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獣はヒトの夢を見る  作者:
美沙
44/53

四日目・続き

靖が、慎一郎が出て行くのを見て、叫んだ。

「なんだよ、人狼だとか狂人だとか!オレ達はそんなんじゃない、人狼でも狂人でもないんだ!」

すると、横から純が言った。

「仕方がないよ、靖…みんな、自分のことは自分しか分からないんだ。共有者同士以外、証明してくれる人が居ないんだからね。だけど」と、キッと政孝を見た。「偏った考え方をしていたら村は負けてしまう。それに、忘れているかもしれないけど、狐にとってどっちでもいいんだ。狼が勝っても、人狼が勝っても、自分が生き残ってさえ居たら、勝てるんだから。だから囲っている中に人狼が居ないなんて思うのは間違いだ。オレから見たら、昨日占った倫子ちゃんの方が怪しいと思う。慎一郎さんがじっと観察して、人狼だと確信したから囲ったのかもしれないじゃないか。最後の数人になった時、村が有利そうだったら人狼に、人狼が有利そうだったら村人に入れたらいいんだからな。狐は必ずしも、人狼を吊りたいとは限らない。人狼には自分が特定されやすいから、村人と一緒になって吊ろうとするだけで。」

余計なことを。

美沙は、そう思って聞いていた。村人が納得しそうな新しい考察を落とすのが得意なようだ。やはり、純も要と同じで黙っているその頭の中で、何を考えているのか分からない所がある。自分に有利なことだけよって、所々は真実で、その合間に嘘を滑り込ませるのだ…うまく嘘をつく時の常とう手段だった。

倫子は慌てて否定した。

「確かにその通りだけど、私は人狼じゃないわ!私が人狼だったら、自分を完全に信用してくれていた要を噛んだりしない。絶対に!」

純は、別人のような冷たい表情で倫子を見た。

「それを逆手に取ったのかもしれないじゃないか。みんな必死なんだ…生き残るためにね。」

倫子は、ショックを受けた顔をした。

満が、頭を抱えた。

「…分からなくなって来た。純は間違った事は言ってない。確かにまだ政孝以外可能性はある。オレも含めて公に確かな事など、何も無いんだ。お前が決めるよりない…政孝、もう信じられる人が誰も残って居ないんだ。」

政孝は、苦悩の表情を浮かべた。確かに満の言うように、誰も確定して白なわけではない。状況証拠からそうではないかと思って来ただけで、違う可能性だってあるのだ。

美沙が、ため息をついた。ここは村目な意見を言っておいた方が良さそうね。

「…そうね。ここは、政孝さんが決めることだわ。私達は、それに従う。人狼を吊るのか…狐がまだ残っていると考えて、狐らしき人を吊るのか。」

そう言って、美沙は立ち上がった。一人で考えて、せいぜい間違った答えを出してくれたらいいのだ。狐は自分だし、慎一郎が吊られても陣営勝利の可能性はある。

倫子も、美沙に倣って立ち上がった。

「じゃあ…私も政孝さんにお任せします。今夜の吊り先は、6時の会合で教えてください。」

満も、黙って立ち上がった。

そうして次々に部屋を出て行き、政孝は一人取り残されて、じっと頭を垂れながら、要の残したメモを見つめ続けていた。



美沙は、政孝の決断に任せようと思っていたので、あまりガツガツ議論に参加する姿勢を見せるのも、と思い、わざと時間ぎりぎりになってから下へと降りて行った。

しかしその気持ちは皆同じだったようで、美沙が部屋を出た時、皆が出て来たのと廊下で会った。

それでも、みんなかなり暗いムードなので、自分も合わせようと無言のまま居間へと入った。

すると、もう倫子が来ていてじっと座って待っていた。倫子は、どうも他と意識がずれるところがあるようで、それが村人なのに皆に疑われる要因になっているようだ。損な子だな、と美沙は思っていた。

