表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SABAKI 第二部 変革  作者: 吉幸 晶
20/21

真犯人


       真犯人



 多治見は中野駅に着くと、【ABURI】の居る下妙典を検索した。最寄りの駅は東京メトロ東西線の妙典になる。中野からだと乗り換え無しで、一本で行ける事がわかり、JRの改札から、地下鉄の改札口へ変えた。

 『真犯人は誰なのか?』多治見は地下鉄の騒音の中、考え続けた。浮かぶ仮説に疑問を投じ消去する。消去しては次の仮説を説く。


 木場を過ぎた辺りで、携帯が振動しているのに気付き、表示を見る。『課長』とあった。


《電車の中なのでメールにします。何か進展がありましたか?》


《前橋本署の署長は、警察病院へ電話などしていない。との回答でした。多治見はどう見ますか?》


《恐らく、先程お話した仮説の後者だと思います。》


《誰か目星は付いているの?》


《前橋本署に所属する警察官全員に可能性はあります。できましたら、署員の中で、現在、連絡が付かない者を確認してください。》


《了解。再度前橋本署へ協力要請をします。ところで貴方は今何処?》


 『まずい』と思い。返信をする事無く、携帯を閉じ電源を落とした。

(これでGPSも効かない。課長との時間もしばらくは稼げる。)

 電車は南妙典を出たところだった。


 その頃【ZANN】は、【ABURI】のGPSを辿り、監禁現場付近にいた。


《お初です。【ZANN】です。今近くまで来ました。様子はどうですか?》


《初めまして【ABURI】です。建物の中では、誰かが来るのを待っている。そんな感じで特に動きはありません。》


《了解。【ABURI】は建物の何処にいますか?》


《入口の右側に。比較的中が見安い所にいます。》


《了解。では私は、建物の裏手に回る。異変が有ったら連絡を。》


《了解》


 【ZANN】は慣れた体で、防犯カメラを探しながら建物へ近付く。

(カメラ一台、無いなんて。なんて無防備なところなの?)

 【ZANN】は易々と裏手へ回り込み、注意しながら窓から中を覗く。

 縛られてはいないが、母親らしき女が一人と、高校生程の少年と若い男が、母親を守る様な位置にいる。その視線の先には、二人の男が銃を手にしていた。

 一人はやたらと腕時計を見る大男。もう一人は、貧乏揺すりをしながら、タバコを立て続けに吸っている痩せた男。

(どちらも焦れている。やはり誰かを待っているようね。)

 【ZANN】も【ABURI】と同じ判断をした。


 多治見が妙典駅に着いたのは、午後三時半近くになっていた。そこから【ZANN】と同じように、【ABURI】と【ZANN】のGPSを追って、現場の近くまで来ていた。


《現場近くまで来ています。どうですか?》


《依然、誰かを待っているようで、全然動きはなくてよ》


《江波の母親の具合が悪そうだ。できれば早く救出した方が良い。》


 【ABURI】と【ZANN】の返信を読んで、多治見が『奉行』へメールを入れた。


《申し訳ありません。【ZANN】からの連絡で、江波君の母親の具合が悪そうです。こちらで対応させていただきますが、よろしいでしょうか?》


《仕方あるまい。あとはこちらで何とかする。ただ江波一家には、我々『葬』の事を、くれぐれも気取られる事の無きよう。》


《承知。できれば奉行へも迷惑は掛けたくないのですが、真犯人だけは死して尚、名を外へ出す必要があります。》


《判っている。警察の威信よりも、人命を優先に頼む。尚、警察内部の共犯者だが、前橋本署刑事課の若松と警ら課の堀川の二人が、休暇を取って連絡が付かない様だ。信じたくは無いが、この二人が関与している可能性がある。》


《御意》


 奉行とのやり取りの間に、【TEGATA】からメールが入った。


《ごめんなさい。私用で今まで知らずにいました。取り敢えず、避難用の車一台と運転手一人を確保して、そちらへ向かわせました。皆の分まで用意が出来ず、申し訳ありません。》


