転移のきっかけになった料理勝負にしても、イタズラ心で日本から持ち込んだ駄菓子を料理に振りかけたのが、面白がられただけだし、俺に、あんな料理スーパーマンに勝てる料理の才能も技術も何もねえよ!


確かに、料理の専門学校ぐらいはお情けで出ちゃいるが、あんまり成績は良くなかったし、卒業祝いの海外旅行でもあちこちで働いてもみたけど、腕前は全く評価されなかったからなぁ……


今さらだが、やっぱどう見てもヤバいものはヤバいんだよなーああ、俺のバカー!!

なんでこんなことにー!


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