富豪貴族
次にやって来たのは2階にあるアクセサリーショップ。
私は、まさかと思ってサクに話しかけた。
「もしかして、ここで宝石、手に入れるの?」
「その方がはえーんじゃねぇかって」
サクは顎髭をさすりながら、ガラスのケースに目線をやっている。
1時間も経たない内に、宝石を採掘する話から買う話になるなんて……
諦めが早すぎるんじゃない?
それに、宝石を買うための金はどこから捻出するつもりなのか。
「ねぇ、お金持って……」
「お前、ちょっと付けて見ろよ。 店員さん、この子にこの指輪、付けさせてくんね?」
「えっ、ちょ……」
訳も分からず、サクチョイスの指輪をはめさせられる。
しかも、指が太いためか、中々入っていかない。
「だからちょっとは痩せろっつってんだよ」
(何なのよこの男は!)
何故かサクの彼女のような扱いをされ、めちゃくちゃ小っ恥ずかしい。
私は顔から火が出る勢いで、まともに喋れなくなってしまった。
すると、
「お、こんな所で奇遇だな。 それ、お前の彼女?」
「……てめぇ、マエザワ」
目の前に、日に焼けた短髪ひげ面のアロハシャツの男。
どうやら、サクと知り合いらしい。
その、マエザワなる男は、目の前の女性店員にこう切り出した。
「1から9の好きな番号、言ってみてよ」
「え、好きな番号ですか? え~と、3で」
「3か。 じゃあほら、3万円、プレゼントだ」
「え!? いいんですか!」
マエザワは財布から3万円を抜き取ると、その店員にプレゼントしてしまった。
訳が分からない。
すると、マエザワは今度は私に向き直って言った。
「サクの彼女さん、好きな番号を」
サクの彼女では断じて無いのだけれど……
「き、9」
「がめついねぇ~」
がっはっは、と豪快に笑い、マエザワはショーケースにある一番大きなカラットのダイヤを指さし、キャッシュカードでそれを購入した。
サクが、その去り際の後ろ姿に向かって呟いた。
「奴は富豪貴族のマエザワだ。 恐らく、俺と同じでダイヤモンドの花を作るつもりだろう」
要するに、彼はサクのライバルってことか。
それは良いのだけれど……
(……何で私には何もくれないのよ!)