《ありがとう。江波一家の避難に使わせてもらいます。一家を行徳署へ連れて行ってください。僕達は自力で何とかします。》


《承知。御武運を》


《ありがとう》



 多治見が敷地に着くと、白いキャラバンの隣に、黒塗りのベンツが丁度止まるところであった。

「真犯人の登場か?」

 高く詰まれた砂利の山の裏に回り、誰が降りてくるのか待った。ベンツの運転席のドアが開くと、スーツ姿の男が一人出て来た。

「仲間は無しか。どうやらラスボスらしいな」

 男が建物の中へ入るのを確認すると、大回りをしながら、建物へ移動を開始した。


 スーツの男は建物の中に入るなり、二人の男へ向かい指で『こっちへこい』とサインを送る。男たちは黙ってそれに従った。

「検事さん。僕は約束を守って――」スーツの男へ江波が言う。

「黙っていろ!」

 検事と呼ばれた男は、恫喝して江波を黙らせた。


 多治見は定石通り、建物の裏に回った。【ZANN】を見付け近付く。【ZANN】は黙って窓を指し、多治見はその先へ視線を向ける。


 黙って成り行きを見守る。


「検事さん。母と弟は戻して――」

「さっきも言ったはずだ!黙っていろ!」

 足元に有った空き缶を江波へ蹴り飛ばした。


(ほう。検事なのか)

 二人の男に何かを耳打ちしている検事をみて、多治見は【ABURI】と【ZANN】へ指示を出した。


《君達には、二人の男の仕置きを頼みます。検事は僕が引き受けますので、【ABURI】は痩せた方を、【ZANN】は大きい方を頼みます。二人とも現役の警察官です。充分に注意してください。また、江波一家に悟られる事の無い様に、【TEGATA】が手配した避難用車両が来るまで待機。》


