真犯人
真犯人
多治見は中野駅に着くと、【ABURI】の居る下妙典を検索した。最寄りの駅は東京メトロ東西線の妙典になる。中野からだと乗り換え無しで、一本で行ける事がわかり、JRの改札から、地下鉄の改札口へ変えた。
『真犯人は誰なのか?』多治見は地下鉄の騒音の中、考え続けた。浮かぶ仮説に疑問を投じ消去する。消去しては次の仮説を説く。
木場を過ぎた辺りで、携帯が振動しているのに気付き、表示を見る。『課長』とあった。
《電車の中なのでメールにします。何か進展がありましたか?》
《前橋本署の署長は、警察病院へ電話などしていない。との回答でした。多治見はどう見ますか?》
《恐らく、先程お話した仮説の後者だと思います。》
《誰か目星は付いているの?》
《前橋本署に所属する警察官全員に可能性はあります。できましたら、署員の中で、現在、連絡が付かない者を確認してください。》
《了解。再度前橋本署へ協力要請をします。ところで貴方は今何処?》
『まずい』と思い。返信をする事無く、携帯を閉じ電源を落とした。
(これでGPSも効かない。課長との時間もしばらくは稼げる。)
電車は南妙典を出たところだった。
その頃【ZANN】は、【ABURI】のGPSを辿り、監禁現場付近にいた。
《お初です。【ZANN】です。今近くまで来ました。様子はどうですか?》
《初めまして【ABURI】です。建物の中では、誰かが来るのを待っている。そんな感じで特に動きはありません。》
《了解。【ABURI】は建物の何処にいますか?》
《入口の右側に。比較的中が見安い所にいます。》
《了解。では私は、建物の裏手に回る。異変が有ったら連絡を。》
《了解》
【ZANN】は慣れた体で、防犯カメラを探しながら建物へ近付く。
(カメラ一台、無いなんて。なんて無防備なところなの?)
【ZANN】は易々と裏手へ回り込み、注意しながら窓から中を覗く。
縛られてはいないが、母親らしき女が一人と、高校生程の少年と若い男が、母親を守る様な位置にいる。その視線の先には、二人の男が銃を手にしていた。
一人はやたらと腕時計を見る大男。もう一人は、貧乏揺すりをしながら、タバコを立て続けに吸っている痩せた男。
(どちらも焦れている。やはり誰かを待っているようね。)
【ZANN】も【ABURI】と同じ判断をした。
多治見が妙典駅に着いたのは、午後三時半近くになっていた。そこから【ZANN】と同じように、【ABURI】と【ZANN】のGPSを追って、現場の近くまで来ていた。
《現場近くまで来ています。どうですか?》
《依然、誰かを待っているようで、全然動きはなくてよ》
《江波の母親の具合が悪そうだ。できれば早く救出した方が良い。》
【ABURI】と【ZANN】の返信を読んで、多治見が『奉行』へメールを入れた。
《申し訳ありません。【ZANN】からの連絡で、江波君の母親の具合が悪そうです。こちらで対応させていただきますが、よろしいでしょうか?》
《仕方あるまい。あとはこちらで何とかする。ただ江波一家には、我々『葬』の事を、くれぐれも気取られる事の無きよう。》
《承知。できれば奉行へも迷惑は掛けたくないのですが、真犯人だけは死して尚、名を外へ出す必要があります。》
《判っている。警察の威信よりも、人命を優先に頼む。尚、警察内部の共犯者だが、前橋本署刑事課の若松と警ら課の堀川の二人が、休暇を取って連絡が付かない様だ。信じたくは無いが、この二人が関与している可能性がある。》
《御意》
奉行とのやり取りの間に、【TEGATA】からメールが入った。
《ごめんなさい。私用で今まで知らずにいました。取り敢えず、避難用の車一台と運転手一人を確保して、そちらへ向かわせました。皆の分まで用意が出来ず、申し訳ありません。》
