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『冬の童話』投稿作品集

マッチ売りの少女の はんそく作戦

ああ・・・・見てるが良いさ!!

この俺の、生き様を!

今日の夜、この身に起こる出来事を、俺の死に様になんかしないからな!!

 日本のとある街で平和に暮らして居た俺は、気づけばマッチ売りの少女に成っていた。


 しかも、物語は終盤のクリスマス・イブも越えた大晦日!


しかし、異世界転生にしても・・・・「童話の世界だなんて・・・・。」


それも、俺を含め、多くの人々が知っている悲劇の物語だとは・・・・。


 ほんの少し前。鬼のような父親に、バスケットいっぱいの箱入りマッチを渡され「全て売り切るまで家には入れねぇし!!」と言われて追い出された所だ・・・!


 こうなれば後は、人通りの多い街角か公園かなんかで「マッチ・・・マッチを買ってください!マッチはいりませんか?」とか言いながら歩き疲れた挙句に、他人の家の幸せそうな様子を羨ましそうに覗いた(あと)、売り物のマッチに手を付け・・・あ、いや、火を着けては自分の欲しいものを妄想して・・・・。


そして・・・。

『優しいお婆ちゃん』が幻として現れて・・・。


「死ぬだけだ・・・・。」(俺の婆ちゃんは皆、健在だけどな!?)


性別までも変えられ、こんな童話の、しかも主人公とは言えど悲劇のヒロインでしか無い今の自分・・・・マッチ売りの少女として死ぬなんて!!


それは絶対に嫌だ!!!


この俺の身にこれから起こる話に、たとえ数百人・・・・いや、この話が発表されてからの、(延べ)数百億人の人々が涙を流してくれたって、この俺にしてみれば、有難くもない!!


はっきり言って、なんの意味も無い!!


そんな事で喜ぶのは、こんな童話を考え出したあの野郎と、後の出版社と、頼まれた印刷会社と・・・・童話を涙しながら子供に読み聞かせる親達ぐらいなもんだろう!!

あと・・・・変な電子小説を運営したり、書いたりしている連中が、他人の命を(もてあそ)ぶ物語の主人公の、この俺を、あ~だ、こ~だと、好き勝手な物語へと勝手に放り込んだりして、企画だなんだと言って盛り上げようとしたりするばかりだろう!(きっと!!)


全く・・・・。


このお話には、俺の命がかかっているんだよ!!

誰も喜ばなくても、生き延びねば!

思えば、俺が自分の(せい)に、こんなにも執着するとは思わなかったが・・・・。


いや!そんな事は今はどうでもいい!!


さて・・・・。

「俺が生き残れる条件は何だ・・・?」


それは、マッチを売り切る事・・・・。

街頭のティッシュ配りの様にタダで配ってはダメ・・・・捨てても当然ダメ・・・・いや、捨てたら、それこそ最後の『灯火』を失う事になり、ただでさえ短い命を、更に何十行分か縮める事になる・・・・。


「童話って・・・・文章すくねぇからな・・・・、最初っから短い命か・・・。」


少女の姿の俺は、今夜、直ぐに来るであろう自分の運命を思い、暫し項垂れた・・・。


俺のことは、人々の間には悲劇のヒロインとして長く記憶に残るだろう・・・。


現実世界であのまま平和に暮らしていても、歴史に名を残す事も無かったろうし・・・・もしかして、これは自分にとって幸せな事なのだろうか?

「思い出せば、マッチ売りの少女って、マッチを擦って点灯つけられた小さな炎の中に作り出した自己バーチャルの世界では、幸せに成れるんだったな・・・。」


俺は、一瞬だったが、自分の運命を甘受しようかと思った。



しかし・・・・・。


しかし、だった!

自分の奥底から、怒りに似た感情が湧いて来たのだ!!

そして、抱えてるバスケットいっぱいのマッチを見詰めながら思った!!


だからって死ねねぇよ!!


俺は死なねぇぞ!!


そう思った俺は決心した!


マッチ(こいつ)を叩き売る!!それしか俺の生き残る術は無い!!!」



 俺は早速手頃な場所を探した。

それは、広場の外縁近くの場所だった。

そしてそこに、近所のボロ屋の塀から剥がした板切れを、同じく他人の家からお借りした(後で返すので!)丸木の上に置いて、簡単な台を作った。

これを、俺がこれからマッチを売るための台にするのだ。


そう・・・・これこそ本当の叩き台!!


偉そうにオフィスで努めている連中が、比喩として使っている・・・正に机上の空論として言っているだけの叩き台って言葉が実体化したもの!


いや、そうでは無くて、これこそが正真正銘の叩き台なのだ!!

(本当は鉄でも打つ台の事なのかも知れないが・・・・。)


それが、今!俺の前に有る!!!