《了解》と二人から返事が来ると、多治見は来た方へ戻り、一番離れた、隣の部屋にある窓から、建物の中へ入った。


「君には失望したよ。少年院を出たら、死を選ぶものとばかり思っていた。何故、死ななかった?」

「母が病気で、その治療を――」

「君達親子は早く死ぬ運命にあるのだよ。治療だんて。無駄な事を――」

「そっそんな。母や均の面倒を見てくれるって約束――」

「何の事かね?君は強盗殺人犯だよ。その家族をどうして私が面倒など見なくてはならないのかね?」

「そう言う約束で、僕があのお爺さんを殺した事に」

「君が勝手にしたことだ。」

「そんな!」

「黙れ!お前達も少しは私の役に立つ所を見せろ!」

 二人の男へ目を向ける。

「そこまでにしませんか?」

 多治見がドアを開けて入ってきた。

「多治見さん!」江波青年が多治見を見て呼んだ。

「遅れてごめん。でももう大丈夫。君達家族は、約束通り僕が守る」

「その人は検事で、あの二人は前橋本署の刑事なんです。」

 江波は安堵の顔を多治見へ向けた。

「感動の再会は済んだかね?多治見――だったかな?」

「はい。警視庁生活安全部の多治見です。」

「ほう。本庁の刑事ですか?どうやってここへ?」

「江波君に付けたGPSを追って」

「GPS?また面倒な物ができたな。」

「それよりも、検事と聞きましたが?」

「ええ。私は前橋地方検察庁。検事の(やどりぎ) と言います。」

「検事がどうして、冤罪の青年とその家族を狙うのですか?」

「冤罪?狙う?どういう事かね?」

「貴方が、前橋本署の刑事数名を使って、お年寄りを殺させたのでしょう?」

「何故に?」

「今はまだ仮説に過ぎませんが、江波君の証言を元に、今日のこの件も含め、追々真相を追究しますよ。」

「追々?君に――。君達にそんな時間が有ると思っているのかね?」

 寄は二人の男へ目配せをした。その時入口のドアが開いた。

「こんな所で何をしている!」

 工事現場の監督風な男が顔を出し怒鳴った。

「警察です。この親子を連れて、行徳署へ行ってください!」

 多治見は空かさず、江波親子をその男へ託した。

「わっ判った!早く乗れ!」

「多治見さん!」

「僕の事は良い。君との約束を守りたい!さぁ早く!」

 江波兄弟は、母親を抱き上げ外へ出た。


 車のドアが閉まる音を聞き、急発進して遠ざかる自動車を見送ると、多治見は寄検事へ歩み寄った。

「これで証人は救った。あとは検事紛いの犯罪者と、刑事を名乗るゴミだけだ。」

「救った?多治見君。君は頭が悪そうだな。」

「僕を消して、江波君に罪を被せるつもりで言ったのでしたら、そのままお返ししますよ。」

「ははは!負け犬が!」

「曽屋を殺したのは寄検事ですか?」

 多治見の問いに、二人の刑事は顔を見合わせた。

「どうせ。外国にでも逃がすから脱走させろ。みたいに二人へ言って、逃げて来た所を殺したのでしょうが――」

「馬鹿な。寝言は寝て言うものだ。」

「今頃前橋本署内では、署員で連絡が取れない堀川さんと若松さんが、曽根を連れ出し殺した犯人だと、目星を付けている頃でしょうね。」

 名指しされて二人は呆然としている。多治見は緩めず、二人を執拗に追い詰める。

「貴方方二人は判っても、まさか検事の寄が、糸を引いている事には及びませんよね。」

「何をもたついているんだ!」

 寄が焦りを隠せずに、口を挟んだ。

「僕の後は、堀川を殺させる算段なのでしょう」

多治見は痩せた方を見ながら話すと、男が明らかに動揺し始めたのが判った。

「早くこいつを始末しろ!」

「何をそんなに焦るのですか?あぁ。図星ですね。若松に堀川を始末させたら、貴方が若松を殺しますか?」

 二人は寄へ不安顔を向けた。目は既に泳ぎ始め。生唾を飲み込む仕草が窺えた。

「最後はこの建物に火を点けて、貴方意外はここで焼死に見せかけるつもりですよね。」

「おっお前達、何をやっているんだ!早く多治見を黙らせろ!」

 二人の男を急き立てる。


「何故、老人達は死ななければならなかったのですか?」

 多治見は先手有利と判断して詰問を緩めずに続けた。

「貴様には関係のない事だ。」

「まさか財産目的ではないですよね。」

 多治見は不敵に笑った。

「独居老人なら、検事や刑事を簡単に信じたでしょう。いくら儲けたのですか?」

 若松に視線を向けて訊いた。

「四人で山分け――それは無いか。寄検事が半分。残りを三人で山分け?」

「いいや。そんな――」

「黙れ!馬鹿みたいに、こいつの口車に乗るな!」

 口を開きかけた若松を恫喝した。

「一軒当り、数百万ですか?手取りだと数十万ですね。そんな端金で、貴方達は寄検事の言うとおりに強盗殺人をしてきた――」

「うるさい!黙れ!」

「何人、殺したのですか?」

 二人の警察官を交互に見て問う。

「三人で何人、殺したのですか?今なら――行徳署の刑事が来るまでなら、逃げられるかも知れませんね。」

 ちらっと窓へ目を向けた。奥側の刑事が後退りを始めた。少しずつ窓に近付く。

「十人ぐらいですかね?それで百万程の金はまだ残っていますか?生活は楽になりましたか?貴方方も警察官なら、『殺し』は割に合わないと良く知っている筈では?」

「こいつを!黙らせろ!」

「警察官を殺すと死刑ですよね。」

 二人の男はそれぞれ近くの窓へ向かって退き始めた。

「そうですね。上手く逃げ切れれば良いですが……」

 多治見が追い討ちを掛けた。若松と堀川は慌てて窓に手を伸ばし、鍵を外して開けた。


 その時【ZANN】が動いた。


 若松が窓を開けて外の様子を見る。窓の真下に隠れていた【ZANN】は、足元の石を数個拾うと、数メートル先へ投げた。同時にバイオリンケースを開けて、弓を取り出した。

 若松は音の元を確かめ様と窓から顔を出した。

 【ZANN】は若松の首に弓を当てると素早く引いた。

若松の頚動脈は弓に仕込まれた刃物に切断されて、血しぶきが立った。若松は「うっ」と短く唸ると、手で首を押さえたが無駄な所作だった。見る見る血の気が引き、床に倒れ体が痙攣を起こし始めた。

