少女と陽キャ(笑)に挟まれて
大分前話と離れてしまいましたね。
誰も読んでないと思うけどごめんなさい。
あーなーたーとーわーたしさくらんぼー
そんな具合に紅く染め上がっていた。
いや俺は赤くなってねぇけどな。
そんな上目遣いで見つめられても何もできないっつーの。せめて手で振り払う事くらいしてくださいよ。手離すタイミング無くしちゃったじゃん。
お互い黙ったまま緊張した空気が流れる。音一つしない部屋で気不味く話し掛けようと思い口を中途半端に開くも何を口にすればいいかわからず、結局口の中で形になっていない言葉を弄んでしまう。
なんて言えばいいんだろ?中学の時に言葉選びを間違えて自分で自分の周りを寒くさせてしまった。
自分のことはもうどうでもいい。これ以上傷つくとこはないと思うし、それに俺が傷つくのは自業自得だから。
けど俺のなんとなくの言葉で誰かが不快に感じるのはもう懲り懲りだ。見てて辛くなる。だから誰かと話すのは極力避けたかった、いや避けていた。でも今回ばかりは俺に非があるからどうしようもない。
再度考えても無難だと思う言葉すら鋭利なナイフに思える。あるいは薔薇と言うべきだろうか。思わぬ所に棘が隠れているとか……そんな感じ。
そんなことを二十回くらい考えて閃くものがあった。名前だけを呼ぶ。元来人間というものは三割の会話と七割の身体の表現でコミュニケーションを取っていると言われている。特に日本人は気遣いの多い人種と言われてる分顕著だと思う。
名前を呼ぶだけで相手は話の内容を憶測し、またそこで話し手が何も喋らなければ相手は何かしら話さざるを得なくなる。さらにこの状況だと話す内容など一つしかない。
自然無難に会話ができる。
何この策…マジ完璧。パーフェクトすぎる。
まぁ…苗字呼びだけどな。
「なぁ、湊……」
あ、間違えた。名前だけとか言ってなぁとか付けちゃったよ。で、でもしょうがないよね?話しかける時とか接頭語的な感覚で何かしら付けちゃうし…仕方ないよね!?緊張してとかじゃないからね!
はぁ、こんなこと考えてるから俺の心もなぁなぁだよ。なぁ君たちもそう思うだろ?なぁ、なぁ、なぁ?
そんな俺の思惑が伝わったのか渚は訝しむような目で俺を見る。
「何故またあなたの部屋にいるのでしょうか?……ま、まさか私が小さくて可愛いからつ、連れ込んだんですか?い、今までちょっかい掛けてくる人は結構いましたが部屋に入れて私を襲おうとしてきたのはあなたが初めてです」
俺の手を振り払い赤から一変し青色に変わった渚は早口に喋る。
ていうか自分が可愛いって自覚してんのね。それを恥ずかしげもなく言えるとかすげぇわ…いや感心してる場合じゃなくて、なんか勘違いしてない?俺がイヤらしいことするみたいな……
「あのな…」
「退いて下さい!!」
言い分を聞いてくれる気は無いらしい。
逃げ口が俺で塞がれている分苛立っているのかもしれない。
これはどうにもならない。こんな風に気が立ってる人はに何を言っても通じない。無駄だ。だから一言だけ言わせてもらう。
「じゃあ一言だけ言わせてもらう。後で俺に文句言うなよ」
「あなたがすぐにそこを退いてくれれば言いません!!」
威勢のいいことで…
俺が素直に道を開けると彼女は一瞬俺を睨んだ後バタンと出ていった。
ヤバいわぁ、感情コロコロ変わりすぎでヤバいわぁ。昨日と態度違いすぎない?俺の事覚えてない……訳でもないよなぁ…部屋に入る前俺のこと覚えてた感じだったし、女心って分かんねぇわ。まぁ男だからわかるわけじゃないけど。色々考えてやったのに…
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結局俺は昼過ぎに登校した。
昼食時に行ったから皆食堂に行きほとんどは教室にいなかった。
俺に反応するのはただ1人。
「遅い。何故昼から来た?早く弁当よこせ」
朝の取り乱しは何処へやら今は超上から目線である。
「お前なぁ、これ俺のせいじゃないからな?」
半ば呆れ気味に言うと彼女はキレ気味に言う。
「いやアンタのせいだ。アンタが私を連れ込んであんなことやこんなことするから弁当はアンタの家に忘れるしアンタのせいで顔中血だらけで登校する羽目になった」
その言い方だと俺が変なことしたみたいじゃん。
「変な言い方すんな。それに俺が朝言ったこと忘れたの?文句言わない約束だろ。タラタラ文句言ってんじゃねぇよ。あとアンタアンタ五月蝿い。俺の名前は進藤亮介だ」
もしかして名前覚えてなかった?
