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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
7/53

会合前の議論で

倫子は、緊張気味な洋子が隣の6の部屋へと入って行くのを見て、自分も部屋のノブを回した。反対側の隣は4で匠なのだが、これまた険しい顔つきで中へと入って行く。

倫子は、なぜかまだそこまで真剣になれなかった。そんなに怖がる必要があるんだろうか。どうなるか分からないとは言っても、結局は命まで取られないように思う。こんなに人数が居るのに、追放されて順に命を落としていたらかなりの人数になるだろう。そんなことは、いくらなんでも誰にも出来ないだろうと思っていたのだ。

部屋へと足を踏み入れると、広いシングルルームといった感じの、綺麗な部屋だった。

外の雰囲気と同じような欧風のレトロな雰囲気をイメージしていた倫子には少し期待外れだったが、それでも大きなベッドに、綺麗に掃除された真新しいバスルーム、大きなクローゼット、テーブルに椅子を見て心が沸き立った。

一人にしては、大きな部屋で、ラッキーだわ。

倫子は満足して、窓際へと歩いて行った。すると、通り過ぎざまに、テーブルの上に真っ黒な背景に赤い狼のシルエットが描かれてあるカードがあるのが、目に留まった。

ギクリとして立ち止まった倫子は、そのカードを凝視した。

何これ…まさか、私、人狼なの…?

倫子はしばし呆然と立ち尽くしていたが、しばらくしてハッとした。もしかして、これは裏なのでは。

倫子は、それをひっくり返した。

すると、そこにはほのぼのとした木や山を背景に、クワを手にした農夫らしき男が立っている絵があり、その下に「村人」と、書いてあるのが見えた。

…ああ…村人かあ。

倫子は、人狼を引いたと思ってあれほどドキリとしたことも忘れて、肩を落とした。村人…ホッとしたような、残念なような。

だが、村人ならこの時間何もすることが無い。

倫子は、村人のカードを引き出しに仕舞うと、きょろきょろ辺りを見回した。何かすることはないかと何気なくクローゼットを開いて中を見ると、そこには自分が持って来たカバンが、先回りして置いてあった。荷物はどこへ行ったのだろうと思っていた倫子は、急いでカバンを開いてスマートフォンを探した。

せめてここがどこなのか、これで分かるよね。

倫子は望みをかけてスマートフフォンを開いて急いで見る。

当然というか、完全に圏外だった。

「そうだよね…そんなにうまく行くはずないかー。」

倫子は独り言を言うと、ベッドにごろんと横になった。人狼は誰だったんだろう…それにしても、お腹がすいたなあ…。

何もすることもなく、ベッドに寝転がって過去のメールや写真などを見ているうちに、倫子はうとうととし始めて、そのまま眠ってしまったのだった。


「倫子!」

物凄い音量の声がいきなり響いて、倫子はガバッと起き上がった。日が窓の外の日は傾いて来ている…倫子は、自分が寝入ってしまっていたのに気がついた。

ベッド脇を見ると、要が腰に手を当てて怒ったような顔をしている。その横には、洋子が凍り付いたような顔で立っていた。

「要っ?!なに、そんな大きな声出さないでよ!」

要は、うーっと唸ると言った。

「あのね!今何時だと思ってるんだよ、五時半だぞ?!もうあと30分で会合だし、みんなとっくに下へ降りて来ていろいろ食べながら話してたりするのに、倫子だけ来ないから来てみたら!よくこんな状況で寝てられるね!呆れて物も言えないよ!」

呆れて物も言えないはずの要は、そこまで一気にまくしたてた。倫子はさすがに反省した。いくら村人だからって、緊張感が無さ過ぎた…。

「ちょっと横になるだけのつもりだったのよ。ごめん、起こしてくれてありがとう。」

要は他にも何か言いたそうだったが、くるりと横を向くと、ドアの方へと歩き出した。

「ったく姉ちゃんでもすぐに出て来てみんなと必死に人狼探してるってのにさあ。倫子がここまでバカだとは思わなかったよ。」

そう言ってさっさと出て行く要を見送りながらのろのろと立ち上がった倫子は、居心地悪さを隠すために笑いながら洋子を見た。

「ほんと私バカだから、村人だって見たら安心しちゃって。洋子は人狼が誰だかわかったの?」

洋子は、そんな倫子に二コリともしないで答えた。

「まだ全然。話してみたら分かると思うけど、みんな嘘が上手いよ。あの中の誰が嘘ついてるのか全く分からないんだもの。倫子、ほんとに呑気だね。そんなことしてたら、吊られるよ。」