 寄は驚きその一部始終を呆然と見ていた。やがて若松は動かなくなった。

「何をした!」

「私は何もしてはいませんよ。こうして貴方の前に立っている」

 堀川はそれを見て、窓から飛び出そうとしたが、太い何かに首を絞められ、身動きができなくなった。

「すぐに行かせてあ・げ・る」

 腕に力を入れて締め上げる。ポキッと音がした。男はバタつかせていた、両手両足をだらっとさせて、動かなくなった。

「本当なら、火を点けてあげるんだけど、今日は準備がないから。ここまでよ。ごめなさいね。」


「貴方の部下は貴方を置いて逃げ出しましたね。」

「私には役に立たない部下など必要ない」

 そこへ若松を仕置きした【ZANN】が部屋に入ってきた。

「さっきのあの男を信じて大丈夫なの?」

【ZANN】は江波一家を連れ去った男の事を問うた。

「【TEGATA】が急ぎ回してくれた。」

「そうなの。判った。」

「君も多治見の仲間なのか?」

 問われて【ZANN】が多治見を見やり「仲間?違うわ。信頼している上司よ。」と平生に答えた。

 多治見はそれを聞き微笑んだ。安堵した、安寧の笑顔だった。

「【SABAKI】終わったわよ。」筋肉質の大男が入って来た。

 【ZANN】が怪訝な顔を二人へ向けた。

「その男もか?」

「私?ニューフェイスで、今日が初仕事なの。」

「ニューフェイスではなくニューハーフだろ」【ZANN】が呟く。

「酷い!そんな言い方」【ABURI】が【ZANN】へ敵意を見せた。

「女とオカマを部下に持つ殺し屋か?とんだ茶番だな」

「二人ともご苦労。後は僕が片付けるから、早々に引き上げてください。」

「承知」と【ZANN】が返事をすると、入って来た窓から出て行った。【ABURI】は何か言いたげに、退くのを躊躇ったが、やはり入って来た窓から出て行った。


 それを見た寄は険しい顔になり「ヒーローのつもりか!貴様は刑事の皮を被った、ただの人殺しじゃないか!」

「その通りです。僕は単なる殺し屋に過ぎません。ヒーローなどとは微塵も思っていません。勿論、驕ってもいません。しかし寄さん。貴方は検事の皮を被った上に、狐の皮まで羽織った。卑怯者だ。」

「どちらにしても、多治見。君の立場は変わってはいない。堀川や若松を()ってくれたのは助かる。あとはお前が死ねば、検事の力で上手く幕をおろしてやる。そうそう。君が殺し屋だった事は伏せてやるよ。」

