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Books  作者: バフマフ
4/6

霧雨の夜は魔が出る4

ギリギリと草地と江鈴が締め上げられている横で試合はドンドン進んでいった。


俺は試合会場になっている高校の体育館前面を見上げた。


そこに掛かっている垂れ幕には、第74回兵庫県少林寺拳法総合体育大会、と記されている。


「しっかし、一年ってのは早いな」


とポツリと呟くと、


「そうだな。去年、俺たちが団体演武に立候補してからもう一年以上経つんだよな」


柿成がポツリと返してきた。


彼らが出場しているのは演武部門。高校生以下は決まり組手でしか公式試合に出場できず、大学生以上になると防具をつけた組み手...要はイメージ通りの拳法ができるようになっているのだ。


今目の前で試合をしているのはその演武部門の中でも組演武と呼ばれるものだ。


二人一組になり、予め決めた順に沿って6つに区切った決まり組手を審査員の前で披露する。


姿勢、発声、拳の速さ、技の正確さ、速さ等を採点される仕組みだ。


一方、柿成の言った団体演武はその名の通り団体競技である。


6名一組でチームを作り、こちらも6つに区切った決まり組手を披露する。


組演武とは毛色が少し違い、要求される技能は1に協調、2に協調である。たとえ姿勢が悪くても、技があまり正確でなくても、6人全員が動きを揃えれば一発逆転があり得る。


とはいえ、兵庫県は異様にレベルが高く、速さ、正確さ、動きの揃い度合い、全てが揃った高校がゴロゴロ存在している。


去年の総体ではかなりいい点数を取り、かなり上位にまで進んだが、インターハイに行けるのは県あたり1校だけ。インターハイへは相生産業高校が歴代最大点数を取って出場権をかっさらった。


去年、人数の関係により一人だけ新入部員の中から男子メンバーを募集され、俺と柿成が立候補した。


結果、俺はとあるクセがネックとなり、柿成がメンバーへ選ばれ、試合へ出場した。


「しかし今思えば、よくもまあ新入部員入れて兵庫県で3位にねじ込めたよな」


「全くだ」


総体の試合それも団体演武に、拳法を始めて2ヶ月程度の1年を入れて出場するなど、前例がなかったらしい。常識以前の問題で、試合に勝てないからだ。


最終的に出場決定を下したのは『魔神』だが、その言い分は、


「面白そうだしやっちまえ。ウチの特色はフレキシブルさだからな」


とのことだった。


「今年はお前がケガしてくれたおかげで出場自体が白紙になっちまったからなあ.....」


ジロリとこちらを睨む柿成。とその時、ドォッと声にならないどよめきが体育館に満ちた。


「その件はちゃんと全員に詫び入れただろ!?」


「ま、気にしちゃいないがな。今年の練度はとても試合出場レベルじゃなかったし。っと、どっかの高校がえらい高得点出したみたいだぞ」


そちらに目を向けるが、もう点数開示は終わってしまっていた。


「.........まあ、出場可能メンバーの半数が文化祭に精力持っていかれてたからなあ」


彼らの高校では、試合前日に2日建ての文化祭があったのである。一日目は各科ごとに作った劇を見たり、生徒会主催のゲームがあったりという校内で楽しむもので、外部からの参加者はない。二日目では、2年生は各クラスの教室でできる火を使わない模擬店、3年生は野外で火気オッケーの模擬店を開店する。もちろん外部からは父兄らが来るため、校内は大変賑わう。


そして、去年までは文化祭の2日目に県大会予選があったのだが、今年からは拳法の人口が減ったことを受け、試合日程が後の一日に圧縮されてしまった。


故に。去年まではどうせ参加できないのだから、と文化祭に消極的だった部員は文化祭を楽しもうとより一層張り切った。


そして、生徒の有志による実行委員会に草地、リューイ、柿成の三人が参加。マジメに部活に来るのは俺と江鈴の二人だけになってしまった(まあ女子の同期は全員マジメに練習に来ていたのだが)。


男の先輩はというと、どうやら複雑な事情があったらしく、わずか二人だけになってしまっているため、人数の足しにはあまりならず、かといって新入部員を入れようと募集をかけても立候補が無かったため、今年の出場は諦める次第になったわけである。


「白原先輩と小森先輩にとっちゃ最後の試合だったんだがなあ」


白原と小森というのは男のただ二人の先輩である。


「仕方ねえよ。強制はできないんだしな」


「実行委員に行った当人が言ってんじゃねえよ」


俺は柿成の頭を小突いた。

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