スーパー日記大戦
世界は争いに満ちていた。
三つの勢力が己の正しさを証明しようと戦いに明け暮れている。
夏休みの日記を毎日きちんと書く派、夏休み初日に全部書いちゃう派、そして8月31日にまとめて書く派の三派がお互い尊厳を守るために戦っていた。
8月31日派の田中は、文字一つない真っ白な日記帳を前に苦悩の表情を浮かべている。
8月31日午後4時。時間的余裕はもはやなかった。マジでない。
ここに至っては手段は一つ。
「日記を奪うしかない……」
誰かの書いた日記を奪って己のものとする。
田中は白く輝く日記帳を手に、近所の公園に向かった。
「そろそろ来ると思ってましたよ」
公園に行く途中の道端に、初日に全部書いちゃう派の山本が待ち構えていた。
「山本……」
「他人の日記を奪うなどみっともない。あなたにはここで帰ってもらいます」
ぐうの音も出ない正論に、田中は唇をかみしめる。
「さあ、日記勝負です! あなたの日記を出しなさい!」
「……出してやるさ! 見ろ!」
山本はきっちり書いて隙間なく埋まっている日記帳を取り出し、田中は何にも染まってない純白の日記を出した。
「本当に何も書いてない……どうするんですかこれ」
「……えーと、つまり、これは無限の未来を表しているんだよ!」
「ぐはっ!」
よくわからない力が山本の上着を吹き飛ばし、何かの力で宙に浮いた山本が地面に落ちた。
倒れている山本は、口から血を流しながら田中を見ている。
「……ふふふ、やりますね。いいでしょう、私の日記を持っていきなさい」
田中は地面に落ちている山本の日記帳を拾って中を見た。
日付以外は全部デタラメだった。
「何この日記」
「……ふふふ、初日に全部書くのだから全部想像です」
「怒られるんじゃないの」
「すごい怒られるでしょう」
田中は倒れてる山本の手に、そっと日記帳を戻した。
問題解決のためには、この先の公園にいる毎日きちんと書く派の佐藤の日記が必要だ。
田中は白い日記帳を握りしめて歩き出した。
「おう! 来たか!」
「何……だと……」
公園に来た田中が見たのは、地面に倒れている毎日きちんと書く派の佐藤。
そして佐藤の日記を手に、ジャングルジムの上に座っている鈴木。
「鈴木……お前が何故?」
「何故って決まってるだろ!」
そう言って鈴木は、佐藤の日記帳をビリビリに破いた。
「何やってんだ! 鈴木!」
「これで最後だ! ははは!」
ジャングルジムの上で高笑いする鈴木。唖然とする田中は絞り出すように口を開く。
「おまえは……いったい?」
「俺か! 俺は夏休みの日記を提出しない派だ!」
「何……だと……」
「これでみんな俺と同じだ! はははうわっ!」
高らかに笑う鈴木はバランスを崩して頭から落ちた。
絶望する田中は膝から崩れ落ちた。
夏休み明け、田中は怒られた。
佐藤も怒られた。鈴木ももちろん怒られた。
デタラメ日記を提出した山本は怒られなかった。
「あれでいいのかよ!」
山本以外はみんな怒った。




