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獣はヒトの夢を見る  作者:
美沙
46/53

終わらせたい

美沙は、本当なら今日中に終わらせてしまいたかった。

だが、焦っては人狼にやられてしまう。分かっているのに吊れないもどかしさったらなかった。

キッチンから満が戻って来て、美沙も座り、純が入って来た。そして、いつも一緒だった靖が少し遅れて、廊下の方から入って来た。

満が、顔を上げた。

「なんだ、何も食べてないんじゃないのか。頭を働かせようと思ったら、少しは食べないと。キッチンへ行って来るか?」

靖は、青い顔をして、首を振った。

「いや…そんな気になれない。」

確かに、あの議論の中断の仕方だったらそうだろう。

だが、靖は人狼ではない。だから今日吊ったって終わらない。

美沙は、そう思っていたが、あくまで村の流れに任せるつもりで、聞く姿勢を崩さなかった。

満は、座った靖に仕方なく頷いて、皆を見た。

「たった五人…少なくなったもんだ。」満は、諦め半分のような声で言った。「オレの霊能結果は聞くまでもなく、昨日終わってないんだから慎一郎は白だ。狐かどうかまではオレには分からない。で、さっきの議論なんだが、純は靖が怪しいと思っているということか?」

純は、首を振った。

「オレが疑っているのは、倫子ちゃんと靖だ。靖だけじゃない。オレは靖を信じたいから、疑わしいと思って来た行動を、説明してもらいたいと思った。それを自分だけで判断するのは感情も入って難しいので、みんなで考えるべきだと思ったんだ。確実に人狼をここで仕留めて、今日の投票で終わりにしたい。もうこんな所はまっぴらなんだ…早く家に帰りたい。」

美沙を満が信じていると見て、美沙を候補からは外して来た。純のその臨機応変さに感心しながらも、負けるわけには行かないと、わざとそれに乗っているように、何度も頷いた。

「誰だって一日目でもう帰りたかったわよ。とにかく、それは正解よ。疑わしいことはみんなで考えて判断して行く方が絶対にいいわ。」

満が、頷きつつ言った。

「で?どうしてここまで黙っていたんだ。これまでずっと怪しいと思っていたんだろうが。」

純は、真剣な顔をした。

「それでも靖とは友達だから、そんなはずはないと思うようにしていたんだ。だが、昨日あたりから靖の様子が変わった…怒鳴ったり叫んだり。テレビで見ていても追い詰められた人ほど、そんな風に感情的になるから、もしかしてと疑問を持ち始めた。それで、これまでの疑問が一気に溢れて来たんだ。」

何でもない人間の普通の反応を、さも問題であるように言うのに長けていること。

美沙は、心の中で思っていた。自分が生き残るために、こんなに信頼してくれている友達すら切り捨ててハメる純が、許せなかった。それでも、自分も前回のゲームで同じことをしたので、美沙には本当は純を責めることは出来なかった。

自分がハメられつつあるなどとは思っていない靖は、ソファに背を預けて、力なく言った。

「確かに、オレが悪かったと思う。昨日は自分が吊られる対象になるんだと知って、みんながみんな、自分を貶めて殺そうとしているとちょっとパニックになってしまったんだ。だが、本当にオレは村人なんだ。刃物を探しに行ったのだって、自分は人狼ゲームなんてほんとに数えるほどしかしてないし、年上の人達の考えについて行けなくて、全く議論に入って行けないから何とか役に立ちたいと思ってのことだった。年下の要でさえ、よく考えて村の役に立っていたのにって焦りもあった。最初から投票先がおかしかったのも、よくわかってなかったからだ。さすがにこれだけ人数が減って来て、みんなの考えを繰り返し聞いているから状況も呑み込めて来た。オレが疑われるのも分かる。だが、オレじゃない。オレを吊っても、終わらない。」

純は、苦し気に顔をしかめた。

「それを信じたいよ。だが、それだけじゃお前が白だっていう決め手に欠けるんだ。何か無いのか…例えばお前は、今人狼が誰だと思ってる?」

靖は、もはや諦めたかのように他の四人を代わる代わる見た。そして、首を振った。

「分からない。本当に分からないんだ。今朝の狩人発言があるまでは、倫子ちゃんもそれなりに白いと思っていたんだ。だから、美沙さんかと思ってもいた。だが、美沙さんは倫子ちゃんを咎めた。人狼だったら、そのまま促して狩人の情報を欲しいと思ったはずなのに。だからオレから見て、お前以外だと倫子ちゃんしか考えられない。純、お前は最初からオレにいろいろ教えてくれたし、変な投票をしてしまった時もそれがどうしておかしいのか教えてくれたりしてた。だから、お前がオレを疑っても、オレはお前を疑えないんだ。」