その言葉には、全く温度が無かった。倫子がそれを聞いてショックのあまり言葉を返せずにいるうちに、洋子はさっさとそこを出て行ってしまったのだった。


しばらくそのまま立ち尽くしていた倫子だったが、このままでは本当に吊られてしまうかもしれない。

勇気を振り絞って、空腹を抱えたまま一階の、あの最初に目覚めた大きな部屋へと向かった。


扉の中からは、要が言ったように皆の声が活発に聞こえて来る。

ますます入りづらかったが、そうも言っていられない。倫子は、扉に手を掛けると、そっと押し開いて中へと足を踏み入れた。

すると、皆が一斉にこちらを見た。

いきなり大勢の視線に晒されて怖気づいたが、倫子は思い切って頭を下げた。

「すみません!ちょっと横になるつもりが、こんな時間になってしまって…緊張感が無さすぎました!」

京介が、顔をしかめながらも微笑した。

「ああ、いいって。ここまで緊張感無いと、逆に倫子ちゃんは白い白い。今日吊ろうなんてことにはなってないから安心して。」

倫子は幾分ホッとして顔を上げた。

「でも…あの、もう誰を吊るとか、そんな話に?」

美沙が、首を振った。

「何も。誰が怪しいかとかは話してるけど、役職はまだ誰もカミングアウトしてないの。そういうことは、会合の時間にしようってことになっていてね。」

匠が、しかし横から言った。

「だが、要が怪しいんじゃないかって話になってたぞ?あんまりにも強気な発言が多いから。」

要は、頬を膨らませた。

「そう思うってことを言って何が悪いんだ。人狼同士はお互いを知ってるんだし、数が多いから票を固められたら村人がバラバラだと負ける。」

匠が、要を軽く睨んだ。

「そりゃ人狼だって脅威だが、狐だって居る。先に狐探しだなって、今話してたところじゃないか。背徳者が居るんだ、狐は一人じゃない。」

美沙はそのやり取りを聞いて苦笑したが、倫子に向かって言った。

「こちらへいらっしゃいよ。もうあと20分も無いけど、あなたも話に加わって。」

倫子は頷いて、本当なら洋子達高校生組の方へ座るのだが、今はそちらは空気が重いような気がしたので、美沙達大学生組の近くへと座った。美沙が、倫子が座ったのを見てから、言い合っている者達の方へと向き直って言った。

「誰かの偏見で誰が怪しいとか言うのは無しよ。今は役職だって出してなくて、確かな手がかりなんて何一つないの。匠さん、こんなに何も無い中であなたみたいに誰かを名指しにしたら、人狼だと疑われるわよ?だって、この中で確かな情報を持っているのって、人狼と共有者だけなんだもの…誰かを攻撃できるのは、それだけ自分の陣営じゃないって確証があるからでしょう。でなければ分からないんだもの、怖くてはっきり言い切れないじゃない。」

あまりきつい言い方をしない美沙が、突然にそんな風に攻撃的に言い出したので驚いたのか、匠は顔を赤くした。

「そんなこと…要が強く意見を言って場を支配しようとしているように見えたからだ。根拠がないことを言ってるんじゃないぞ。」

それには、京介も頷いた。

「そうだ。オレが一応引率係だったってことで、オレがどうやって議論を進めるかを決めて行こうってみんなで言っていたところだったのに、要がそれじゃダメだと言い出したから。」

倫子は、おろおろとした。何か、急に空気が殺伐とした来たように思う…さっきまでは、なんだか普通に議論しているような感じだったのに。

慎一郎が、横から言った。

「とにかく、今はどうやって議論を進めるか、だ。誰が怪しいとか今決めるのではない。議論の席で決めるんだ。」慎一郎は、美沙を見た。「美沙さん、どうもみんな感情的になるようだ。あなたが決めてもらえますか?」

慎一郎は、美沙には敬語を使う。これは、最初からそうだった。美沙の方が年下なのだから、皆と一緒でいいはずなのに、美沙のどこか神秘的な雰囲気がそうさせるのだろうか。

倫子がそう思って見ていると、美沙が頷いて言った。

「じゃあ、ここは私が。さっきから皆で話していたことをざっとまとめると、6時の議論が始まったら、先に共有者に出てもらう。両方出るかどうかは、本人たちに任せる。その後、ここで話していたことで気になっていることを、質問し合う。その後、怪しいと思う人物を決める。役職を持っていたら、そこで申告。それで、いいかしら?」

こちらで言い争っていた者達以外が、頷いた。要も、遅れて頷く。倫子が何とか収まったみたい、とほっとしていると、洋子が手を上げた。

「あのいいですか?」倫子は驚いた。洋子は続ける。「役職、吊られそうになってから出て来ても、信じられないんじゃないですか。狩人が居るんだし、先に出して置いた方がいいんじゃ。」

それには、結が頷いた。

「確かにそうかも。本物なのに、吊り回避と間違えられて逆に投票されたり。」

美沙は、ため息をついた。

「そうね…じゃあ」と時計を見た。「もうあと5分ほどで6時になるわ。その辺りのことは、占い師や霊能者自身の判断に任せましょう。さ、席を移動して。」

皆が、ぞろぞろと暗い表情で席へと向かう中、倫子はそっと窓の外を見た。まあ六時前の空は、まだ赤く染まってはいない。窓の外には、海が広がっていた。

リゾートに来たなら、こんなにきれいな場所はないのに…。

倫子は、残念に思いながら、窓を背に席へと向かった。

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