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獣はヒトの夢を見る  作者:
美沙
49/53

襲撃、そして終了

建物の中は、驚くほどに静かだった。

幾ら美沙の聴覚がいいとはいえ、部屋に居て違う部屋の中の物音までは聴こえない。

皆が、部屋で何を考えて何をしているのかも、ここでは全く分からなかった。

だが、不用意に外へ出てうろついているのを誰かに見られて、疑われるのも面倒だ。

美沙は、じっと部屋で横になって、ここ数日のことを考えていた。

初日には14人居た人数も、今では4人だ。平静を保っていられない者や、目立つ者から先に吊られたり噛まれたりして行った。

いつもながら、皆を騙す立場でこのゲームに参加するのは心に堪えた。まだ村人として人狼を探す方がましだ。素直に自分を信じてくれる者達を、軒並み絶望の淵へと叩き落としてしまわねばならないからだ。

しかも、自分は本当に人狼。ヒトとは相いれない存在だ。それゆえにヒトに戻る夢を見て、ああして協力したくもない実験に参加させられ、自分の体のデータを提供し続けなければならない。

それに比べたら、あなた達など良い方だわ。

美沙は、そう思うことで、皆を騙して勝ち残ることへの、罪悪感から逃れようとしていたのだ。


夕方も近くなった来た頃、扉の外に気配を感じた。

ヒトなら分からない気配も、美沙には分かった。

…扉の前に一人、脇に一人、離れて一人。

美沙は、3人が揃って自分の部屋へ来たことを知った。インターフォンが鳴る…。

「はい?」

美沙は答えた。扉へ寄ると更に分かる。倫子が目の前に居るが、脇に小柄の…恐らく純が居る。開いた扉の影になる場所に居るということは、自分をどうにかするつもりなのだ。

『あの、もう下へ降りようと思って。美沙さんも、一緒にどうですか?』

美沙は、フッと笑った。そう…まさか純が、そんな選択をするとはね。

美沙は3人がどんなつもりでここへ来たのか察した。だが、すんなりと答えた。

「ええそうね。もうあと半時ほどだし。ちょっと待って、すぐ出て行くわ。」

すぐに、電子音をさせて鍵を開く。

目の前の扉が、押し開かれた。

倫子は、美沙を見たまま棒立ちになっていた。

倫子ちゃんにはおびき出すなんて無理よね。

美沙は、思って何でもないように足を踏み出した。

「どうしたの、なんて顔をして…、」

美沙の声は、そこで止まった。

倫子の目の前で、純は確実に美沙の首の横を一太刀にしていた。

真っ赤な鮮血が、筋になって純が振り下ろした包丁の先から美沙の首へと繋がっているのが見える。

満が、声も出せずに呆然とそれを離れた位置で見ている。

そして、倫子が慌てて美沙を見ると、美沙は冷静に自分の首を押さえて、じっと純を睨んでいた。純は、フッと笑った。

「終わったな。」

美沙は、手を真っ赤に染めながら言った。

「そうね。」

純は、その場にぐにゃりと倒れた。

目を開いたまま、そのままぴくりとも動かない。倫子は、純に駆け寄った。

「ああ純!純…私達のために!」

美沙が、冷たい瞳で倫子を見下ろして、言った。

「…無駄になった。どちらにしろ、私達第三陣営の勝ち。私は、こんなことぐらいでは、死ねないから…。」

そう分かっていた。私はあなた達が私を殺すつもりで来たことを。だけど、私は死なない。これぐらいでは、死ぬことが出来ない…。

ドサリと、傍らで音がする。倫子が慌ててそちらを見ると、満が不自然な形でその場に倒れていた。

「満さん?!」

そう言ったかと思うと、倫子も目を開いたままその場へばったりと倒れた。

「安心して。何もかも無かったことよ。」

美沙は、倫子に言った。聴こえているのは、分からなかった。だが、これで終わったのは確かなのだ。

『おめでとうございます。狐陣営の勝利です。』

飛び散る血を押さえる手にある腕輪から、声がする。美沙は、腹立たしげに言った。

「どうでもいいわよ。それより、早く博正と真司さんを治療して!まだ息はあるんでしょう!それが約束だったでしょう?!」

美沙の声に、ジョンが答えた。

『ああ、驚いた事にまだ息はある。しかも二人共人型に戻ったぞ。物凄い生命力だ…いいデータ収集になった。』

