自称異世界帰りのぼくのおじさんは、なんやかんやでいい人みたいだ。
ぼくはいたって平凡な小学生だが、1つだけほかの人とは変わったところがある。
それは親戚に奇妙なおじさんがいるということだ。
そのおじさんは高校卒業した後行方不明になり(おじさんいはく異世界で魔王と戦っていたらしいが、周りの人は誰も信じていない。)、10年後ぐらいに帰ってきたらしい。
おとうさんやおかあさんはそのおじさんと話してはダメだというけれど、ぼくはこっそり何度かそのおじさんに会いに行っている。というのも、そのおじさんの話は面白くてぼくの少年ごころをくすぐるからだ(ほかの人にあいてにされないおじさんがかわいそうという理由もある。むしろこっちの理由のほうが大きいかもしれない。)。
ピンポーン、チャイムを鳴らす。ぼくがおじさんの家に行っておじさんがいなかったことは一度もない。
「おぉ、いらっしゃい。」
おじさんがドアを開けてくれてくれたが、おじさんはいつも通りの青のジャージで髪はぼさぼさだ。ただ、臭くはないのでお風呂には入っているようだ。家もそんなに汚くないし、おじさんはもしかしたらぼくをもてなそうとしているのかもしれないと思った。ぼく以外がおじさんの家に入るとは思えないし。
「前から気になってたんだけどさー、おじさんって仕事してないの?」
ぼくはおじさんの答えを予想しつつ尋ねたが、返事はぼくには理解できないものだった。
「おれは所持金がカンストしてるから働かなくてもいーんだよ。」
ぼくはやっぱりおじさんの頭はおかしいのかもしれないと思ったが、そうとは言わずに、
「今日もなんかおもしろい話聞かせてよ。」
と言って今の話は流すことにした。
「ほーう、そんなにおれの話が聞きたいか。」
おじさんのニヤニヤした表情が気持ち悪かったので、帰ろうかと思ったが久しぶりに人と話せて浮かれているんだろうと思って我慢して、
「うん、暇だから聞いてあげる。」
と言った。
魔王を倒すためおれは魔王城を目指して旅をしていた。旅の途中は野宿をすることも多かったが、この日は立ち寄った村の村長の家に泊まらせてもらえることになった。その日の夜、夕食が終わったころ村長がおれにこう切り出してきた。
「実は勇者さまにご相談があるのですが……」
勇者とはもちろんおれのことだ。
「なんでしょうか、こうしてもてなしていただいているのですから、私にできることならお手伝いしましょう。どうぞおっしゃってください。」
「ありがとうございます。最近村で奇妙なことがありまして、確かにあったはずの食べ物や道具なんかが朝にはなくなってるなんてことが。まあ誰かがケガをしたなんてことはないんですが、夜中にあやしい光を見たなんて村人もいるもんで。わたくしどもとしては犯人を捕まえたいんですが、どうにもうまくいかず。勇者さまになんとかしていただけないものかと。」
「ふーむ、物がなくなって、あやしい光ですか、思い当たることがあります。私に任せてください。」
真夜中、人々が寝静まったころ、ふわふわと揺れるあやしい光が現れた。待ち構えていたおれはそっと近づいて、手をのばしたが、あと少しのところで逃げられてしまった。
「待て!」
おれは必死に追いかけた。その光は村中を縦横無尽に逃げ回り、しまいに1軒の廃屋に入り込んだ。
「もう逃げられないぞ。」
あやしい光はあたりを見まわして、観念したかのように動きを止めた。
「正体を現したらどうだ?魔王の眷属よ。」
反応はない。
「お前の罪は村人に対して盗みを働いたことだが、人にもう迷惑をかけないというなら見逃してやってもいいぞ。」
あやしい光はしだいに輝きを増し、一際強く光ったかと思うと、おぞましい化け物の姿になった。
「ゲヒヒヒヒイ!」
「知性をもたない化け物だったか。」
化け物は猛烈な勢いでおれにとびかかってきた。おれはひらりと身をかわすと、
「村の平和のため、退散せよ。」
と言って剣で切りつけた。
「ゲヒイ!」
化け物は北東の方角へ逃げて行った。
「どうだおもしろかったか?」
おじさんが自信ありげに聞いてきたので、ぼくは正直な感想を言った。
「まあまあかな。また聞きに来てやってもいいよ。」
「そーかそーか。」
おじさんはまたニヤニヤ笑っている。ぼくの答えに満足したようだ。
「じゃあもう帰るよ。」
おじさんはぼくを引き留めたりはしない。
「気をつけて帰れよ。またいつでも来い。バイバイ。」
「バイバイ。」
おじさんの家を出て曲がり角でちらりと振り返ると、おじさんはまだ手を振っていた。
自称異世界帰りのぼくのおじさんは、なんやかんやでいい人みたいだ。