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ちんちん小学校一番

 ちーんコーンかーんコーン。


 黄昏の空、傾く夕日、茜色に染まる雲。

 遠くから聞こえて来るチャイムは、どこかもの悲しい響きがした。


 ……遅刻、か。


 人影のないちんちん小学校の通学路。男が一人、空を見上げている。

 虚ろな瞳に映るのは、地平線に飲み込まれようとしている太陽か。それとも目を覚まし、見上げる天を侵食している宵闇か。

 夕日を直視して網膜を焼かれた男の側に駆け寄る一つの影。

 えらいことだ、えらいことだ、そんな音を鳴らしながら影はぬるりと這い寄る。

 その影は男の舎弟を名乗った。


 ……どうした、どうしたサブ。そんなに慌てて。


 サブと呼ばれた影は、男の顔を真っすぐに見た。

 これからおこるであろう苦難を先取りしたように、眉間にしわを寄せ目を閉じている。

 瞼の裏に映るのは、昏い夜空か輝く朝日か。

 纏わり付く影はぬるりぬるりと言葉によく似た音を立てた。

 縮れ毛先輩が、縮れ毛先輩が……それ以上は声にならず音にあらず、ただぬるりぬるりと地面に張り付いている。


 ……そうか、そうなのかサブ。それは許せぬ、許してはならぬ。


 男は瞼を開き、外界の光を受け入れた。

 纏わり付く影はどこか嬉しそうに、ここにいる、ここにいると、斜めに傾いた黄昏の向こうを指し示している。

 夕日の帰り道、夜との境界にそれは立っていた。

 昼と夜の曖昧な隙間に、そこだけ切り取られたように、くっきりと筋肉が浮き上がっていた。

 何の為に鍛えたのか、何が故に鍛えたのか。

 境界に立つそれからは、呪文なのか経文なのか、出口入口出口入口と声の形をした奔流が流れ、ぶら下がるししとうのような器官がにがうりを経てへちまに変化している。

 男はぼんやりとした世界で、己の意思を、自らの身体を、狭間にたたきつけた。


 ……覚悟は、覚悟はいいか……仇を討つとはこういうあああああああ。


 昼と夜の境界、月と日輪の隙間、それらが曖昧になる黄昏。

 出口と入口もまた、曖昧になっていた。


(了)

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