《ありがとう。江波一家の避難に使わせてもらいます。一家を行徳署へ連れて行ってください。僕達は自力で何とかします。》
《承知。御武運を》
《ありがとう》
多治見が敷地に着くと、白いキャラバンの隣に、黒塗りのベンツが丁度止まるところであった。
「真犯人の登場か?」
高く詰まれた砂利の山の裏に回り、誰が降りてくるのか待った。ベンツの運転席のドアが開くと、スーツ姿の男が一人出て来た。
「仲間は無しか。どうやらラスボスらしいな」
男が建物の中へ入るのを確認すると、大回りをしながら、建物へ移動を開始した。
スーツの男は建物の中に入るなり、二人の男へ向かい指で『こっちへこい』とサインを送る。男たちは黙ってそれに従った。
「検事さん。僕は約束を守って――」スーツの男へ江波が言う。
「黙っていろ!」
検事と呼ばれた男は、恫喝して江波を黙らせた。
多治見は定石通り、建物の裏に回った。【ZANN】を見付け近付く。【ZANN】は黙って窓を指し、多治見はその先へ視線を向ける。
黙って成り行きを見守る。
「検事さん。母と弟は戻して――」
「さっきも言ったはずだ!黙っていろ!」
足元に有った空き缶を江波へ蹴り飛ばした。
(ほう。検事なのか)
二人の男に何かを耳打ちしている検事をみて、多治見は【ABURI】と【ZANN】へ指示を出した。
《君達には、二人の男の仕置きを頼みます。検事は僕が引き受けますので、【ABURI】は痩せた方を、【ZANN】は大きい方を頼みます。二人とも現役の警察官です。充分に注意してください。また、江波一家に悟られる事の無い様に、【TEGATA】が手配した避難用車両が来るまで待機。》
《了解》と二人から返事が来ると、多治見は来た方へ戻り、一番離れた、隣の部屋にある窓から、建物の中へ入った。
「君には失望したよ。少年院を出たら、死を選ぶものとばかり思っていた。何故、死ななかった?」
「母が病気で、その治療を――」
「君達親子は早く死ぬ運命にあるのだよ。治療だんて。無駄な事を――」
「そっそんな。母や均の面倒を見てくれるって約束――」
「何の事かね?君は強盗殺人犯だよ。その家族をどうして私が面倒など見なくてはならないのかね?」
「そう言う約束で、僕があのお爺さんを殺した事に」
「君が勝手にしたことだ。」
「そんな!」
「黙れ!お前達も少しは私の役に立つ所を見せろ!」
二人の男へ目を向ける。
「そこまでにしませんか?」
多治見がドアを開けて入ってきた。
「多治見さん!」江波青年が多治見を見て呼んだ。
「遅れてごめん。でももう大丈夫。君達家族は、約束通り僕が守る」
「その人は検事で、あの二人は前橋本署の刑事なんです。」
江波は安堵の顔を多治見へ向けた。
「感動の再会は済んだかね?多治見――だったかな?」
「はい。警視庁生活安全部の多治見です。」
「ほう。本庁の刑事ですか?どうやってここへ?」
「江波君に付けたGPSを追って」
「GPS?また面倒な物ができたな。」
「それよりも、検事と聞きましたが?」
「ええ。私は前橋地方検察庁。検事の寄 と言います。」
「検事がどうして、冤罪の青年とその家族を狙うのですか?」
「冤罪?狙う?どういう事かね?」
「貴方が、前橋本署の刑事数名を使って、お年寄りを殺させたのでしょう?」
「何故に?」
「今はまだ仮説に過ぎませんが、江波君の証言を元に、今日のこの件も含め、追々真相を追究しますよ。」
「追々?君に――。君達にそんな時間が有ると思っているのかね?」
寄は二人の男へ目配せをした。その時入口のドアが開いた。
「こんな所で何をしている!」
工事現場の監督風な男が顔を出し怒鳴った。
