第一話(まとめ1の途中まで)
天空は暗雲に覆われ、時折、稲光が走っていた。
どこまでも平らな世界の上にかかった雲は、まるでフライパンや鍋に被せられたフタのようだ。
ここは、北辺島。
文字通り世界の北の果てに位置する、何もない島である。
島ではたしかに、北辺海特有の海の幸ぐらいは採ることが出来る。
また、北方特有の氷も、このあたりの特産品であることも否定することは出来ない。
だが、それらを加味したところで、この島が何もない荒れ島であることは、どうしようもない事実なのである。
この島は、その一面が岩地である。
ここでは、野菜や果樹のみならず、キノコ一つすら採取することが出来ない不毛の地なのだ。
この島で取れるものといえば、せいぜいが黄金くらいのものである。
黄金は確かに熱伝導率が高い金属ではあるが、そのままではあまりに柔らかすぎる。
厨具を作るためには、銀や鉄などと混ぜ、合金にする手間が必要であった。
この平たい大地の時代、または世界が【食卓界】と呼ばれた時代において、価値があるものは三種類しかない。
すなわち、美味しい食べ物、美味しくすることが出来るもの、美味しい食べ物を作り出すものの三つである。
この世界において、そこに当てはまらないものは全て無価値なのだ。
とはいえ、この島が本当に無価値なのかと言うと、実はそうでもないのだ。
物事には、なににせよ例外がつきものであるもの。
それは、この荒涼とした岩島でも変わることがない真実である。
この北辺島の更に北には、世界の果てがある。
そこは文字通りこの世界の北端であり、そこからは海水が轟々と海になだれ落ちているのだ。
そして、その世界の果てには、一つの宝物が隠されていた。
北辺島には、一年のうち数日のみ日光が差し込む期間がある。
宝物は、そのわずか数日にだけ姿を現すのだ。
北辺島と世界の果ての狭間に散らばっている無数の流氷、そのどこかに隠され、常にその位置を変えているという伝説の宝物。
それこそが、北辺島が誇る唯一の価値であり、その宝物に”認められる”ための試練こそが、この島唯一の祭事なのだ。
その宝物の名を【コルセスカ】という。
正式名称を【氷晶包丁コルセスカ】
柄から切っ先まで、その全てが伝説の水晶【チリー・クリスタル】で形成された魔性の刃である。
そしてこの包丁は、伝説の厨具職人メクセトが残した傑作【神滅ぼしの厨具】の一つでもあるのだ。
数多の料理人がこれを求めて試練に挑戦したが、いまだかつて試練を乗り越えられた者は誰もいない。
そう、今日これまでは誰もいなかったのだ。
だが、伝説は今塗り替えられる。
それも意外な人物の手によって。