移動
(プライベートジェット!?)
そう思った瞬間、地面が盛り上がる。
「え、うわっ、下?」
砂の中から現れたのは、黒い車体。
何か、見覚えあるな~、と、それをまじまじと見つめていると、扉が開いた。
「お客さん、乗らないのかい」
私はサクの方をチラと見やり、言った。
「これ、タクシー?」
フルチンの男サクは勝ち誇ったように、腕を組んで胸を張った。
「おうよ、貴族御用達の砂中タクシーだ。 ラクダより楽な乗り物っつーことで、楽人って名前がついてる」
(が、GA○KT様!?)
黒い車の正体は何とタクシーだった。
私が知っているそれとは少し違って、砂の中をドリルで突き進んでいるけれど……
と、言うか、私はこのGA○KTならぬ楽人という名前がいたく気に入った。
「いっつまーでもー君だっけーはー」
私はオペラ歌手ばりに良い声で、GA○KT様の「君のためにできること」、を熱唱していた。
隣でサクが呆れた様に呟く。
「それ、ヴィジュアル系全盛期の時の歌じゃんか。 結構古くね?」
「うっさいわね。 私が小・中学の時にめちゃくちゃ流行ったんだから。 あ~、今聞いても胸に刺さるわ」
私のスマホのプレイリストには、GA○KT様の楽曲がかなり入っている。
ヴィジュアル系と聞けば見た目重視と思われるかもだが、実は楽曲も素晴らしく良いのだ。
君のためにできること、はバラードだが、ライブ映えするロック・ソングも私の一押しである。
スマホでGA○KTメドレーを流している内に、気付くとタクシーは目的地へと到着した。
再び地面に浮上する。
「じゃあ、お代は5600円になりますね」
「た、高……」
サクは貴族だと言うのに金を持ち合わせていない。
私は渋々、さっきの前金からそれを払った。
タクシーと別れると、私は辺りを見回した。
「……ここ、市内の入り口かしら」
「ああ」
この砂漠の国では、様々な行商人が行き来し、各国から集められた珍しい品物の売買が行われている。
奇妙な壺、生地、果物etc……
だが、最近出来た「パーフェクトデパート」、のお陰で、それらを購入する客は消滅した。
サクは突然、自分の格好を思い出したかのように、デパートの方に体の向きを変えた。
「ちょっと下着とか買ってくっから、一万貸してくれ」
「……」