第十一話(7の途中まで)
そして、異形の料理人邪苦は、叫んだ。
「言ってくれるな!だがそうだ。その通り、吾輩は料理の説明をするのが大好きなのだよ!なぜなら!」
そして、彼は海を指差した。
「料理長は、料理の説明をするものであり!」
すると、また変異が起きた。
天に穴が空いたのだ。
それまで分厚く立ち込めていた雲が途切れ、太陽の光が海へと落ちた。
それは、まるで…
「光の柱!」
そして、島の人々は知ることになる。
その光は、舞台を照らし出す舞台照明であることを。
「あ、あれは一体…!」
先程まで動揺していた商人でさえ、思わずあっけに取られた。
誰もが海に出現した"物体"に驚嘆するなか、漁師の孫娘は、海に見えたモノを端的に表現する。
「海が金ピカだな!」
そう、天より落ちてきた光の柱が照らし出したのは、黄金に変じた海であった。
正確に言えば、海の一部が盛り上がり、金色に輝いていたのだ。
それはまさに、
「花のようだな。だが、どこかで…」
都の料理人ブラーサームは、感慨にひたりながらも、首をひねった。
あの光景、明らかに初めて見るものだ。
だが、アレに酷似したものを、どこかで、確か都で見たことがあるような…?
その答えをいち早く告げたのは、羊少女のラムであった。
彼女が生まれ育った文化は、この世界のなかでも特に『食』に詳しい。
その知識の中心は『食材』であるが、真に『食材』を知るには、その"周辺"にも通じる必要がある。
その彼女の知識から導き出されたあの金色の正体とは、すなわち――――
「お皿です!」
「ご名答!そうだ!あれは先ほどの【アイスクラッシュ・オルカ】を供するための"器"なのだ!王には玉座、名料理人にこそ伝説の包丁、そして!【北辺海の主】ともなれば、それ相応のモノを用意せねばな!」
すなわち、海から"咲いた"あの金色は、天に向き合うあの人造の向日葵は、これより天から降り注ぐ【主】の刺し身を受けるためだけに形作られた皿なのだ。
「だが、あれだけの大きさの皿をどうやって?」
そう、海に咲いた黄金の向日葵は、明らかに巨大であった。
先ほどの【北辺海の主】もかなりの大きさであったが、これは、それさえも比較にならないほど大きい。
あれが"皿"だとして、あれだけの大きさのモノをどうやって海に運んだのか?
そしてそもそも、どうやって作ったのか?
その答えを告げたのは、冷静さを取り戻した都の料理人であった。
「…先程の光線だ」
「ブラーサム殿!?」
【コルセスカ】のせいで右手首を失った"包丁王"は、状況の解説を続けた。
「先程、あの邪苦が放った二種の光線、あれが海底をえぐり、そこにあった鉱脈を加工したのだろう。アレには最初から攻撃以外の意図があったのだ」
「そうか、【北辺島】は金の産出地!」
「その周囲の海底に、金脈が走っていてもおかしくないと言うわけか!」
島の人々の反応に、話題の中心となった"加工"をやり遂げた当人は、ニヤリと笑い、うなずいた。
「その通り!この【ペレケテンヌル】という神、なかなか使い勝手が良い道具でね、電波探知も音波探査も自在、そして、こうして丁度いい皿を作るぐらいのことも、文字通り朝飯前なのだよ!」
「神のものとしか思えぬ力を、こうまで自在に操るとは…"神を喰った"というのは、まさか真実なのか…!?」
「信じぬのなら、それでも良いがね。さて、それでは"包丁王"クン?貴様が、いやキミは分かるのかな?」
真相を解明しながらも、その衝撃的な事実に驚愕を隠せない"包丁王"
だが、謎を解き明かした彼を襲うのは、更なる謎であった。
「吾輩が、いかにして【主】を解体したのか、【コルセスカ】をいかにして使いこなしたのか?無様にも右手を砕かれたキミに、理解できるのかな?」
果たして、一度【コルセスカ】を使うことに失敗したブラーサームは、伝説の氷晶包丁の謎を解き明かすことが出来るのか?
「それは……」
「それとも、所詮クズはクズ、食器の作り方は分かっても、料理法については一から十まで教えてあげないといけないのかなぁ?」
「ぐっ……」
黙り込んでしまう"包丁王"
【コルセスカ】の使い方が分かっていれば、最初から右手を砕かれるようなことになるはずもない。
それが分かっていて、それを問いただす邪苦は、確かに腕が立つ料理人であり、偉業を成し遂げた人物であるとも言えるのかもしれない。
だがその性根は、疑いようもなくねじ曲がっていた。
「さあ、早く答えてくれよ"包丁王"クン?キミは都の料理人なんだろう?さっきのように、ご自慢の知識と観察眼を、吾輩に披露してくれたまえ、この馬の骨にね」
「ぐ、ぐぬぅ…」
執念深く問い詰め続ける半機械の料理人に対して、ブラーサームは黙り続けることしか出来ない。
誰か、この暴虐を止められる者はいないのか?




