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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
5/53

理由

声は、無表情な機械的な女声で言った。

『これから、皆さんへご案内を始めます。それぞれ腕輪の番号の席に着席してください。』

皆の表情が、一気に凍り付いた。ご案内…ご案内って言った?

美沙が、青い唇を引き結んで立ち上がった。

「番号の席って、どういうことなの?」

すると、声はしばらく黙ってから、機械的に答えた。

『楕円形テーブルの椅子です。そちらの椅子に、それぞれ番号が刻まれてあります。そちらは、これから会合や話し合いの際に使う場所ですので、場所を覚えておいてください。』

美沙は、ツカツカと歩いて行って、一つ一つ椅子の背を見た。そして、暖炉の前ぐらいの席を見て、そこへ座った。

「ここが、私の席ってことね。さ、みんなも。とにかく説明を聞かないと、何も分からないんだから。」

皆は、恐る恐るこちらへと寄って来る。そして、美沙と同じように椅子の番号を確かめ、そこへ座った。ぐるりと円を描くように、14の椅子があったので、綺麗に皆がそこへ収まった。

暖炉側の長い辺には純、政孝、美沙、京介、繋がった短い辺には杏子、匠、倫子、暖炉側の対面の長い辺には洋子、要、満、結、そしてぐるりと回り込んでもう一つの短い辺には慎一郎、大悟、靖が座っていた。これも順番通りに並んでいて、美沙を起点に右回りに京介が2、杏子が3というように席が振り分けられているのだ。

座り終わると、それを見ていたかのように声が続けた

『それでは、これから皆さまに行なって頂くゲームのことについてご説明致します。』

皆が、一斉に政孝の方を見る。政孝は、肩をすくめた…まさか、言った本人も本当にゲームをさせられるとは思っていなかったのだろう。

しかし、京介が割り込んだ。

「ゲームとはなんだ!オレ達は、ここへ生徒たちの引率と指導の手伝いだってことで来たんだぞ!オレ達までそれに付き合わされるっていうのか!」

声は、機械的に答えた。

『こちらへ招待された者は、皆例外なくこのゲームに参加して頂きます。棄権すれば、追放となります。』

追放、という言葉を聞いた途端、杏子がヒッ!と情けない声を上げた。京介が呆れたように杏子を見てから、言った。

「追放とはなんだ?!」

しかし、声は言った。

『これ以上の妨害は追放の対象となります。それでは、ゲームの説明を致します。』

京介は、その追放が何であるか分からない以上、これ以上何か言うのは得策ではないと思ったのか、ぐっと押し黙った。

声は、先を続けた。

『皆さまには、これより、人狼ゲームをプレイして頂きます。役職は既に皆さまの番号に準じたお部屋の方へと振り分けられてあり、後程ご確認頂き、今夜から開始になります。』

皆が、さっとその部屋にある大きな金時計へと視線を走らせた…今は、まだ明るい。時計は、三時を指していた。

それでも何かして訳の分からない「追放」という事態にならないように、みんなじっと黙っている。

声は、遠慮なく続けた。

『人狼ゲームは、人狼陣営と村人陣営に分かれて戦って頂くゲームです。昼のターンと夜のターンがあり、昼のターンでは毎日夕刻7時にこのテーブルの指定の椅子に座り、追放する人物を一人、決めて頂きます。夜のターンでは、人狼陣営が村人を一人、襲撃することが出来ます。勝利条件は、村人は人狼を全て追放すること、人狼は村人と同じ人数になること、とします。』

「…知ってるわよ。テレビで見たことあるもの。」

洋子が、ぽつりと呟いた。余計なことを、と倫子は思ったが、しかし声を出すことは出来なかった。

しかし声は、そんな洋子の声が聴こえたのか聴こえなかったのか分からないが、無視して続けた。

『ですが今回、ここには第三陣営となる妖狐が役職に加わります。妖狐は人狼に襲撃されても死なず、占われると死亡します。妖狐の勝利条件は、村人陣営、人狼陣営のどちらかの勝利条件が満たされた時点で生き残っていること。村人は人狼を全て駆逐したとしても、妖狐が残っていた時点で敗北となりますのでご注意ください。人狼も、村人と同人数になった時点で妖狐が生き残っていたら敗北となります。つまり、村人2、人狼2、妖狐1でも妖狐の勝利となります。』

洋子が、戸惑った顔をした。知らないのかもしれないな、と倫子は思った。倫子が友達と何度か携帯のアプリで遊んだ時も、洋子はそこに加わって居なかった。

『詳しいゲームのルールはお部屋に置いてあるルールブックをご参照ください。ルール違反は全て追放の対象となりますのでご注意ください。それでは次に、一日のスケジュールを読み上げます。画面をご覧ください。』

パッとモニター画面に文字が現れた。表のようになっている。左に時間、右に項目と分かれていた。

『ここでは厳密に時間が決められており、これに従って行動して頂きます。遅れた場合は全て、追放となります。』

「…なんでも追放追放って。」

隣りで、匠が小さく言った。倫子も、段々と気になって来た。追放とは、いったいどういうことなのだろう。ここから出して帰されるのだろうか。だとしたら、その方がずっと気持ちは楽なんだけど…。

やはり声は無視して続けた。

『午前5時、部屋のロック解除。午前7時起床。午前7時までに部屋を出ない場合はもう一度ロックされ、追放対象となります。出ていればロックはされず、その後も自由に出入り出来ます。』

早い…!

