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大嫌いな神様へ  作者: 李野メト
序章
5/18

05 病気の月曜日②

 

 無駄に広い廊下を彩る豪華な赤い絨毯に白を基調とした壁、シャンデリアに絵画。到底社内とは思えない内装だ。


「俺、もう疲れたよー、歩けなーい。おぶってーチャンドラ君」


「嫌だよ」


 腰を曲げ、とぼとぼと僕の横を歩くソーマにさっきまで軽口叩いてた奴が何を言うか・・・と、思うが流石にこれだけ広いと疲れるのもうなずける。似たような景色ばかりだし、正直僕も疲れた。


「て、言うか君仕事サボってたよね?」


「その話は終わったでしょー」


「・・・・・そうだね。浮気してた話にしようか」


「してないしてないー・・・あ、ほら着いたよ受付ー」


 ソーマに向けていた視線を前に戻すと天上からぶら下がる 【魂総合受付】 の看板が見えた。


「お疲れ様でーす」


 受付窓口に行くとゆらゆら揺れる水色の身体の女性がにこやかに対応してくれる。

 先程、喧嘩を仲裁してくれた彼女と同じ性質の身体だが見た目が少し違う為、別人だという事がわかる。


「お疲れ様。この子達お願いね」


 腰からランタンを外しカウンターに置き、ポケットから手帳を取り出して彼女に渡す。


「これもよろしくー」


 と、ソーマも腰からランタンを3つ外しカウンターに置いた。


「はーい。確かにお預かり致します」


 受付の彼女はランタンを受け取り、彼女の後ろにズラリと並ぶ棚に移動させると手際よく手帳のデーターをパソコンに取り込み、なにやら打ち込んでいた。


「・・・・・・ソーマ、一応仕事してたんだね」


 サボってばかりだと思ってたから少し驚いた。


「してたよー。褒めてくれていいよ」


「何偉そうにしてるの。3つでしょ、褒められないよ」


「お待たせ致しました。手続き完了致しましたので手帳お返しいたします。お勤めお疲れ様でした」


 小さくお辞儀をする受付の彼女から手帳を受け取りポケットに戻す。


「ありがとう。また宜しくね」


「またねー」

 

 ソーマと共に受付を後にし、仕事に戻る為大広間へ向かう。

 本部のゲートは大広間に固定されていて他の場所へは移動できない様になっている。その為この無駄に広い本部を自力で移動する羽目になるのだが・・・まぁ仕方がない、決まりだ。

 地上界のゲート開閉位置も大まかには決まっているが、割と範囲が広くゲート移動で困ったことはあまり無い。


「・・・・・あれ?」


 ソーマが視線を右に向け立ち止まる。


「なに?どうしたの?」


「いや、あれ」


 ほら、とソーマが指をさす方を見ると珍しい奴がソファーに腰かけくつろいでいた。

 ここは本部内の休憩所の一つで軽食も販売されている為、割と人が集まりやすい場所でかなりの人がいる。


水曜(すいよう)?」


「だよねー」


 何色か混じった淡い色に疎らな長さの髪。遠目で見ても水曜だという事が良くわかる。


「昼間もここに居たんだよねー、シヴァと。珍しいよねー」


「・・・・昼間?」


 ギロリとソーマの方を睨むと、しまった。と顔を逸らされた。


「昼間は僕と手分けして仕事してたはずだけど?ソーマ?」


「うーん・・・と、あ!ほら、ちゃんと仕事してたよー3つランタン持ってたでしょー?やだなぁーチャンドラ君」


 うん、確かに持ってたよランタン。


「・・・・僕は昼のと合わせたら34体回収してるんだけど。あとそれって夕方分は0って事で良いのかな?」


「えー・・・・とぉ、・・・・・・ごめんねー?チャンドラ君。ロンドンは素敵な女性が多くて困るよねー」


 開き直りやがった。女好きのサボリ魔め。


「まぁ、良いよ。ソーマの分ノルマ上乗せで」


「えぇー、俺たちペアなのにー?」


「僕たち、ペアでしょ?」


 ソーマにもしっかりと働いてもらわないと仕事が減るどころか増える一方だ。僕たちは死神の中で唯一の2人組だけど仕事の忙しさは随一で・・・決して2人だから楽というわけではない。


「それよりー、地上界で何かあったみたいだよー?」


「何かって?」


「詳しくは知らないけどー・・・シヴァが水曜にしばらく地上界に居るようにーって言ってた。なんか急ぎみたいだったけどー」


 シヴァは最近地上界に留まってるみたいだけど・・・それに水曜も呼ばれたって事かな?