「やってやる・・・・!」

 俺は何故か身震いした・・・・それは決して寒さのせいでは無い!!

はっきり言って俺は今、売る気満々だ!!


成功しか見えない!

(いや、それしか見たくない!!)


うん!

変な起業講習会に行った直後の様な気分だ!!!


「しかし・・・・あんなのは、講習会を開いてる連中が一番儲かるのよね・・・・・。」

過去の経験から無意識にそんな言葉が自分の口をついて出たのを聞いた俺は、少し沈んだ気分に成った・・・。

「はぁ~・・・」情けなくも、ため息を付くと、冷え込みが増してきた冬の夜の空気に触れたそれは、白い煙と成って俺のもとから遠ざかって行った。


(いや・・・時間は無いんだ・・・!)

気を取り直し俺は、叩き台の上に、ざっとマッチを並べた。

そこで初めて、ハタと思った・・・・。


(商品が少なすぎる・・・・・。)


そうなのだ・・・・バスケット一つ分では、テーブル(叩き台の事)にマッチを並べた時に、インパクトに欠けるのだ・・・それも、著しく・・・・。


「これでは商品が足りない!」

俺は絶句した。

しかし、死は間近に迫っている。

『売り切れごめん』・・・その直前なら、商品が少ないのは魅力的に見えるだろう・・・。

しかし、これから売ろうと言うその始まりに商品が少ないのは・・・・。


「お客の購買意欲を掻き立てる材料に乏しい・・・・。」


陳列された商品の物量は、それだけで買い手の心を掴み、購買意欲へと繋がって行く事を、俺は知っていたのだ。

「さて・・・・追加の仕入れってもね・・・・。」

家は貧乏・・・・その日の売り分しかマッチを仕入れてはいないだろう。

何せ、日銭で生活している貧乏一家なのだから。

「後の売上は、あのクソ親父の飲み代か・・・・。」

どうしたものかと思い、辺りを見回すと、どうして今まで気が付かなかったのだろうと思い、一瞬だが自分の目を疑った。

なんと、同じようにマッチを売る連中が、この公園に集まっているのが見えたからだ・・・。


あった・・・・これだ!!


これしか無い!!


俺は、直ぐ様駆け出して、その小さな同業者達に声を掛けた。

「私と一緒にマッチを売らない?そうすれば、今晩にはその全てのマッチを売り切れるわよ!」

皆、半信半疑だったろう。しかし、今迄どうりに売ってても、大して売れない事だけは解りきっていた。

だから、最後は皆、俺に協力してくれたのだ。

ただ、それは勿論、それぞれが自分の為に決めた事でもあったろう。

すると先ず俺は、それぞれ持ち寄ってくれたマッチの銘柄と数を、叩き台として持ってきた板の裏に、拾った石でガリガリと傷をつけてメモし、それを預かり書とした。


俺は集まった同業者達に向かい、真剣な眼差しを向けて言った。

「私はアナタ達との約束を全力で守りたいの。だからアナタ達も協力して。」



 さて・・・・こうして俺の提案を受け入れた貧乏人達は、必死の思いで、この寒い大晦日を乗り切る為に協力しようと言うわけだ!

そんな中の一人で有り発案者である俺は、マッチ売りの少女だが、その中身は日本人だ!!

しかも男だ!

お陰で、国民的と言われる『あの映画』を見るともなしに見て居た!


そして、その人は扱って無かったが、バナナの叩き売りってのも、言葉だけは知っていた!


だから、後は・・・・。


「後は・・・やるだけ!」


俺は早速、皆に作戦を伝えて、役割を分担した。


俺と、もう一人の若い女、それと少年が売り手に成る。


後の5人程は・・・・・全員『桜』だ!!



 「さあ!!買った買った!」

「ここにあるマッチはそんじょそこらのマッチとは大分違うんだ!馬車に乗って通りを抜ける紳士淑女の皆さんが、ちょだい、下さい、探してましたと言って買って行く、『幸運の灯火(ともしび)』と呼ばれるマッチだよ!!」

俺は口を休めない。

「コイツを使って火を着けりゃ・・・・暖炉の炎は何時もの暖かさとは違う一段上の暖かさに成るよ!」

目の前にはそれとなく近づき足を止めた『桜』役の少年少女が、俺の話に惹き付けられたようにして集まり始めた。

その様子を見た行き交う人々の中には、明らかに、こちらに注目する者も数人居た。

「それにね、この前、ここからマッチを買っていったお嬢さんが、意中の男にそのマッチをプレゼントしたらだ・・・・なんと、恋のロウソクにも日が灯り、二人の中もアツアツに成って、恋が成就したって言うから驚きだ!!」

熱を帯びた俺の言葉を聞いてた目の前に居並ぶ桜役の連中は、ザワザワと互いに言葉を囁き、関心を示すフリをし始めた。

俺は、自分達が作り出した、この場の微熱を更に焚き付けようと、更に言葉を続ける!

