表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Books  作者: バフマフ
2/6

霧雨の夜は魔が出る2

気がつくと、もう第1部門の試合が終わっていた。


出場していた後輩たちが帰ってくる。


「おう、起きたか。随分寝てたな」


「ケガ人でも容赦しない当たり、さすが大井先輩って感じだよな」


「言ってろよ.....」


ニヤニヤと笑いながら話しかけてきたのは柿成と江鈴のタッグ。


一年前は大勢いた同期の中でも、数少なく残った部員だ。


日頃の言動やら、趣味やらを押し付けてくる当たりは少々、いやかなりウザったらしいが、二人の戦闘センスは折り紙付きである。


ちなみに柿成は大井先輩に告白して振られている。


「お前ら、出場はまだなのか?第一部門のあとはすぐに次の試合だろ?」


「俺らはシードや。予選は免除されとる」


「前回の新人戦で全国大会まで進んだからな。予選レベルに出ると他が霞んじまう」


ヒラヒラと手を振りながら柿成は言った。


「何無駄話してる。次の試合が始まるぞ」


草地が呆れ顔で忠告してきた。


「おっ、今回の出場者は誰や?」


「井上と烏羽先輩のペア、大井先輩と木村先輩のペア、宮城先輩と荒金先輩のペ」


「荒金先輩!?」


俺は驚きで思わず床から飛び起きた。


「その反応はキモいよ、お前」


柿成は冷酷に言い放った。


「お前やっぱりあの人のこと好きなんか?」


「あ、いや、そう言う事じゃないんだけど…………」


「なんや、違うんか?」


「………いや、まあ、違くはないんだけど………さ」


俺は口ごもった。


と同時に、少しだけあの日の事を思い出した。


ーーーーー



その日、俺と荒金先輩は道場の戸締り当番を割り振られていた。


練習後、換気の為に開け放っていた全部の窓を閉め、鍵をかける当番だ。


「それ」は窓を閉めている最中に起こった。


少し錆びついた窓をガキガキと閉めていると、後ろの方でバタリ、と音がした。


何だ、とそちらを向くと、中途半端に閉まった窓の下で荒金先輩が倒れていた。


「先輩!?」


と俺が先輩の元へ駆け寄ると先輩は真っ白な顔で、


「.......私...の.....カバンから....薬を......」


と息も絶え絶えに呟いた。


「分かりました!!」


と言い残し、俺は先輩のカバンへと走った。


だが、カバンのどこにあるのか分からないので、そのままカバンを掴んで先輩の元へ戻った。


「先輩、薬はどこに!?」


「......一番.....外側..の...チャック…」


こじんまりとしたカバンのチャック付き外ポケットを開け、5センチ四方程度のプラスチックケースを見つけ、薬を取り出した。


そして先輩を壁にもたれさせて薬を飲ませると、血の気が引いて陶磁器のようになっていた顔に朱が差してきた。


「大丈夫ですか?」


「フッ....大丈夫なように見えるか......?」


「そりゃ見えませんよ」


「なら良かった。お前の目玉は正常ってことだ」


ニヤリと笑いながら先輩はいつものように茶化した。


「病気ですか?」


「......ああ。小さい頃から心臓が弱くてな」


少し目を伏しがちにして答えたのが気になった。


「先輩、何か隠してますか?」


「....フッ....さすがは教師志望、洞察が鋭い」


「誤魔化さないで下さい」


「大した事じゃない。原因不明、治療法未発見なだけだ」


心底興味のなさそうな顔で先輩は答えた。


だが俺は、先輩の手が微妙に震えていることに気がついた。


一瞬躊躇したが、俺は先輩の手を握った。


彼女は驚いたように手を引っ込めようとしたが、俺はより強い力で彼女の手を捕まえた。


「無理に強がらないでください」


俺がそう言うと彼女はびっくりしたように動きを止め、俺の顔をじっと見た。


そして小さく笑い、


「無理はしてないよ」


と呟いた。


「........でも」


顔を上げて俺の顔を見た。


「少しだけ私の弱音に付き合ってくれないか?」


俺は深く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