魁!ちんちん小学校2!
ちーんコーンかーんコーン。
ちんちん小学校の朝は昼に比べるとかなり早い。
「いっけね! 遅刻遅刻ゥ―!」
ちんちん小学校13号生の皮余俊介は、昇り始めた朝日を浴びながら、未だ夜の残る薄暗い通学路をうさぎ跳びで登校していた。
「兄貴ィー、兄貴大変だ―!」
「どうしたサブ!」
舎弟のサブが、足の筋を痛めて地面で痙攣している俊介の元に駆け寄ってくる。
「縮れ毛先輩が肝試しに行ったら吸血鬼に噛まれたそうです!」
「なんだって……許せねえ、許せねえよ! おいサブ! そいつはどこだ!」
「そう言うだろうと思って連れてきました!」
サブの指さした先にそれは立っていた。
夜の残滓がくすぶる通学路の上にそれは立っていた。
古ぼけた電柱に設置された街灯に照らされたそれは、ゆっくりとその顔を上げて俊介たちにその表情を見せつける。
長く伸びた黒い髪、その隙間から覗く赤い瞳。吊り上がるように曲がった唇からは、白く長い牙が覗く。
何も言葉を発することなく外套を広げたそれは、昇り続ける朝日の光を浴びて灰になった。
「うおおお! 縮れ毛先輩の仇!」
片足を引きずりながら吸血鬼(灰)のもとにたどり着いた俊介が、その拳を地面に積もっている灰に何度も打ちつける。
もうもうと周囲に灰が舞い上がった。
「げほっ、ごほっ」
思いきり灰を吸い込んだ俊介がむせる。
「ごほっ、ぶえっくしょん! ぶえっくしょん!」
アレルギー性鼻炎を発症した俊介がくしゃみで鼻水を飛ばす。
「ティッシュ! ぶえっくしょん! ティッシュ!」
真っ赤に腫れたまぶたを涙で濡らしながら、俊介はティッシュを求めて歩き出して、そのまままっすぐ用水路に落ちて流れていった。
「兄貴ィー!」
俊介が落ちた用水路に駆け寄るサブ。
「兄貴待っててください!」
サブは命綱を自分に結び付け、もう一方を電柱の影に入ったことで復活した吸血鬼に持たせた。
「今助けます!」
そう言って用水路に飛び込むサブ。
それに引っ張られてうっかり影から出た吸血鬼は再び灰になった。
くびきから解き放たれて自由になった命綱は、どこまでも流れていくのであった。




