第百三話(その2の21~22の途中まで)
テツモリさんは、何度も家を出て行き、『主』の討伐に挑んだ。
もちろん、時系列から考えてそれが成功するはずはない。
あの『主』は、やがて私たちの目の前で、解体調理されることになるのだから。
しかし、それを知っている私の目から見ても、彼の熱意は並々ならぬものがあった。
テツモリさんは、次々と武器を買い替え、新しい手段を試し…その度に返り討ちにあいながらも必ず生き延びた。
それは、間違いなく彼の執念のたまものだ。
やがて、一つの転機が訪れる。
限界だ。
熟練の漁師にして戦士であるテツモリさんも、寄る年波みには勝てなかった。
まだまだ普通の漁なら誰にも負けないとしても、流石に死線をくぐる『主』狩りは、厳しくなってきたのだ。
彼も、孫を何人も持つような年齢となり、体力や情熱が不足し始めたと言えるだろう。
具体的には、それは病という形で、その老いた身体をむしばむようになってしまったのだ。
更に、討伐手段の新しいアイディアやそのための資金も不足してきていた。
討伐の資金については、ナギサさんや友人たちに借りていたのだが、それにも限界があった、というわけだ。
そのため、テツモリさんは、無念ながらも討伐をあきらめざるを得なくなってしまった…はずだった。
だが、実を言うと真の転機はその先にこそ、存在した。
失ったはずの若さと情熱、そして体力と資金難を一挙に解決しようという人物が、ここに現れたのだ。
テツモリさんの孫娘、イサナさんの登場である。
彼女の父親ーーテツモリさんの息子さんは、どこかの誰かさんに良く似て反抗的で、『主』狩りには非協力的だった。
だが、その娘である彼女もまた、自分の父親に対して反抗的だったわけで……
「なあジイちゃん。
あと一回だけ、最新型の兵器で挑んでみて、それでダメだったら諦めようぜ!
病気?
アタイが着いていけば、一回くらいはどうにかなるだろ!
親父のせいで諦めた復讐だ。
ヤツがやらねえ以上、アタイがカタをつけるのがスジってもんだろ?
ジイちゃんの親友の仇を取ってやろうぜ!」
と、彼女から出てきたのは、そんな豪気なセリフだった。
誰と誰の血を引いているのか、良く分かる。
もちろん、彼女に反対する者は多かった…というか知り合い全員が一度は止めようとはしたが、それも結局失敗に終わる。
彼女は、得意の相撲とバクチと携帯している凶器によってあらゆる反対を物理的に押し返し、祖父と一緒に旅立っていったのだ。
そして二人は、めいっぱい借金をしてモリや兵器を買い集め、『主』を求めて【北辺海】をさまよった。
…が、誤算があった。
近頃、流れてきた海賊の存在である。
彼らは、このあたりの荒そうとしていたのだが、その行動が『北辺海の主』の行動パターンを大きく変化させたのだ。
そう、ハシバミさんたちが襲われたのと同じケースである。
結果として、二人は『主』をなかなか捕捉することが出来ず、逆に借金の返済期限に捕まることになってしまう。
しかも、よりによってイサナさんは、自分自身を借金の担保していた。
そのため、そのままでは危険なところだったが…天の助けか、ここで、彼女たちを助ける者たちが現れる。
言うまでもなく、海賊に捕まっていた私たち二人組である。
彼らは、恩を返すため、危険な【北辺海】の秘宝回収ツアーの手助けを申し出た。
それによって借金を返そうというもくろみだ。
後のことは、語るまでもないだろう。
これが、私たちが助けられるまでにあった事情全て、というわけだ。
最後に、私の目に焼きついたのは、テツモリさんが楽しそうにモリをたくさん投げている姿であった。
良いなぁ…気楽そうで。
羨ましい。
いや、実は今の彼の内心は、楽しさどころじゃなく、復讐心や義理でもなく、イサナさんを心配する気持ちでいっぱいなことは、こうやって追体験している私には、丸分かりではあるんだけど。
ともかく、これで回想が止まる。
今度こそ終わりのようだ。
…いや違う。
今こそはっきりと分かった。
この回想の停止は、私がやったのだ。
どうやら、ちょっとしたコツさえ把握していれば、後は強く願うだけで、回想をある程度操れるらしい。
私の『心臓』のおかげだろうか?
ともかく、これで少なくとも、私はこの"記憶の泡"から出られるようになったわけなのだが……今はまだ、その時ではない。
なぜなら……
〈どうだ嬢ちゃん。
ありふれた平凡な人生でも、上手く切り取れば、転落まっさかさまな悲劇ってヤツに見えるだろう?
記録によれば、異世界じゃこういった映像の切り取りや加工の技術なんかは、良くあるものらしいぜ。
いやぁ、気をつけたいねぇ。
うっかり下手に信じたら、だまされてどんな目にあわされるか分からねえからなぁ〉
「…そ、そうですね…気をつけたいですね、ええ!」
どうしよう。
今、私の堪忍袋の緒が切れそうなんですが・・・・・・
まさか、あれだけ引っ張られたその内容が、家族のなごやかな思い出とお孫さんとの仲良し海上ピクニックだったとは…これはさすがに、怒っても良い場面ですよね?




