フィギュア日記スケートSPスペシャル
スケートリンクの氷を解かすような観客の熱気。
ここはフィギュア日記スケート大会の会場。
氷上の冷気を吹き飛ばすような演技が、選手たちの日記によって次々と繰り出されている。
「ふう……」
地元で日記四天王と呼ばれるたびに訂正している田中が、短く静かな息を吐いた。
その手には会心の日記を書いた日記帳が握られている。
これをそのまま氷の上で表現できれば、十分に優勝も狙える。
「よし……いける……!」
「甘いですね、田中君」
「何ッ?」
どこか真面目そうな委員長を思わせる声に振り向くと、そこには日記四天王を何回も辞めようとしている山本が、眼鏡をクイッと持ち上げているところだった。
「どういうことだ、山本」
「あなたは日記の本質を理解していない……」
「なん……だと……」
「真の日記とはこれです!」
田中は山本の全身を見た。
普段から石板に文字を掘るのが日記だと主張している通り、石板を2枚背負い、両手で石板をかつぎ、正座している足の上にも石板。
「拷問……?」
「日記のためならばこの程度の苦痛は何でもないです」
「それで……動けるの……?」
「無理に決まってるでしょう」
田中は係員に連絡して、山本を回収してもらった。
「ふっ、ライバルが一人減ったか……」
「おまえは!」
冷徹な声に振り返った田中が目にしたのは、日記四天王の名刺を作って配ったらなぜかみんなが優しくなった佐藤だった。
「奴はいつも間違える……日記の本質は媒体にはない」
「……佐藤、お前の言う日記の本質とは何だ」
「決まっているだろう……文字だ」
「文字……?」
「そう、日本最古の文字……神代文字だ!」
「なん……だと……お前それわかるの?」
「この、100日後に丸わかり神代文字という本で勉強したからな!」
「その本どこで手に入れたんだ」
「メル〇リ」
田中は本のタイトルをスマホで検索してみた。
「それの著者、詐欺で捕まってるぞ」
「ンゴォー!」
倒れた佐藤。
田中は係員を呼んで、佐藤を回収してもらった。
「アイツらバカだぜ!」
威勢のいい声に田中が振り向くと、そこには日記四天王筆頭であることが地元のコンセンサスになっている鈴木だった。
「俺はフリースタイルで行くぜ!」
「待て、鈴木!」
止めようとした田中を振り切り、鈴木は氷のリンクに向かって走り出した。
全裸で両手にスケート靴をつけて逆立ちのまま、フリーのあそこをブランブランさせて器用に走る鈴木を集団係員が囲んでそのままどこかに連れ去った。
「だから止めたのに……」
田中の呟きは氷の表面をなぞるように滑っていき、ブランブランはダメだった。
あと田中は本番で転んで32位だった。




