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日記競泳400メートルリレー自由形~受け継がれるはずの日記帳~

 観客の歓声がプールの水面をさざ波のように伝わっていく。

 ここは日記競泳400メートルリレーの会場。

 4人の選手が一冊の日記帳を100メートルずつ泳ぎながら書いて、次の選手に渡していく競技。タイムと日記の内容で順位が決まる。


「うーん……」


 そろそろ日記四天王を引退したいなと思っている田中が、チームの順番を記入する紙を前に難しい顔をしていた。


「3人じゃダメかなあ……」

「どうしたのですか田中君」


 真面目そうな声で田中に話しかけてきたのは、日記四天王呼ばわりした相手を名誉棄損で訴えようと法テラスに相談している山本。

 石板に彫るのが本当の日記だという信念を持っている。

 田中は山本に向き直った。


「確実に沈むのが一人いるんだよね」

「僕たちの中に泳げない人間はいないはずですが」

「いや、泳げる、泳げないじゃなくて」

「心配性ですね田中君は。まあ、僕がいるからには大石板に乗ったつもりでいてください」

「それ沈むから」


 1メートルほどの石板を背負って、きょとんとした表情の山本。

 田中はひとつの決心を持って山本に話しかけた。


「今回はリレーだから、普通の日記帳にしようよ」

「いえ、僕だけは石板で行きます」

「沈むよね?」

「疑っているのですか。いいでしょう、沈まないことを証明します!」


 そう言って山本は石板を背負ってプールに飛び込む。

 係員の人たちに救助された山本は、担架に乗せられて去っていった。


「ふっ、愚かな」


 冷酷な声に思わず納得してしまった田中が振り向くと、そこには持ち回りで日記四天王筆頭に就任して上機嫌の佐藤がいた。

 ブーメランタイプの海パンをはいて、全身の皮膚に細かい文字が描かれている。


「耳なし芳一……?」

「そうだ。このプールには悪霊がいる。奴もそれに引きずり込まれたのだろう」

「悪霊じゃなくて石板……」

「今こそ成仏の時! 俺の琵琶を聞けー!」


 そう言ってエア琵琶をかき鳴らしながらプールに向かった佐藤は、どこからともなく現れた係員の人たちに囲まれてどこかに連れ去られた。


「アイツらバカだぜ!」


 威勢のいい声に田中が振り向くと、そこには全身を白い包帯でぐるぐる巻きにした日記大統領の鈴木がいた。


「ミイラ男……?」

「コスプレだぜ! ひと工夫あるんだぜ!」

「ひと工夫……?」

「これトイレットペーパーだから飛び込んだ瞬間、俺の全部が自由になるんだぜ!」


 よく見たら、白く覆われているはずの股間の隙間から、重要な部分がこんにちわしている。

 田中は係員の人を呼んで、鈴木を回収してもらった。


「リレーのメンバーが……どうしよう、これ」


 ひとり取り残された田中の声は水音に紛れていき、はみ出ているのはダメだった。

 あと、田中はひとりで400メートル泳いで日記も書いたが、レギュレーション違反で失格になった。

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