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第十二話(7~8の途中

【食卓界】の辺境、【北辺島】の空気は重苦しく沈んでいた。

次々と来襲した怪事件も、それに驚愕する人々の声ももはや途絶え、今、島を支配するのは、吹き荒ぶ【北辺海】特有の海風だけだ。


しかし、その騒がしさも、人々のざわめきが途絶えた静寂をかえって強めるだけであった。

海岸に打ち寄せ砕け散る波の音も、吹き荒れる風も、人の声の代わりにはならない。

島に満ちる音こそが、そこに欠けた音の存在を逆に強調していた。


状況を整理しよう。


これまで誰も成功したことがない北辺島の秘宝、【氷晶包丁コルセスカ】

だが、それを獲得し、あまつさえ完全に使いこなしてみせたのは、鳴り物入りで【コルセスカ】の試練に挑戦した都の料理人ではなく、どこの誰かも分からない奇怪な料理人だったのだ。


そして、彼が都の料理人に行った【コルセスカ】の扱い方についての問いかけ。

その問いかけには、料理人としてのプライドが賭けられていた。


しかも、この【食卓界】では、料理人としての器量を軽んじられること、つまり俗に言う『鍋の軽重を問われる』ことは、他の世界より遥かに重い意味を持つ。


この世界における料理人は、ほとんど特権階級に近い。

誰もが美食の追及に血道を上げている世界であえて【料理人】を名乗るということは、それ相応の腕前と知識、そして人格や責任を要求されるということでもあるのだ。


そして、今、機械なる料理人邪苦は、都にて認められた料理人であるブラーサムに対して料理道具の扱いについて質問を投げかけている。

これはすなわち、戦士に武術の腕前を、あるいは王にその統治能力を問うに等しい試みであると言っていい。


"神を喰った料理人"は、"包丁王"に、今、質問という形で挑戦しているのだ。


もし、それだけの重みのある問いに答えられないとすれば、それは己に料理人としての資格が無いことを告白するのに等しい……!


料理人としての資格の喪失、それは、この【食卓界】においては、死に等しい悲劇である。

実際、この世界において、傷害または解雇による料理人資格の喪失は、自殺理由ランキングの不動のワースト1を占め続けている。


いわば、邪苦は、この質問によってブラーサームを殺そうとしているのだ!


「さあ、早く答えてくれたまえよ"包丁王"クン。こんなどこの馬の骨とも知れない料理人のちょっとした工夫など、キミのような都会人なら造作もなく答えられるはずだろう?」

「ぐ、ぐむむ…」


答えねば。

"包丁王"ブラーサームに残された選択肢は、もはやそれしか無い。

間違った答えをしてしまえば、彼の料理人としての、いやこの【食卓界】に産まれた人間としての生は、完全に終わりを告げる。


だが、解答を拒絶することも、また出来ない。

格下とされる一般の料理人からの挑戦を受けて立たないことは、名誉に関わる。

しかも、町中やそれこそ都で突然挑まれたならまだしも、この島は、マイナーとはいえ料理道具をめぐって争うれっきとした試練の場である。


このような、いわば正式な場で【料理問答】から逃げることは、料理人として、決して許されない行為なのだ…!


だが、そんな張り詰めた空気を全く読まずにブチ破る者が、ここに現れる。

その時、唐突にその場に響いたのは、どこか呑気な少年の声であった。


「ふわぁぁぁー」


まず、あくび。

続けて


「どうでもいいけど、まずは早いとこ朝飯にしたいんだけどな。こちとら、光線とか凍ってる包丁とか無い世界の出身なんだ。そんな話はとりあえず一旦保留にして、朝食にしないか?せっかくスープを作ったというのに、これ以上冷めたらたまんないよ」


料理人の名誉を賭けた問答が行われようとしているのに、この態度。

それは、あまりにも場の情況を無視した、傍若無人な発言であった…!


当然、発言の主には島中の視線が集中した。

橋本八助、異世界人の少年は、緊迫した場の雰囲気やこの【食卓界】の常識をものともせず、自分の主張を押し通したのだ。

それに対する風当たりは、当然厳しい。


「は、八助様!」

「小僧、急に何を!」


元々八助に友好的なラムと老漁師でさえその無作法さには戸惑ったし、助け舟を出された当の"包丁王"は、なおさらこの唐突な行動には困惑を隠せなかった。


ましてや、都の料理人をわざわざ挑発していた邪苦にとっては、その行為はどれほどの不快感をもたらしたのだろうか?


今、島の人々の関心は、"神を喰った料理人"の動向だけに絞られていた…!

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