「警察です。この親子を連れて、行徳署へ行ってください!」
多治見は空かさず、江波親子をその男へ託した。
「わっ判った!早く乗れ!」
「多治見さん!」
「僕の事は良い。君との約束を守りたい!さぁ早く!」
江波兄弟は、母親を抱き上げ外へ出た。
車のドアが閉まる音を聞き、急発進して遠ざかる自動車を見送ると、多治見は寄検事へ歩み寄った。
「これで証人は救った。あとは検事紛いの犯罪者と、刑事を名乗るゴミだけだ。」
「救った?多治見君。君は頭が悪そうだな。」
「僕を消して、江波君に罪を被せるつもりで言ったのでしたら、そのままお返ししますよ。」
「ははは!負け犬が!」
「曽屋を殺したのは寄検事ですか?」
多治見の問いに、二人の刑事は顔を見合わせた。
「どうせ。外国にでも逃がすから脱走させろ。みたいに二人へ言って、逃げて来た所を殺したのでしょうが――」
「馬鹿な。寝言は寝て言うものだ。」
「今頃前橋本署内では、署員で連絡が取れない堀川さんと若松さんが、曽根を連れ出し殺した犯人だと、目星を付けている頃でしょうね。」
名指しされて二人は呆然としている。多治見は緩めず、二人を執拗に追い詰める。
「貴方方二人は判っても、まさか検事の寄が、糸を引いている事には及びませんよね。」
「何をもたついているんだ!」
寄が焦りを隠せずに、口を挟んだ。
「僕の後は、堀川を殺させる算段なのでしょう」
多治見は痩せた方を見ながら話すと、男が明らかに動揺し始めたのが判った。
「早くこいつを始末しろ!」
「何をそんなに焦るのですか?あぁ。図星ですね。若松に堀川を始末させたら、貴方が若松を殺しますか?」
二人は寄へ不安顔を向けた。目は既に泳ぎ始め。生唾を飲み込む仕草が窺えた。
「最後はこの建物に火を点けて、貴方意外はここで焼死に見せかけるつもりですよね。」
「おっお前達、何をやっているんだ!早く多治見を黙らせろ!」
二人の男を急き立てる。
「何故、老人達は死ななければならなかったのですか?」
多治見は先手有利と判断して詰問を緩めずに続けた。
「貴様には関係のない事だ。」
「まさか財産目的ではないですよね。」
多治見は不敵に笑った。
「独居老人なら、検事や刑事を簡単に信じたでしょう。いくら儲けたのですか?」
若松に視線を向けて訊いた。
「四人で山分け――それは無いか。寄検事が半分。残りを三人で山分け?」
「いいや。そんな――」
「黙れ!馬鹿みたいに、こいつの口車に乗るな!」
口を開きかけた若松を恫喝した。
「一軒当り、数百万ですか?手取りだと数十万ですね。そんな端金で、貴方達は寄検事の言うとおりに強盗殺人をしてきた――」
「うるさい!黙れ!」
「何人、殺したのですか?」
二人の警察官を交互に見て問う。
「三人で何人、殺したのですか?今なら――行徳署の刑事が来るまでなら、逃げられるかも知れませんね。」
ちらっと窓へ目を向けた。奥側の刑事が後退りを始めた。少しずつ窓に近付く。
「十人ぐらいですかね?それで百万程の金はまだ残っていますか?生活は楽になりましたか?貴方方も警察官なら、『殺し』は割に合わないと良く知っている筈では?」
「こいつを!黙らせろ!」
「警察官を殺すと死刑ですよね。」
二人の男はそれぞれ近くの窓へ向かって退き始めた。
「そうですね。上手く逃げ切れれば良いですが……」
多治見が追い討ちを掛けた。若松と堀川は慌てて窓に手を伸ばし、鍵を外して開けた。
その時【ZANN】が動いた。
若松が窓を開けて外の様子を見る。窓の真下に隠れていた【ZANN】は、足元の石を数個拾うと、数メートル先へ投げた。同時にバイオリンケースを開けて、弓を取り出した。
若松は音の元を確かめ様と窓から顔を出した。