美沙は叫んだ。

「余計なおしゃべりはいいわ!早く治療しなさいよ!この子達もさっさと処理して帰してあげて!あんた達の研究には関係ないんだから!」

ジョンは、からかうように言った。

『ああ、それなりにクライアントも楽しんでくれたようだし、微々たるものだが資金調達にはなった。全て問題なく始末はつける。お前の大事な仲間も、私達だってあれだけのサンプルを、失うのは惜しいからな。人型に戻ってすぐに治療は始めている。知っているだろう、死んでいても薬品投与から24時間以内なら蘇生は可能だと。生きているヒトなら、私達は簡単に生かす事が出来る。』

美沙は、首から手を放した。驚くべき事に、血はもう止まっていた。しかも、傷口が勝手に再生を始めている。

「じゃあ、私も戻るわ。こんな場所、もう1分でも居たくない。」

白い防護服のような物を着た人間がわらわらと入って来て、倒れた倫子と純、満をそれぞれ担架に乗せて運んで行く。

声が言った。

『悪いがまだ無理だ。君にはまだ引率者としての仕事が残ってるだろう。皆を一度研究所へ戻して、帰す処理をせねばならない。そしてそれらの町の港まで送り届ける船に、君も同乗して行ってもらう。そこまでが君の仕事だ。』

美沙は、フンと横を向くと、横から出て来た防護服の男について、そこを出て行った。

皆同じに見えるその人達は、まき散らされた血糊や、他の場所の清掃などを慣れたようにこなしていた。

美沙は、自分がここへ再び来ることになった経緯を思い出し、苦々しい思いでそれを見ていた。


その島の建物の地下には、開発された医療機器が運び込まれてあり、ゲームで出た死傷者はここで処置され、回復する。

美沙が降りて行った時には、台に並んだ12人が、じっと目を閉じて横たわっていた。

そのうちの3人は、今まさに運び込まれたばかりなので、白衣姿の男達がわらわらと取り囲んで処置をしている。

しかし、後の残りの9人は、もうとっくに処置を終えてただ寝息を立てているだけだった。

美沙は、要に歩み寄った。

「ああ良かったこと。傷も、思った通り残りそうにないわね。」

美沙が言うと、傍らから聞き慣れた声が応えた。

「ええ。今回は襲撃と言っても、ナイフで一突きでしたから。ご心配には及びません。」

美沙は、慌てて振り返った。

そこには、慎一郎が立っていた。

「慎一郎!良かった、変な薬は使われなかったみたいね。」

慎一郎は、苦笑した。

「オレには睡眠薬すら使われませんでした。あのまま意識を保ってここへ降りて来て、それからは皆の手伝いをさせられていたので。もちろんのこと、皆蘇生に成功していますから、ご心配ないように。」

美沙は、頷いた。

「記憶の処理は?」

慎一郎が答えた。

「むしろオレはそっちの方を手伝っていて。新しい3人以外は終わっています。」と、3人の様子を見た。「あの3人は面倒なので眠らせただけです。だから体の回復を待たなくていいが、ただ、倫子ちゃんが面倒だ。」

美沙は、眉を寄せた。

「何か問題が?」

慎一郎は頷いた。

「最初の投与から気付いていたらしいのですが、薬が効きにくいのです。最初の睡眠薬も、我々と同じ量の投与でやっと利いたのだとか。つまりは、洗脳もしにくい可能性がある。我々と同じ体質かもしれません。」

美沙は、台で処置を受けている倫子の方へと視線をやった。

「…人狼実験だったら、あの子も適応して人狼になっていたところね。ラッキーだわ。」

慎一郎は、顔をしかめた。

「記憶を消せる適量が分からないので、途中で一度試してみなければなりません。消えてないようなら、また投与して催眠を掛けなおさねば。我々にとってはラッキーな子ではありませんよ。」

美沙は、ふいと踵を返した。

「覚えていてつらいのはこの子の方よ。忘れたいと思わせたらいいのよ。」と、歩き出した。「着替えて来るわ。切られて血で汚れちゃったし。」

慎一郎は、頷いた。

「傷はふさがっているようですし。処置が終わるまでまだかかります。ゆっくりなさってください。」

美沙は、背を向けたまま手を振ると、そこを出て行ったのだった。

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