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第百一話(その2の19~20の途中まで)

〈それで自分てめえの『心臓』を料理させようって、あのあんちゃんにつきまとっていたのか。

それはやっぱり、間接的な自殺なんじゃねえのか?

母ちゃんの『正しさ』が、世間に認められた価値じゃなくなったから、それを証明してこの世からオサラバしようって寸法か。

そしてそれは、復讐でもある。

母ちゃんの価値を認めようとしなかったヤツらへの当てつけだな。

お前さん、わざわざ悲劇的に死んで、自分てめえを裏切った世の中相手に、『お前らのせいで私はここまで自暴自棄になるしかなかったんだ!その罪を自覚して存分に後悔しろ!』って、思い知らせてやるつもりなんだろ?

随分とまあ、これまでちやほやされてきたんだなぁ?

そんな発想、いつも周囲に注目されて面倒見られてきたヤツじゃないと思いつかねえぜ。

普通は、ただギョッとされて避けられて終わりだ。

道端の行き倒れみたいにな〉


「…それは、そうかもしれません……

私の願望は、結局ただの甘やかされた子どものワガママに過ぎないのかも……

確かに、私は、彼に『理想の救世主』の役割を無理矢理押し付けていました。

私が彼にとって『理想のヒロイン』で無かったように、彼もただの普通の男の子で…ただ故郷に帰りたいだけの迷い人だったのでしょう。

今更そんなことに気づいても、もう遅すぎるのかもしれませんが…」


私は、そう答えながら思考を整理する。

ええっと、今は一体どういう状況なんだろう。

説得されてるのかな、私。


このお爺さん(の記憶)にここまで熱心に話される理由って、なんかあったっけ…?


いくら考えても思い当たらない。


とはいえ、思えば私は、かなり人付き合いが悪い。

家族の心情すら、この記憶の世界に来なければ分からなかったくらいだ。


ほぼ初対面のお年寄りの気持ちがよく分からないのも、それを思えば当然なのかもしれない。


そんな私に構わず、“テツモリ”さんの声は続けて告げる。


〈そんなら仕方ねえ。

続きを見ていくがいいさ。

たぶん、お前さんが待ち望んだ結果が待っているはずだ。

良きにつけ悪しきにつけな〉


「え?それはどういう…?」


そしてやっぱり私の反応は無視され、回想はまた始まるのでありました。


もういいかげん慣れてきたけど、せめてもう少し、説明が欲しいのですが……





けれど、けれどオレは…どうしてもその手を振り払うことが出来なかった。


あれだけアイツのことを大事に思い、あのとき何も出来なかったことを深く悔やみ続けていたはずの、このオレが……


女一人、振り払うことが出来ねえなんてな……


それは別に、愛情だとか、子供のためだとかそういうお涙頂戴ちょうだいな言い訳のせいじゃあねえ。


ただ、どうしてもこのまま無言で立ち去ることは出来なかったんだ。


その理由は……


〈と、“テツモリさん”がモノローグで語っている間も、もちろん私自身も感じたり考えたりしている。

もう、この変な状況にもだいぶ慣れてきたおかげか、今じゃわざわざ自分の名前をとなえなくても、こうして、自分の思考を維持することが出来るようになったのだ。

なんだか、自分が二人いるみたいで多少混乱はするけれど…まあ、これならいざというときには問題なく主導権を取り戻すことが出来るだろう。

やはり、それにも『心臓』への集中が重要なようだけど。

しかし、今回に限っては、“テツモリさん”と思考を切り離す必要は特に無かったかもしれない。

私たちの目をきつけ、心を大きく動かしたのは、その時に“見た”光景だった…つまり、“彼女”の…〉


瞳だ。

それは、とても強い光を放っていた。


宝石のようだ、とオレは思ったし、


〈こんなに強くて美しい目を見るのは、ずいぶん久しぶりな気がする、と私も思った。

その持ち主は、言うまでもなくーー〉


オレの女房、世界の誰より愛している女、ナギサだった。

その瞳に浮かぶ、とても強い輝き。


だが、誰よりも長い年月を共に過ごしたはずのオレにも、それが何を意味しているのか、それは分からなかった。

こんなナギサは、オレも初めて見る。


〈と、テツモリさんーー正確には、“この時の”と言うべきなのだろうけど、ともかくーーは困惑しているようだけど、私には分かった。

これは、悲しみ、そして強い怒りだ。

私自身を除けば、ここまで悲しんでいる人は、初めて見たかもしれない。

ただ、それが全てではない。

なんだろう、この深い光は、そしてなぜ彼女は、こんなに落ち着いているのだろうか?

なじみのある感情と、見知らぬもの。

その二つが入り混じっている。

とにかく、この状況ですべきことは、ただ一つしかないだろう。

それぐらいは“彼”にも分かっているようで…〉


…だから、オレはただ、彼女の話を聞くことにした。


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