魔王の子の保護者
新元号なので初投稿です
短編の導入しか書いてないけど多分続かない
「この世で生きること、誠ままならんものよなぁ……」
崩壊した巨大な神殿、豪奢な飾りの面影があるボロボロの王座、半分以下の長さしかない多数の柱の残骸、模様が判別不可能な絨毯、散らばった硝子や瓦礫の山、人魔問わぬ死体の大地。
「御主も思うであろう?」
対峙するのは二つの存在。半ばまで折れた剣を手にボロボロの服を纏った傷だらけの男、最早機能しない鎧にマントの残骸を纏い膝を付いた血塗れの男。
「魔族と人族の軋轢、理解してなお進み続け、漸く掴んだものがこんなものとは。納得できまいて」
魔王と呼ばれていた血塗れの男の足元には首のない人間の死体が多数転がり、勇者と呼ばれていた傷だらけの男の周りは胸元を切り裂かれた人間の死体が床を埋め尽くしていた。
「魔族を根絶やすのみならず、自らの覇権のために恩ある者すら裏切る」
男はうつむき続け、魔王は前を見続ける。
「そんな連中に世界を支配させてはならぬ……。魔族だからと排斥され、虐殺されるなど間違っている!」
静まり返った空間に魔王の叫びがこだまする。
「魔族を救うこと、我らには成し遂げられなかった……。だが、まだ終わってはいない。後悔するにはまだ早いぞ」
俯いている男が反応する。
「ルミエールに生き残った魔族を託した。戦うことしか出来なかった我等とは違い、あやつには大きな可能性がある。あの芯の強さは知っておろう」
魔王は胸から引き抜いた槍を杖にして立ち上がった。
「お主に生きている者の護衛を頼みたい。外で陣を張る人間から護ってやって欲しいのだ」
よろよろと、足を引き摺りながらも男に歩み寄る。
「……わかった」
男が俯きつつも頷く。
「有難い、感謝する」
剣が届く位置で魔王が足を止めた。
「……他に言い残すことは?」
「二つほど。これから生まれる子の親代わりになって欲しい。数年だけでも構わない。」
「……………………もう一つは?」
槍を捨て、仁王立ちする。
「友の名を聞かせてくれ。我は最後の魔王、グリーフ・シュトラーセである!」
男が顔を上げる。
「俺はカラミティ・ノエル。最後の勇者だ」
男は剣を構え、狙いを定める。
(優しすぎるのも、考えものよな)
――――ルクスよ、カラミティを頼む――――
「もう、行かれるのですか?」
蒼く長い髪から覗く犬耳が目を引く女性が、木で覆われた集落の入り口に佇んでいた。
「約束の一つは果たしたからな。獣やモンスターも残したアイテムで撃退出来るだろうし、問題はないだろう」
「まだ怪我は治っていません。それに武器や食糧なども無いでしょう」
犬耳の女性ルミエールは、横を通りすぎようとしたカラミティの腕を掴んだ。
カラミティの全身には治療の跡があり、まだ完治には程遠かった。武器や道具の類いは持っておらず、まだ寒い時期であるのにも関わらず薄着で、両腕に抱えられた卵には布類が巻き付けられている。
「こいつを守るだけなら十分だ。外もあれだけの打撃を受ければ魔族に目を向ける暇もないだろうし、あらかた解放されて人の近くには居ないだろう」
「でもっ、ここを去る必要なんて!」
悲しそうに眉間に皺を寄せるも言葉は続かない。
「分かってるだろう?」
認めたくないと心が叫んでいた。それは彼らを孤独にするものであると理解していたから。けれども分かってしまう。
「恨みは簡単には消えない。敵が近くにいればどうしても抑えきれなくなる。誰も怨み言の一つも言わないが、辛そうにしてるのは分かるさ」
そう、彼は非常に多くの魔族を殺した。救った者も多かったが、戦闘に参加した魔族はほとんど討たれている。ルミエールの父も。
対立してた以上はしょうがないであろう。しかし、彼ほどの力があれば、理解があれば、優しさがあれば、殺さなくても済んだのではないかと思ってしまう。
「それに、あいつの子だ。耐えきれず暴走した奴に担ぎ上げられるかもしれないし、そうじゃなくても魔王になってしまう可能性も高い」
否定ができない。今のルミエールには完全な制御など不可能だと分かっているから。争いの旗頭にされてしまってはどうにもならなくなってしまう。
「誰にも見つからないような場所を見つけて、こいつが産声を上げるその時まで俺を封印する」
行ってしまう。魔族と人族が隣を歩けるような、争わずに済む世界の可能性を私に見せてくれた人が。
「それで、こいつが大きくなって、まっすぐに育ったら後はお願いするよ。俺の役目はそこまでだ」
私は――――
「……いっちゃった」
全ての想いを伝えることは出来なかった。でも、悔やんではいられない。やらなければならないこと、やりたいことは多くある。。
それに――――
「いつか……いつかきっと見せてみせます。貴方が願った世界を。私が願う世界を。」
――――この想いと一緒に、必ず届けます
岩に囲まれた空洞、天井部に空いた孔には半透明のクリスタルがはまっている。
クリスタルから入る日の光に照らされた場所には、人の幼児程の大きさの卵が置かれており、その周りを小さな妖精達が飛び交っている。
それは騒々しく、しかし静謐で、どこか楽しげな雰囲気が溢れ出しそうな空間を形成していた。
卵は断続的に小さく揺れ動いており、その度に妖精達が沸き立つ。
その光景は新たな生命の誕生を祝福しているようであり、
――――ピシッ
光溢れる光景であった。
一度ヒビが入った卵は抵抗を無くし、次の瞬間には上半分が勢いよく飛び上がる。
中から現れたのは五歳位の大きさの少女。その立ち姿は幼くも雄々しく、輝く黒い髪から覗く純白の角が人ではないことを示していた。
各々自由に動き回っていた妖精たちは少女の誕生と共に変化を見せる。炎と氷の妖精が協力して温度を調節し、風の妖精によって循環され、雷の妖精によって塵などは取り除かれていく。
小さな体を天高く伸ばし、たどたどしくも力強く呼吸をする。
やがて呼吸が整うとゆっくりと瞼が開いていき、秘められていた魔力が噴き出し唸りをあげた。
その唸りが世界が聞いた少女ルクスの第一声、産声であった。
もし万が一名前にピンと来た方は怒っていいと思います。
他のもちょぉぉおおっっっとだけ進んでます