「ソーマ、盗み聞きしてたの?」


「聞こえたのー。でも何で水曜まだここに居るんだろー?おまけにくつろいでるし。」


 確かに。昼間に呼ばれたのに今も本部に居るなんて。


「命令無視とか?」


「まっさかぁー!シヴァの命令無視するとかぁ・・・・・ありえるね、水曜なら」


「私が、何ですか?」


 悪寒と共に背後から声が聞こえ、先程まで水曜が座っていたはずのソファーに目を向けるも、当然誰も座っていない。

 ソーマに返事をするように目配せしたが向こうも僕に念を送ってきている。

 押し付け合いだ。

 正直、水曜は苦手だし関わりたくないのに・・・あぁ、さっさと仕事に向かっていればよかった。


 ・・・・このままじゃ硬直状態だし仕方がない、時間の無駄だ。

 意を決して振り返る。


「お疲れ様、水曜」


「はい、お疲れ様です。月曜(げつよう)・・・・もとい病原菌共。会話に私の名前が出ていたようですが、何か用でも?」


 ・・・・・これだよ。けど水曜のこの物言いにも大分慣れた。・・・・・嫌な慣れだけど。

 口調が丁寧なのがさらに言葉に凄みを増すんだよね。あと、顔立ち。美人ほど怒ると怖いって言うけど、まさにそんな感じで無表情が際立つ。男でここまでの美人はそうそう見ないし。


「いや、水曜がなんで本部に居るのかなーって話してたんだよ」


「私が本部に居てはいけませんか?本部に居ることに月曜の許可が必要でしたか?」


「そうじゃなくて。水曜、昼頃シヴァに呼び出されてたって聞いたからさ」


「あぁ。面倒なのでサボっているだけですよ」


 さも当然と言うように言い張る水曜に呆気にとられる。それはソーマも同じようで豆鉄砲をくらったかの様な顔をしていた。


「水曜、流石にシヴァの命令は無視しないほうが良いと思うけど・・・」


「うんうん。あの人怖いしー短気で有名だしー」


「面倒ですがちゃんと行きますよ。シヴァの命令に逆らえるとは思ってません。限界まで先延ばしにしてるだけですよ」


「そう・・・・・」


 腕を組みながら心底面倒臭そうに言い放つ水曜の背後にドス黒いオーラが見える・・・気がする。これ以上関わりたくない、ほんとに。機嫌悪すぎでしょ・・・それに仕事にも行かないと。


「じゃあ、僕達仕事に戻るからこれで失礼するよ」


 手帳を確認すると、今話していた間にも仕事がかなり増えていた。

 僕達が直接行かなくても大丈夫そうなものもあるけど、他の死神に比べると僕達は使い魔を多く従えていないから自分達でやる仕事が多いし・・・。


「え、少し休んでから行こうよー。俺、疲れたよ」


「そんな時間はないよ、ほら見てこうしてる今も増えてる!はやく仕事に戻らないと・・・」


 どんどん文字が記されていく手帳をソーマに見せ、急かす。仕事が増えているという事実が許せない・・・はやく減らしていかないと・・・。


「・・・・・あぁ、病気は絶好調のようですね」


「そうなんだよー、このワーカーホリックどうにかしてー。俺過労で死んじゃうー」


「僕はワーカーホリックじゃないよ!仕事が増えるのが嫌なんだよ・・・こうしてる間にも順調に増えていっていると思うと・・・耐えられない、早く仕事に戻らないと。行くよソーマ」


「やーーーだーーー」


 駄々をこねるソーマを引きずり大広間へ向かう。





 あぁ、早く日付変わらないかな・・・月曜日は嫌いだ。



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