「しかしそれもそのはず!なんとこのマッチ!純愛の聖地と言われる協会の裏庭で、三日三晩お祈りを聞かせて祝福されたって品物だからだ!」

すると、少し遅れて集まりだした人達をかき分けながら、一人の女性が恥ずかしそうにテーブルの前に進み出た。

俺は「おっ!」っと驚いたフリをする。

すると「マッチを・・・・5つ下さい!」と、思い切った感じでその女性が言ったので。

俺は「ん?・・・お姉さん!恋をしているね!見れば分かりますよ!じゃ!一個オマケだ、値段は負けられないから、これで勘弁してね。」と言って、本来の売値の2倍の値段でマッチを売った様に見せかけた。

詰まりは、集まった我々は、お金は全く無い。

だから、口で金額を言い、互いの握った手で硬貨をやり取りした『フリ』をした。

そうなのだ、この人も、俺の仕組んだ『桜』役の女なのだった。


マッチを受け取った『桜役』の彼女は、嬉しそうにハニカンで、そそくさと立ち去って行った・・・。


するとその直後!!


「わ・・・私にもマッチを下さい!!・・・5個!」

「お・・・俺も!!5・・・・いや10個!!」


次々と買いの声が響いた!

そしてそれに呼応するかの様な俺達の売りの声とが混ざり合い、数々のマッチを手渡す手と、それと引き換えの金とが、叩き台の上を行き交った。


それからは一瞬だった。


あれよあれよという間に、テーブルの上に並べたマッチは次々と売れていき、ものの30分余りで全て売りきった!

しかも、最初に『桜』役の女の子に売ったフリして手渡した分のマッチも、どさくさ紛れに回収して売り場に補充したので、本当に全てのマッチを売り切ったのだ!!


「ごめんなさい!完売です!!」

「完売です。有難うございます!」


売り手の俺達は、気持ちが高ぶっているお客達に謝りながら、やり切った気持ちでいっぱいだった。


そうして最後は、マッチの預り証とした板を一通りの少い場所まで持って行き、そこに協力してくれた連中を再び集めた。


それから俺は、それぞれが持ち寄ってくれたマッチの数に合せて、儲けを山分けした。

ろくに計算も出来ない無学な連中も数人居たが、俺は売上をちょろまかしたりはしなかった。


皆、満足そうだった・・・。


「有難う。少しは暖かな新年を過ごせそうだよ。」

「こんな楽しい気持ちは何年ぶりだろう!」

「また、一緒に売りたいな!」

そうして、高揚した気持ちを分かち合っていた俺だったが、他の連中とは中身の年齢と、性別さえも違ってた事もあり、冷静さを失っては居なかった。


「良いか、この事は他言してはいけない。もし、ここに居る誰かがこの事を誰かに喋ってしまったら、きっとこの商売は長くは続かない。その為にも、今日のお金は、本来の売上分しか見せてはいけない。後は誰にも見つからない場所に隠して、ごくたまに、ほんの少しだけ使うんだぞ!良いな!?」


皆は分かったと言ったが、子供が大半だ・・・・恐らくは、そう長くはこの秘密を守れないだろう。

嬉しそうに立ち去る連中を見送りながら、俺はそう思って居た。


「しかし・・・俺は今日を・・・このクリスマスが過ぎ、華やいでる年末を生き残ったぜ・・・・。」


これで、この童話の行方は、誰にも分からなくなった筈だ・・・。



 俺は、誇らしげに胸を張り、暗い夜空を見上げた。


すると、冷たい物が落ちてきたのを頬に感じた・・・。


「コイツが白い悪魔に見えるところだったな・・・・。」


あと数時間で新しい年に成ろうとしていたこの街の公園に、美しくも冷たすぎる白い雪が、ちらつき始めていた。


 そこに一人で立ち尽くした俺の身体は、そんな雪を溶かさんとしているかの様に熱く成っていた。

それは、心に灯った生命の火が、この小さな少女の身体の中で熱く燃え盛っているからだと、俺は気づいていた・・・・。


その熱い思いを投げ掛ける様に、俺は暗い夜空に向かって呟く。


「さぁ・・・この先をどうする?・・・・『アンデルセン』!?」


これ程に必死の思いで今日と言う日をやり切った事が、かつての自分の人生の中に有っただろうか?


どこか勝ち誇った様な気分で居た俺だったが・・・・・それも『ヤツ』の手の内だったのかも知れないと思った途端、そんな自分が滑稽(こっけい)に思え・・・・背中が寒く成っていくのを感じた。


『この俺って・・・・・どこ迄が俺なのかな・・・・?』


そう思った俺は、今は自分の感情を慰める様な笑いを、このマッチ売りの少女の顔に浮かべる事しか出来なかった・・・。




     おしまい



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