純は、目を潤ませた。

「靖…。」

美沙は、目を反らした。なんて役者なんだろう。潜伏で生き残れるはずだ。

満が、口を挟んだ。

「言いたいことは、分かった。だが、今純も言ったように、それだけじゃ決め手に欠けるんだ。そんなことなら、人狼だって言える。だから、何か確かな考えが欲しかった。」

靖は、頷きながら片手で顔を覆った。純がそれを、気遣わしげに見ている。

次に満は、倫子を見た。

「倫子ちゃんは慎一郎に白を出されているが、それでも慎一郎の真占い師が確定していない限り、君はこの二人と同じ、グレーなんだ。前にも言ったよな?しっかり考えて意思を示さなきゃいけない。狩人の問いは、禁句なんだ。それが議論の場でもしない方がいいのに、あんな風に立ち話のような感じで、どこに人狼が居るのか分からないような状態で、口にするようなことじゃない。オレも政孝の遺体を目にしてテンパってたから、思わずあんな風に答えてしまったが、でもオレも答えるべきじゃなかった。狩人のことを知らなくてよかったと今思ってる。」

美沙が、鋭い視線を倫子に向けて来る。ここは少し、純に乗ったふりをしておかないと。

「弱みに付け込んで情報を引き出そうとした人狼に見えるしね。」

倫子は、慌てて首を振った。

「本当に他意は無かったんです。人狼を探さなければならない状態で、少しでも村人側の人を知りたいと思って…浅はかでした。あの瞬間何も考えて無かった。でも、本当に村人として一生懸命考えて、これまでやって来たつもりです。」

また、何も考えてなかったんだ…ちょっとは成長したかと思ったのに。

美沙が残念に思っていると、満が、大きく息をついた。

「ああ…君もか。どっちかが村人なのか、それとも両方村人で他に人狼が居るのか分からないが、本当に村人ならどうして村に不利になるような言動をするんだ。最終局面なんだぞ?ここで人狼を吊ったら勝てるんだ。みんな待っているかもしれない。村人ならおとなしく村に有利になるようにしてくれないと、オレ達が迷うじゃないか。」と、勢いよくソファに背を預けた。「もーわからん。本当に二人共怪しい。それに純、君だってまだ怪しさが抜けたわけじゃない。確かに君は完璧に村人だが、演じているような雰囲気もオレには垣間見えるんだ。昨日の提案も、人狼と狂人が居れば有利になるような吊りの提案だった。まだオレは、君を白にはしてないぞ。」

純は、満を不満げに見た。

「分かってますよ。でも、オレは人狼じゃない。」

「みんなそう言うんだ。」満は、美沙を見た。「君だって確白じゃないが、オレの中では君が一番白い。適格に物事を見て必要なことだけを言うからな。で、君はどう思う?」

美沙は、頷いて三人を見た。

「縄は、あと2つ。」美沙は、指を二本立てた。「今日は外しても構わない。決戦は、明日よ。今日吊った子が村人でも、私達が勝てば絶対に戻って来れるんだから。だから、この中で選ばれた人も、自分が村人なのだったら安心して。その白を材料に、絶対に勝ってみせるから。」

意外にも、倫子は、力なく頷いた。

「絶対に…勝ってくださるなら。私を吊って、それで白だと分かって次の日に生かしてくださるんなら。仕方がないと、私は思います。」

ここに来て、当たりの回答よ、倫子ちゃん。

美沙は思って満へと視線を走らせた。すると、満がその視線を受けて、軽く頷いて言った。

「じゃあ…6時の会合まで自由にしていよう。どっちにしても明日には決着がつくんだ。オレは今日中に終わらせてしまいたいがね。」

靖と純は相変わらず重苦しい顔をしていたが、倫子はなぜか、すっきりとした顔をしていた。

そして一人キッチンへと向かったかと思うと、がっつりと冷凍のチャーハンを一袋解凍してかき込んだのだった。

吹っ切れると女の子って強いわね。

美沙は呆れながらも、そう思っていた。


みんなが部屋に帰っているので、美沙も部屋へ戻ってじっと考えていた。

すると、まだ投票には早い時間なのに、インターフォンが鳴る。

誰だろうと出ると、満が立っていた。

「美沙さん、ちょっと早めに降りて話をしないか。」

満は、疲れているようだった。

恐らく、政孝も慎一郎も居なくなって、他に誰も信用して話す者が居ないからだろう。

妖狐である自分に相談に来ているのだから間抜けなのだが、美沙は満を責められなかった。なので、頷いて外へ出た。

「ええ。私も相談したいと思っていたから。」

満は力なく頷いて、そして二人で居間へと降りて行った。


居間には、やはりまだ誰も来て居なかった。

会合の時間までにはまだ一時間以上あるのだ。美沙はソファへと座ると、満もその前へと座った。そして、疲れ切った様子で言った。

「今残っている中では、オレが一番白いことは自覚してるんだ。だから自分が引っ張って行かなきゃならないが、オレは元々そんな性格じゃないし、それに人狼だってあまり経験がないから、自信がないんだ。」

