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プロローグ

 子猫を助けてロードローラーに撥ねられるという極めて異世界転生向きの死に方をした私は、教科書どおりの作法で典型的な女神の間然とした場所に降り立っていた。

 どういう原理か分からないが、卵の殻のような形の椅子とそこに座る白いゆったりとした服装の女性が、部屋の中央にぷかぷか浮かんでいる。


 透き通るような白金色の髪に、白磁の肌。顔の造詣もぞっとするほど美しい。

 そして女の後ろには、何やら大仰な扉が控えている。


「やぁお嬢さん。私は女神。残念だけどきみは死んだ。けど安心して。ここからはボーナスステージ。楽しい異世界転生の時間だよ」


 両手を広げて、気だるげに告げる女性。


 その時点で怪しさがMAXである。

 少なくとも「楽しい○○の時間」と宣言された時間が楽しかった記憶は、私にはない。


 私の中の野生の勘が、これは「胡散臭い方の異世界転生」だと騒ぎ立てた。


「好きな職業ジョブを選んでね。勇者でも、魔法使いでも。どんな職業にだって転生させてあげられるよ。能力値はきみ次第だけどね」

「じゃあ」


 私はすっと、目の前に浮かぶ女神を指差す。


「女神」

「え?」

職業ジョブ、女神がいい」


 私の言葉に、女神がこちらを見た。

 先ほどからこちらを見てはいたが、初めて目が合った、という気がする。綺麗な、青い瞳だった。


 異世界転生ものというジャンルは今や一大ジャンルだ。

 そこそこのオタクとして半生を過ごした私も例に漏れず、いろいろなメディアで見たり読んだりしてきたけれど、最近ははいはいつよいつよい系チート転生より、転生後に苦労するものをよく見る気がする。

 あと、チート転生者の当て馬的に、たいした能力じゃない転生者が出てくる話もよく見る。


 自分で言うのも悲しいが、私はチート能力を授かるタイプではない。

 特に現世の知識を生かして無双できるほどものを知っているわけでもないし、転生しても苦労するのが目に見えていた。

 チート転生者か当て馬かで言ったら、確実に当て馬のほうだ。


 だったら目の前の、明らかにめちゃくちゃ楽そうな職業ジョブの椅子が欲しい。

 ぷかぷか浮かぶ椅子に座って、ここに送られてくる異世界人に「好きな職業ジョブを選んでね」と話しかけるだけ。

 プリ機にだってできるような簡単なお仕事だ。AIが普及したら真っ先になくなる職業だろう。


 きょとんと目を丸くしていた女神は、やがて大声でけたたましく笑い出した。


「あははははははは!!!!!!」


 口を大きく開けた、なんとも女神らしくない笑い方だった。


「そうか、その手があったのね」


 女神はにたりと唇で弧を描く。

 彼女が腕を振ると、白いゆったりとしたワンピースが消え、代わりに黒いマントとハーフアーマーが現れた。


 はっと視線を落とすと、私の衣服が布地の余った白いワンピースに変わっている。


「ありがとう。やっと地獄から解放されたわ」


 背後の扉が開く。

 その中は、こちらからは奥がうかがい知れないような、銀色の液体で満たされていた。


 とぷんと、女神だった誰かは、背中から倒れるように扉の中に飲み込まれていった。


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