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帰って来たぞ! 帰宅部合宿!

「これからミーティングを始める!」


 帰宅部コーチの後藤美緒が、立ったまま竹刀をもって力強く宣言する。


「はい!」


 田中達帰宅部部員はその声に元気よく返事した。

 ここは後藤コーチの私室。床には雑誌とか本とか漫画とかコンビニ袋とか乱雑に散らばっている。

 いろいろ強引にどけて確保した空間に、ちゃぶ台が置かれていて帰宅部三人はそこに座っていた。


「帰宅部として、帰宅とは何か。みんなにはそれを考えてほしい!」


 後藤コーチは帰宅部OBである。自分の部屋ですら帰宅途上と言い張る帰宅の鬼として知られていた。


「まずは田中! お前にとって帰宅とは何!」


 指名された田中田子は、全体的に普通な雰囲気を隠すことなく立ち上がって答える。


「はい! 私にとって帰宅とは、自分を取り戻すことです!」

「そうなんだ! それっぽいからいいと思う!」

「はい!」

「じゃあ次に山本! 帰宅には何が大事だと思う!」


 次に指名された山本山子は、三つ編みにした黒髪を揺らしながら立ち上がり、眼鏡の位置をクイッと直しながら答える。


「足です!」

「なるほど! 確かに!」

「だから足を鍛えるグッズを作りました!」

「ええー! どんなの!」

「これです!」


 山本が指さす先には、石でできた靴をはいた足があった。


「なるほど! それで足を鍛えるのね! もしかして外からそのままなのかな!」

「はい!」

「そうなんだ! できれば土足はやめてほしかったかな!」

「無理矢理履いたら脱げなくなったんです!」

「困ったね!」

「はい!」

「親御さんには私のせいじゃないってちゃんと言ってね!」

「はい! ちゃんと後藤コーチの家に行くって言ってあります!」

「あとで二人で話し合おうね!」

「はい!」


 少し顔色が優れなくなった後藤コーチ。

 後ろを向いて「あー」とか「うー」とか言っていたが、何かを吹っ切ったように部員たちに向き直った。


「えーと、それじゃ佐藤! もっと上の帰宅を目指すには何が必要だと思う!」


 新たに指名された佐藤佐子は、ゆらりと立ち上がる。

 特に悪くなってない目に眼帯をして、特に怪我をしてないのに包帯を巻いていた。


「さらに上の帰宅のためには……左回りが必要……!」

「え、左……なに?」


 戸惑う後藤コーチに、佐藤は指ぬきグローブをはめた手を顔にかざしながら口を開いた。


「左に回転することによってタキオン粒子が発生して光速を超えたパワーが曼荼羅を経由することで真の帰宅が完成するの」

「薬やってる?」

「やってない」

「やってないならいいの。ごめんね」

「なんで謝るの?」


 どこか釈然としない表情の佐藤から目をそらした後藤コーチ。

 ふと部員たちを見ると一人足りないことに気づいた。


「あれ? 田中、鈴木はどこ?」

「帰りました」

「帰っちゃったか―。まあ帰宅部としては正しいのかな……?」


 ちょっと考え込んだあと後藤コーチは、竹刀を片付けてゲーム機を取り出した。


「それじゃ合宿終わり! マリ〇カートやろう!」

「はい!」


 こうして実り多い合宿は終わり、ゲーム大会が始まった。

 優勝は自宅から通信対戦で参加した鈴木。

 あと、うるさかったので後藤コーチの親に怒られた。

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