美沙は、頷いた。

「分かるわ。私だってこんなに真剣な人狼ゲームなんてしたことないわよ。ねえ満さん、誰かが投票に責任を持つ必要なんてないんじゃないかしら。みんな自分の票には責任を持つべきよ。誰かに一任してそれに合わせて投票するなんて、責任逃れでしかないと思うわ。ここまで来たんだから、あなた一人が責任を持つことはないわ。村の運命は、村人個人で決めましょう。」

満は、美沙にそう言われて少し考えたが、表情を引き締めて頷いた。

「確かにそうだ。誰かが一人で責任を押し付けられるなんて間違ってるよな。じゃあ、オレは今夜そう言って個人に考えるように、自分の票に責任を持つように言うよ。」と、息をついた。表情が幾分明るくなったようだ。そして、続けた。「じゃあ個人的な相談なんだが、君は誰が人狼だと思う?」

純だわね。

美沙は思ったが、ここでストレートに迷いなく言ってしまってはおかしいかもしれない。

なので、遠回しに言った。

「確かに、靖と倫子ちゃんは怪しいと思うのだけど、あまりに急にあんな風に出て来た純のことは、一番怪しいと思っているのよ。でも、これという決め手もないし、今日のみんなの興味は靖と倫子ちゃんでしょう。」

満は、頷いた。

「オレも同感だ。慎一郎が偽だったとはどうしても思えないし、その慎一郎が最後に靖か純だと言っていただろう。その慎一郎を吊る提案をした純のことはかなり怪しいと思っているんだが…もしかして、靖が人狼であまりに不甲斐ないから、支えてやってる狂人なのかもとか思えて来てな。あの二人は、かなり仲が良いだろう。」

美沙は、眉を寄せた。

「でも靖が怪しいと言い出したのは純よ。もしあの二人が人狼と狂人だって言うのなら、人狼が狂人に吊縄を消費させようとしているようにも見えるわね。」

満は、考え込むような顔をした。

「だが、そんなあからさまなことをするか?ここまで潜伏して来たんだろう。…倫子ちゃんのことは、どう思う?」

美沙は、肩をすくめた。

「あの子は分からないのよ。あれが演技なのかもしれないし、そうだとしたらかなり強敵だわ。白い演技をして、最後まで吊りを逃れようとしているとしか…。」

満は、ちらと視線を上げた。

「オレは結構怪しいかもと思ってる。そう言ったら慎一郎を疑うことになるんだろうが、それでもあまりに考えが無さすぎるだろう。命が懸かってるのに、ここに来てあんなに考え無しだ。吊ってもいいと言ってみたり、飯をガンガン食ってみせたり。パフォーマンスって可能性もあるなあと、逆に疑っていてな。」

美沙は、頭を抱えて見せた。

「じゃあ、いったい誰だと言うの?縄は三つも無いわ…あと二つなのに。」

満は、息をついた。

「今日は靖か倫子ちゃんで考えて、明日は残った方と純だろうな。オレは強制はしないよ。美沙さんがいいと思う所へ投票してくれていい。誰に入れても、もう投票先でどうの言える時は過ぎてる。」

美沙は、今日は終わらないな、と思っていた。今残っているのが5人。それで3人の内の誰かを決めるのだ。美沙が一人で純に入れたとしても、吊ることは出来ない。

それなら、明日本当に怪しいという事実を突きつけて確実に吊った方がいい。今日は目立たたないことが一番だ。

美沙が一人そんなことを思っているとは知らない満は、黙って考え込む美沙を苦笑して見た。

「悩むよな。オレもだよ。だが、3人のうち2人を怪しいと決めて、2日で吊るように考えたら絞り込みやすいんじゃないか?」

美沙は、ハッとして、頷いた。

「そうね…靖と倫子ちゃん、いったいどちらなのかしら…。」

美沙はわざとそう言って、また考え込んだ。策を練らないといけない。普通では明日の純に勝てないかもしれない。完璧な武装を。そう、役職を騙ってでも…。


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