表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/108

スーパー日記大戦

 世界は争いに満ちていた。

 三つの勢力が己の正しさを証明しようと戦いに明け暮れている。

 夏休みの日記を毎日きちんと書く派、夏休み初日に全部書いちゃう派、そして8月31日にまとめて書く派の三派がお互い尊厳を守るために戦っていた。


 8月31日派の田中は、文字一つない真っ白な日記帳を前に苦悩の表情を浮かべている。

 8月31日午後4時。時間的余裕はもはやなかった。マジでない。

 ここに至っては手段は一つ。


「日記を奪うしかない……」


 誰かの書いた日記を奪って己のものとする。

 田中は白く輝く日記帳を手に、近所の公園に向かった。


「そろそろ来ると思ってましたよ」


 公園に行く途中の道端に、初日に全部書いちゃう派の山本が待ち構えていた。


「山本……」

「他人の日記を奪うなどみっともない。あなたにはここで帰ってもらいます」


 ぐうの音も出ない正論に、田中は唇をかみしめる。


「さあ、日記勝負です! あなたの日記を出しなさい!」

「……出してやるさ! 見ろ!」


 山本はきっちり書いて隙間なく埋まっている日記帳を取り出し、田中は何にも染まってない純白の日記を出した。


「本当に何も書いてない……どうするんですかこれ」

「……えーと、つまり、これは無限の未来を表しているんだよ!」

「ぐはっ!」


 よくわからない力が山本の上着を吹き飛ばし、何かの力で宙に浮いた山本が地面に落ちた。

 倒れている山本は、口から血を流しながら田中を見ている。


「……ふふふ、やりますね。いいでしょう、私の日記を持っていきなさい」


 田中は地面に落ちている山本の日記帳を拾って中を見た。

 日付以外は全部デタラメだった。


「何この日記」

「……ふふふ、初日に全部書くのだから全部想像です」

「怒られるんじゃないの」

「すごい怒られるでしょう」


 田中は倒れてる山本の手に、そっと日記帳を戻した。

 問題解決のためには、この先の公園にいる毎日きちんと書く派の佐藤の日記が必要だ。

 田中は白い日記帳を握りしめて歩き出した。


「おう! 来たか!」

「何……だと……」


 公園に来た田中が見たのは、地面に倒れている毎日きちんと書く派の佐藤。

 そして佐藤の日記を手に、ジャングルジムの上に座っている鈴木。


「鈴木……お前が何故?」

「何故って決まってるだろ!」


 そう言って鈴木は、佐藤の日記帳をビリビリに破いた。


「何やってんだ! 鈴木!」

「これで最後だ! ははは!」


 ジャングルジムの上で高笑いする鈴木。唖然とする田中は絞り出すように口を開く。


「おまえは……いったい?」

「俺か! 俺は夏休みの日記を提出しない派だ!」

「何……だと……」

「これでみんな俺と同じだ! はははうわっ!」


 高らかに笑う鈴木はバランスを崩して頭から落ちた。

 絶望する田中は膝から崩れ落ちた。


 夏休み明け、田中は怒られた。

 佐藤も怒られた。鈴木ももちろん怒られた。

 デタラメ日記を提出した山本は怒られなかった。


「あれでいいのかよ!」


 山本以外はみんな怒った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