倫子は思った。7時までに部屋を出ないとということは、7時前には起きて着替えて準備しておかないといけないのだ。

最近朝は昼過ぎまで寝ていた倫子にとって、あり得ない時間だった。

『食事はそれぞれに済ませてもらい、午後6時、指定の椅子へ着席して追放会議を始めてください。それまでに話し合いはいくらしてくださっても結構です。ですが、必ず午後6時には着席してこちらで会議を。そして、午後7時ぴったりに投票が開始され、その日の追放者を決めます。午後9時、部屋の鍵が閉じられますので、それまでに必ず部屋へ入ってください。午後10時、腕輪の通話機能が使えなくなり、館内の廊下などが消灯となります。』

「健康的だな。10時に寝ろってか。」

大悟が言う。意外にも、それには声が答えた。

『もちろん村人はそこから就寝可能ですが、役職を持った村人は、午後10時から午後11時までの間にその、役職を行使することが出来ます。午後11時を過ぎますと出来なくなりますのでご注意ください。』

大悟は、驚いた顔をした。こちらが言ったことは、やはり筒抜けのようだ。

『そして、午後11時から午前2時の間、人狼陣営の方々のみ部屋を出ることが出来ます。その間に、襲撃先を話し合い、決めてください。時間を過ぎますと、人狼陣営は全て追放となり、勝利陣営無しとなります。』

人狼嫌だな…と、倫子は思った。意見が合わなくて長引いたら、最長2時まで掛かるのだ。朝7時に部屋を出ないといけないことを考えると、睡眠時間を削られるのは嫌だった。

京介が、声を上げた。

「質問していいか?!」

声は、すんなりと言った。

『答えられることならば答えても良いでしょう。』

京介はそれを聞いて、ホッとしたように肩の力を抜くと、言った。

「まず、これは合宿なのか?それとも、オレ達は騙されて連れて来られたのか?」

声は、少し黙った後に、言った。

『皆さまの目的に沿った体験が出来るよう、規則正しい生活と、集中して物事を考える機会、今までにない体験を提供しております。』

京介が次を口にしようとしたが、それを遮るように悲鳴のような杏子の声が叫んだ。

「追放は?!追放って何?!」

京介は顔をしかめたが、皆の目に力が入った。誰もが、聞きたかったことだからだ。

声は答えた。

『追放とは、その時々に合った方法でこの場から退場して頂くことです。一時的な意識の喪失は伴う可能性がありますが、勝利陣営の側ならゲーム終了時に戻って来ることが出来ます。』

他にもまだ声を上げようとした者達は居たが、声は続けた。

『今回の使用役職を申し上げます。』

京介が言った。

「質問はまだ終わっていない!」

『こちらへ声で干渉出来る時間は決まっております。役職に何が配られているのか、知らないままで良いのなら続けてください。あと、五分です。』

あと五分なら聞けることも限られている。

みんなが京介を見て大きく首を振った。役職を知っておかないと、対策を立てることが出来ない。その役職を引いた者が、出て来れる状況とは限らないからだ。

「…続けてくれ。」

京介が観念し、声は続けた。

『今回の役職は、人狼3、狂人1、共有者2、占い師1、霊能者1、狩人1、村人3、妖狐1、背徳者1。』

洋子が、慌てて叫んだ。

「背徳者って何?!」

『妖狐陣営の役職で、妖狐が誰であるのか知っており、妖狐が追放されれば一緒に追放されます。占われたら村人と出ます。』

匠が、苦々しげに言った。

「つまり狐は今回一人じゃないってことか。どっちにしろ、呪殺だな。」

慎一郎が横から頷いた。

「占い師は誰なのか。責任重大だな。」

声が、いきなり言った。

『それではこれで時間となりました。鍵のかかっていない部屋は全て移動可能です。隣りにキッチンがありますので何でも召し上がって結構です。備え付けの備品は全て皆様のためのものなので、』

ブツ、と嫌な音がしたと思うと、声は唐突に途切れた。モニターも同時に消え、急にシーンと静まり返る。

政孝が、落ち着いた声で言った。

「あちらも、何かの決まりの上で動いているってことかな。」

高校生の靖が、うーんと伸びをして立ち上がった。

「つまり、この建物からは出してもらえないんでしょ?部屋って言ってたけど、どこかな。さっき、声が聴こえる前に探検しようってなってたじゃん。行ってみないか?」

要が、頷いて立ち上がった。

「そうだよね。行こう。他に、行きたい人居る?」

みんな顔を見合わせていたが、結局全員立ち上がった。

「行こう。見て回って置いた方がいいから。腹は減ってるけど、食べるのは後だ。」

匠が言うのに従って、皆がぞろぞろとその部屋を出て、廊下へと向かう中、美沙はためらいがちに、モニターを見上げた。最初悲しげだったその瞳には、徐々に強い光が宿って行ったが、それには誰も気付かなかった。

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