【ZANN】は若松の首に弓を当てると素早く引いた。
若松の頚動脈は弓に仕込まれた刃物に切断されて、血しぶきが立った。若松は「うっ」と短く唸ると、手で首を押さえたが無駄な所作だった。見る見る血の気が引き、床に倒れ体が痙攣を起こし始めた。
寄は驚きその一部始終を呆然と見ていた。やがて若松は動かなくなった。
「何をした!」
「私は何もしてはいませんよ。こうして貴方の前に立っている」
堀川はそれを見て、窓から飛び出そうとしたが、太い何かに首を絞められ、身動きができなくなった。
「すぐに行かせてあ・げ・る」
腕に力を入れて締め上げる。ポキッと音がした。男はバタつかせていた、両手両足をだらっとさせて、動かなくなった。
「本当なら、火を点けてあげるんだけど、今日は準備がないから。ここまでよ。ごめなさいね。」
「貴方の部下は貴方を置いて逃げ出しましたね。」
「私には役に立たない部下など必要ない」
そこへ若松を仕置きした【ZANN】が部屋に入ってきた。
「さっきのあの男を信じて大丈夫なの?」
【ZANN】は江波一家を連れ去った男の事を問うた。
「【TEGATA】が急ぎ回してくれた。」
「そうなの。判った。」
「君も多治見の仲間なのか?」
問われて【ZANN】が多治見を見やり「仲間?違うわ。信頼している上司よ。」と平生に答えた。
多治見はそれを聞き微笑んだ。安堵した、安寧の笑顔だった。
「【SABAKI】終わったわよ。」筋肉質の大男が入って来た。
【ZANN】が怪訝な顔を二人へ向けた。
「その男もか?」
「私?ニューフェイスで、今日が初仕事なの。」
「ニューフェイスではなくニューハーフだろ」【ZANN】が呟く。
「酷い!そんな言い方」【ABURI】が【ZANN】へ敵意を見せた。
「女とオカマを部下に持つ殺し屋か?とんだ茶番だな」
「二人ともご苦労。後は僕が片付けるから、早々に引き上げてください。」
「承知」と【ZANN】が返事をすると、入って来た窓から出て行った。【ABURI】は何か言いたげに、退くのを躊躇ったが、やはり入って来た窓から出て行った。
それを見た寄は険しい顔になり「ヒーローのつもりか!貴様は刑事の皮を被った、ただの人殺しじゃないか!」
「その通りです。僕は単なる殺し屋に過ぎません。ヒーローなどとは微塵も思っていません。勿論、驕ってもいません。しかし寄さん。貴方は検事の皮を被った上に、狐の皮まで羽織った。卑怯者だ。」
「どちらにしても、多治見。君の立場は変わってはいない。堀川や若松を殺ってくれたのは助かる。あとはお前が死ねば、検事の力で上手く幕をおろしてやる。そうそう。君が殺し屋だった事は伏せてやるよ。」
「何故?」
「礼だよ。使えない部下を葬ってくれた。」
「寄さんは、まだここから出られると思っているのですか?」
「勿論。ここには予め仕掛けをしておいた。」
「火事を?」
「ほう。少しは切れるようだな。多少でも、私も傷を負う事をしないとならんがね。」
「命からがら逃げた振りを?」
「その通りだ!私をガードしていた堀川と若松は、文字通り私の盾となり君に殺されながらも、私を何とか逃がした。警察官の鑑と伝えられるだろう。」
自分の言葉に酔っているのか、顔を幾分か高潮させている。
「でも起爆はしませんよ。」
「なに!」
「起爆はしません。この部屋に入る前に外してきました。」
「馬鹿な。そう言って油断させて、私を陥れる積りだろうが、私は若松達ほど馬鹿じゃ無い。お前の考えなどお見通しだ。」
「では押してみては?」
「そんな古典的な手に乗ると思ってか?」
「かなり疑り深くなっていますね。」
「『慎重』だと言ってほしいね。」
「自分を知らなくて、良く検事になれましたね。」
多治見は冷めた目で見て言った。
