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雪の少年

 雪が降っている。

 僕らは白く染まる世界で白く曇る息を吐いていた。

 体に染み込むような冷気に、心が少し縮こまるような気がする。

 雪と風から逃げるように、僕ら三人は建物の影に走った。


「ふう、ひどい目にあったな」


 課長はそういうと、コートにかかった雪をはらっている。


「こういう日もありますよ。なあ?」


 先輩はまぶしい笑顔でそんなことを言った。


「は、はあ……」


 僕は曖昧に答えた。

 それからしばらくの間、誰も一言もしゃべらなかった。

 ただ、ひたすらに寒さに耐えていた。


「う。ちょっとしょんべんしたくなった」


 先輩が少し焦ったような顔でそんなことを言う。


「そうか。実は俺もなんだ」


 課長はいつもと変わらない表情で呟く。


「よし、こうなったらみんなで立ちションしましょう! おまえもするよな?」

「は、はあ……」


 先輩は突然とんでもないことを言い出した。

 僕は戸惑いながら返事をするしかできない。


「じゃあ、やるか……」


 課長が仕事をする時のような表情でチャックを下ろす。マジか。


「パーッと行っちゃいましょう!」


 先輩は打ち上げの時のような顔でチャックを下ろす。マジか。


「ほら、お前も」

「は、はあ……」


 これはパワハラかセクハラかどっちなのかを考えながら僕もチャックを下ろした。

 吹雪の中に放尿音が混じる。


「おっ、お前の氷レモンが完成だな」


 これは明らかなパワハラかセクハラかあるいは両方か。

 そんなことを考えながら先輩のかき氷を見ると、氷イチゴが出来ていた。


「……」

「……」


 少し青ざめた先輩の顔を見ながら、病院へ行ったらいいのにと思った。


「……か、課長はどうですか?」


 ちょっとだけこわばった顔の先輩が、課長の方を見た。


「すまん、腹が冷えたせいで氷チョコバナナに……」


 課長は座っていた。座って氷チョコバナナを。

 僕は辞めようかなと思った。


「や、やだなあ課長。チョコバナナは無しっすよ!」


 ひきつった顔の先輩は、無理矢理な笑みを浮かべている。


「す、すまん。氷チョコバナナにイチゴソースが……」


 泣きそうな表情の課長が、何かに救いを求めている。

 救急車呼んだ後で辞めようと思った。

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