「何故?」

「礼だよ。使えない部下を葬ってくれた。」

「寄さんは、まだここから出られると思っているのですか?」

「勿論。ここには予め仕掛けをしておいた。」

「火事を?」

「ほう。少しは切れるようだな。多少でも、私も傷を負う事をしないとならんがね。」

「命からがら逃げた振りを?」

「その通りだ!私をガードしていた堀川と若松は、文字通り私の盾となり君に殺されながらも、私を何とか逃がした。警察官の鑑と伝えられるだろう。」

 自分の言葉に酔っているのか、顔を幾分か高潮させている。

「でも起爆はしませんよ。」

「なに!」

「起爆はしません。この部屋に入る前に外してきました。」

「馬鹿な。そう言って油断させて、私を陥れる積りだろうが、私は若松達ほど馬鹿じゃ無い。お前の考えなどお見通しだ。」

「では押してみては?」

「そんな古典的な手に乗ると思ってか?」

「かなり疑り深くなっていますね。」

「『慎重』だと言ってほしいね。」

「自分を知らなくて、良く検事になれましたね。」

 多治見は冷めた目で見て言った。

「そう言うのを、『慎重』とは言いませんよ。言うなら『臆病』ですかね。臆病で我侭なお坊ちゃん。貴方にピッタリじゃないですか」

「貴様!いい加減に口を慎め!」

「卑怯者の上に小心者のお前なんかが、自力で警部になった俺に軽々と口を利くな!」

 多治見が寄を焚き付けた。

「たかが刑事風情が!」

 寄が近くに有った廃材を手に取り、多治見へ襲いかかった。

「貴様如きクソ野郎が!」

 狂人の様に廃材を振り回すと、多治見の額や鎖骨、太腿に当った。

「死ね。死ね。俺の為に死ね!」

 大きく振り降ろした。廃材は多治見の後頭部に当り折れた。

 多治見は床に倒れ、意識が遠退いてゆくのを感じた。

(ヤバイな。少しは加減しろ……)

 薄れる意識の中で、多治見は這って出口へ向かった。

「た・じ・み。逃げられると思うなよ。」

 (やどりぎ)は折れた廃材を捨てると辺りを見回した。鉄のパイプが目に入った。

「もう少し痛めつけたら燃やしてやる。灰になれ!灰になって俺の役に立て!」

 勢い良くパイプを振り上げたが振り下ろせない。寄はまさかと振り向いた。

「あんた。やり過ぎだ。」

 【ABURI】が片手でパイプを掴んで、寄を睨んでいた。

「貴様は!」

「私達が大事な上司を置いて出てゆくと、本気で思ったの?」

 【ZANN】が倒れた多治見に近付きしゃがみ込む。

「ニューフェイス。私が許可する。()れ!」

「それじゃ。遠慮無く」

「【ABURI】待て!」

 寸前のところで多治見が止めた。

「どうして?」多治見を見て二人の質問が揃って問う。

「あくまでも、『焼死』でなくては、僕が疑われる。」

「わかった。【ABURI】一発殴れ!」

「【ZANN(あんた)】に言われるまでも無いわよ」

 【ABURI】が軽くど突くと、寄は一メートルほど飛んだ。

「貴様!俺は検事だぞ!」倒れたまま【ABURI】へ毒づく。

「私はオカマよ!文句あって!」

 パイプを寄へ投げ付けた。拍子に寄が持っていた発火装置のスイッチがオンになった。

 『ドン』と鳴った瞬間、黒煙が部屋に放たれ、あっという間に充満した。そしてその中央辺りから、天井に届く勢いで火柱が立った。

「この馬鹿!何しているのよ!早く【SABAKI】を外へ連れ出して!」

 思いの他早い火の回りに【ZANN】が指示した。

「いちいち指図しないで頂戴。私に命令できるのは【SABAKI】だけよ。」

「待て!私も連れて行け!」

 薄笑いを浮かべながら【ZANN】が近付く。

「今日の私は少々苛立っているの。この場で殺して欲しい?」

 【ZANN】の目を見て、寄が恐怖を感じた。

「そこで寝ていろ」言うと鳩尾(みぞおち)へ一撃入れた。

 寄はそのまま気を失った。


 【ABURI】が多治見を抱き上げ出口へ向かう。すでに火柱は、炎となって黒煙と共に部屋を占領していた。

「さぁ【SABAKI】行くわよ」

「【ABURI】ありがとう。早く逃げてくれ。」

 建物の外へでると、【ABURI】の腕を解いた。

「ここからは這って行かなければ――」

 炎が建物全体を覆い、空腹を満たそうとしている。

「でも……」

「【ZANN】頼む。【ABURI】を連れて離れてくれ。それとこれを預ける。」

 多治見は葬の携帯を出した。

「どういうこと?」

「復帰するまで頼む」

「わかった。返せるように約束するなら」

「約束だ。必ず――返してもらう」

「承知。――でも【SABAKI】にその様な趣味が有ったとは、思いも寄らなかった。」

「馬鹿な……。【ZANN】と同じ、頼りになる仲間だ。」

「退くよ!」

「判ってるわよ!」

 二人が燃える建物を後にした。多治見は少しでも建物から離れようと渾身の力で這った。

 遠くでサイレンの音が聞こえる。安心したのか、多治見はそこで力尽き気を失った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