「そう言うのを、『慎重』とは言いませんよ。言うなら『臆病』ですかね。臆病で我侭なお坊ちゃん。貴方にピッタリじゃないですか」
「貴様!いい加減に口を慎め!」
「卑怯者の上に小心者のお前なんかが、自力で警部になった俺に軽々と口を利くな!」
多治見が寄を焚き付けた。
「たかが刑事風情が!」
寄が近くに有った廃材を手に取り、多治見へ襲いかかった。
「貴様如きクソ野郎が!」
狂人の様に廃材を振り回すと、多治見の額や鎖骨、太腿に当った。
「死ね。死ね。俺の為に死ね!」
大きく振り降ろした。廃材は多治見の後頭部に当り折れた。
多治見は床に倒れ、意識が遠退いてゆくのを感じた。
(ヤバイな。少しは加減しろ……)
薄れる意識の中で、多治見は這って出口へ向かった。
「た・じ・み。逃げられると思うなよ。」
寄は折れた廃材を捨てると辺りを見回した。鉄のパイプが目に入った。
「もう少し痛めつけたら燃やしてやる。灰になれ!灰になって俺の役に立て!」
勢い良くパイプを振り上げたが振り下ろせない。寄はまさかと振り向いた。
「あんた。やり過ぎだ。」
【ABURI】が片手でパイプを掴んで、寄を睨んでいた。
「貴様は!」
「私達が大事な上司を置いて出てゆくと、本気で思ったの?」
【ZANN】が倒れた多治見に近付きしゃがみ込む。
「ニューフェイス。私が許可する。殺れ!」
「それじゃ。遠慮無く」
「【ABURI】待て!」
寸前のところで多治見が止めた。
「どうして?」多治見を見て二人の質問が揃って問う。
「あくまでも、『焼死』でなくては、僕が疑われる。」
「わかった。【ABURI】一発殴れ!」
「【ZANN】に言われるまでも無いわよ」
【ABURI】が軽くど突くと、寄は一メートルほど飛んだ。
「貴様!俺は検事だぞ!」倒れたまま【ABURI】へ毒づく。
「私はオカマよ!文句あって!」
パイプを寄へ投げ付けた。拍子に寄が持っていた発火装置のスイッチがオンになった。
『ドン』と鳴った瞬間、黒煙が部屋に放たれ、あっという間に充満した。そしてその中央辺りから、天井に届く勢いで火柱が立った。
「この馬鹿!何しているのよ!早く【SABAKI】を外へ連れ出して!」
思いの他早い火の回りに【ZANN】が指示した。
「いちいち指図しないで頂戴。私に命令できるのは【SABAKI】だけよ。」
「待て!私も連れて行け!」
薄笑いを浮かべながら【ZANN】が近付く。
「今日の私は少々苛立っているの。この場で殺して欲しい?」
【ZANN】の目を見て、寄が恐怖を感じた。
「そこで寝ていろ」言うと鳩尾へ一撃入れた。
寄はそのまま気を失った。
【ABURI】が多治見を抱き上げ出口へ向かう。すでに火柱は、炎となって黒煙と共に部屋を占領していた。
「さぁ【SABAKI】行くわよ」
「【ABURI】ありがとう。早く逃げてくれ。」
建物の外へでると、【ABURI】の腕を解いた。
「ここからは這って行かなければ――」
炎が建物全体を覆い、空腹を満たそうとしている。
「でも……」
「【ZANN】頼む。【ABURI】を連れて離れてくれ。それとこれを預ける。」
多治見は葬の携帯を出した。
「どういうこと?」
「復帰するまで頼む」
「わかった。返せるように約束するなら」
「約束だ。必ず――返してもらう」
「承知。――でも【SABAKI】にその様な趣味が有ったとは、思いも寄らなかった。」
「馬鹿な……。【ZANN】と同じ、頼りになる仲間だ。」
「退くよ!」
「判ってるわよ!」
二人が燃える建物を後にした。多治見は少しでも建物から離れようと渾身の力で這った。
遠くでサイレンの音が聞こえる。安心したのか、多治見はそこで力尽き気を失った。