別に覚えてて欲しかったわけじゃないけど、初対面が衝撃的だから覚えられてると思ってた。それともフルネームで覚えちゃってる俺がキモイの?
「名前なんてどうでもいいでしょ。全部亮介が悪いの!」
最初から呼び捨てかよ……別にいいけど
「お前なぁ…」
「お前、じゃない!」
自分だけ名前呼びが気に入らなかったらしい。
「湊」
何故かムッとした顔になる。違うみたいだ。
でもなんか、ちょっと面白くなってきた。
「フロイライン」
少し恭しく言ってみせると今度はムムッて感じに眉間に皺を寄せる。
その顔があどけなく何かをねだる子どもに見えて苦笑すると、さらに不機嫌そうな顔をする。
「セニョリータ」
今度はムムムムッて不思議そうな顔をして頭に疑問符を並べていた。
意味がわからなかったらしい。これでもうダメなら次の言ったらムムムムムムムムッて顔しそう。…それどんな顔だよ。
「マドモアゼル」
渚の顔は俺の予想と違った。
ムッでもムムッでも、ムムムムッでもムムムムムムムムッでもない──ただの無。
ほんとに無。表情筋あるか疑うレベル。
「渚、え〜とっ、ん?ん?」
あれ?何言おうとしてたんだっけ?
渚の顔がコロコロ変わって面白かったから話す内容すっかり忘れた。何だったっけ?
「渚、ごめん何言おうとしたか思い出せん」
「は?意味わかんない。鶏なの?」
渚は俺と会って初めて笑ってくれた。なんとなく嬉しい気分だ。
まぁ、嘲笑なんだけどな!
………何それ全然嬉しくねぇ。
「うるせぇ……よっ!」
馬鹿にした仕返しに軽くチョップするとなんか手を挟まれた。
構図的には真剣白刃取りだ。
おぉーっと周りで歓声が上がる。えって思い振り返るといつの間にか帰ってきてた食堂組
が拍手をしていた。
突然のことで俺と渚は二人共固まった。
そんな俺たちを見兼ねたのか先頭に立ってた陽キャっぽいのが話しかけてきた。
「やぁやぁお二人さん、仲がよろしくて結構ですな。」
誰だ?この人。渚の知り合い?
視線で渚に聞いてみるも頭をフルフル横に振るだけ。何も知らないらしい。
こういうのは誤魔化しながら言うのではなく本当の事をバラした方かいい。双方のために。なので端的に聞いてみることにした。タンテキとトンテキってなんか語感似てるよな……オイシソウ
「誰?」
「あれ?僕のこと覚えてない?」
知り合いにこんな奴いたか?
居ない、居るはずがない。ここ俺の地元じゃないし。思い出すのは諦めてもう一度聞こう。その方が手っ取り早い。
「誰?」
「あちゃー覚えられてないかー。君寝てたもんね」
こいつ一々動きがうぜぇ。
あちゃーって言いながら頭ベチンって打つ奴芸人でしか見たことねぇよ。
……いや、今どきの芸人はそんなことしないか。しかし、最近の芸人は叫んでばっかで面白くない。一ミリも笑えないし、笑い所が分からない。
俺も『八時だよ。全員○合!』とか言ってみたかった。
「そっか覚えてないか。じゃあ、改めて名乗ろうかな」
いやいや名乗らなくていいから。頼んでないから。
「僕は陽川光陽。光に太陽の陽で光陽よろしく頼むよ」
夜露死苦、ミツハル。
名前まで光ってんのかよ。
これでイケメンじゃなかったら殴ってるところだが、生憎クラス中の女子が黄色い歓声を上げるレベルの超絶美男子。
……笑った時頬に笑窪ができるとか知りたくなかったわ。
「……それでなんか用か」
「いや湊さんと仲良くしてたから僕も亮介と仲良くしたいなって思って」
でたでた。陽キャ(笑)特有の、誰とでも仲良くしようぜって空気。よく分かんねぇ奴となんて仲良くなれるかっつーの。
とりあえず仲良くする気はないから今回は軽くあしらって次話しかけてきた時は無視しよう。俺はそう心に決めた。
次話も頑張るので宜しくです。