最後に入って来た政孝は、カウントダウンぎりぎりで椅子へと座り、もう何度目かの追放会議を始めることになった。

ずっと握りしめているだろう、要の手帳はもう、よれよれになっていた。回りは、それに政孝さえも今までは政孝の考えでここまで来たと思っているかもしれないが、実際は違ったことを、誰よりも政孝自身が悟っているように美沙は思った。要の考えが、支えていたのだ…だからこそ、政孝は要の手帳を離せずに居るのだろう。

政孝はそれを開き、そして、言った。

「…考えた結果、今日は、慎一郎を追放する。」政孝は、言いたくなさそうに、それでもはっきりと言った。「今夜の襲撃の犠牲は怖い。だが、それでも狐が居るかもしれない以上、先に不安要素を消して置かないと、明日以降人狼を安心して吊ることが出来ない。オレは今夜居なくなるかもしれない。だから言うが、今夜慎一郎を、明日は純か、靖。やはり考えたが、どう考えてもこの二人しかないように思う。明日以降新しい情報があったら、みんなで考えてくれ。村陣営が勝てば、オレも含めて戦ったみんなが帰って来る可能性がある。慎一郎が真だったらとだいぶ悩んだんだが、真占い師なら、同じ陣営なのだから、帰って来れる。だから、すまないが今日は吊られてくれ。」

慎一郎は、あっさりと頷いた。

「オレは、仲間を信じてる。別に不安はないさ。狂人と人狼だろうと、人狼だけだろうと、この二人の中に人狼が居る。オレが占ってない、この二人の中に。それは、みんな覚えて置いてくれ。」

靖が、横を向いた。

「…オレは村人だ。誰が何と言おうと、村人なんだよ。オレから見たら、慎一郎さんが狐というより人狼に見えて来たよ。」

それには、隣の純が顔をしかめた。

「何を言ってるんだ。人狼だったら、これで終わりだろう。こんなにあっさり吊られるものか。お前、まさか満さんの霊能結果まで疑ってるんじゃないだろうな。」

靖は、余程腹が立っているのか、純に振り向きざまに怒鳴るように言った。

「ああ、オレ達を疑う奴らなんか、みんな敵に見えるよ!みんなオレを殺すことしか考えてない!」

純は、驚いたように靖を見て、なだめるように、回りを気にしながら、言った。

「おい…よせ。みんな人狼を吊りたいだけだ。オレ達が村人らしい情報を出せてないから、疑ってるだけなんだ。明日になったら、もっと情報が出てるかもしれない。だから、落ち着け。」

靖は、椅子から立ち上がって叫んだ。

「どうやって落ち着けって言うんだよ!真っ暗になって、その後どうなったのか分からないんだぞ?!要の死体を見ただろう!地下へ行ったらあんな風になるかもしれないんだぞ?!負けたら何をされるか分かったものじゃない!」

「靖!」

純が、驚くほどに鋭い声で一喝した。その声はとても強く、表情はぞっとするほど暗かった。靖は、それを見てハッと我に返ると、ストンと椅子へと座った。純は、息をついた。

「とにかく…明日以降、オレは自分の潔白を証明できるようにするよ。」

慎一郎が、冷静に頷いた。

「そうしてくれ。」

美沙は、それを苦々しい気持ちで見ていた。恐らく、これは純の芝居だ。こんな三文芝居が、妖狐陣営に通じると思っているのか。いや、妖狐には通じないが、村人には充分に通じるのだろう。

倫子が、下を向いている。美沙は、そっと慎一郎を見た。慎一郎は、美沙と視線が合うことすら避けているようだったので、じっと落ち着いた様子で他の方向を見ていた。

吊られても、殺されないのは知っている。それでも、慎一郎が居なくなるのは不安だ…。

美沙は、顔を上げた。そんなことを言っていてはいけない。自分は妖狐陣営なのだ。村人と一緒に人狼を吊ることが出来るのだ。村人を騙すのは、難しいことではない。そう、明日を生き残ったら、あとは人狼との一騎打ちなのだから。


そうして、いつものように投票時間はやって来たのだった。

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