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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
4/53

知らない場所

「…子、倫子!」

倫子は、ハッとして目を開いた。

体がだるい…最悪の目覚めだ。焦点が定まらない目で声の方を見ると、洋子と要が心配そうな顔で倫子を覗き込んでいた。

「洋子…?なに、もう着いたの?」

洋子は、悲しげに隣の要を見た。要は、困ったように倫子を見た。

「着いたのは着いたみたいだけど、倫子が思ってるような感じじゃないと思う…その、ここがどこか分からないから。」

倫子は、重い体を起こして回りを見た。


そこは、広い30帖はあるんじゃないかと思われるような、一つの部屋だった。

入口近くの方には金属の角ばった椅子が、大きな楕円のテーブルの回りに配置されてまるで豪華な会議室のようだ。

しかしこちら側、倫子が今寝ていた場所には窓際に沿ってソファがたくさん置かれてあり、その下には高そうなアラビック柄の絨毯が敷かれてあった。

そして、使えるのかどうか分からない暖炉の上には、大きなテレビのモニターが備え付けてあった。

しかしそこの部屋のそんな様子よりも、倫子の目が釘付けになったのは、回りに倒れた人の数だった。

起きて倒れている人の介抱をしているのは、今倫子を起こしてくれた洋子と要、そして大悟、満、慎一郎、匠。その他の人たちは、まだ床に転がったままだったのだ。

「え…いったい、どうなったの?!美沙さんは?!」

洋子が、悲し気に首を振った。

「あっちよ。入口付近で、今慎一郎さんが様子を見ているところ。」

じゃあ、引率のリーダーですら知らない事態なんだ。

倫子は、顔を青くした。何が起こっているのか分からない。急に眠くなったのは覚えている…みんなが、飛行機で一斉に眠りについていたのを、見たことは…。

「…みんな、突然眠ってしまったのよ。」倫子は、いきなり言った。「覚えてるわ。私も眠りそうになったけど、寝ちゃいけないっていきなり我に返って。でも、なんでだったか、それからまた、眠気が来て…眠っちゃったんだわ。」

要が、それに頷いた。

「オレも覚えてる。隣りの満さんと話してたんだ。そしたら、いきなり満さんがスイッチ切ったみたいに眠っちゃって。びっくりして声を掛けようとしたら、急に意識が遠くなった。」と、腕輪を見た。「なんだか、これがチクッとしたような気がしたんだけど。」

倫子は、思い出して何度も頷いた。頭の中の靄が晴れるような感じだ。

「そう!私もそうだったわ!しっかりしようとしたのに、これが痛んで…それで、眠っちゃったのよ。」

あちらでまだ倒れている人たちを介抱している大悟が、こちらを振り返った。

「やっぱりそうか。こっちでも、みんな同じことを言ってる。じゃあ、オレ達を合宿に呼んだ奴らが、オレ達を眠らせてここへ連れて来たってことか?」

美沙を心配そうに見ていた慎一郎が、顔を上げた。

「だが、それならなぜあちらから雇われた美沙さんや京介さん、杏子さん、大悟さんが同じように眠らされてここへ転がされてたんだ?オレ達を引率するなら、こうなることは事前に教えておいたはず。」

大悟が、顔をしかめた。

「わからねぇな。少なくてもオレは何も聞いてない。ただ、お前達を専用機に乗せて、腕輪を着けて目的地まで行けと。詳しい指示はこっちで受けるはずだったんだ。」

要が、必死に腕輪を取ろうと引っ掻いている。

「ダメだ…ぴったりくっついてて、取れない。」

大悟も、他の皆も腕輪を叩いたり引っ張ったりしていたが、全く取れる様子も、腕の皮膚からはがれる様子もなかった。

ううーん、と、美沙が唸った。慎一郎が、急いで顔を覗き込む。

「美沙さん?大丈夫ですか。」

本当に美沙が気がかりのようだ。それを見て、案外に冷たそうだと思っていた慎一郎はそうではないのではないか、と倫子は思った。

美沙は、大儀そうに眼を開けると、回りを見た。

「あら…?ここは?」

大悟が、後ろから美沙を覗き込んだ。

「わからねぇんだ。美沙さん、何か聞いてないか?」

美沙は、ゆっくりと起き上がって、首を振った。

「何も。どうしてこんな所で寝ているの?飛行機は?」

慎一郎が、悲しげに答えた。

「何もわからないのです。皆、気が付くと、ここで。飛行機の中で眠らされたようです。腕輪から何か痛みを感じませんでしたか?」

美沙は、左腕の腕輪を見た。それには、「1」と刻まれてある。

「…そういえば、チクっとした痛みを感じたわ。それからは、何も覚えてないの。」

大悟が、美沙に歩み寄った。

「とにかく、みんなが意識を取り戻すまで、あっちのソファで。運ぶよ、美沙さん。」

美沙は、弱弱しく微笑んだ。

「ありがとう。なんだかフラフラして…何がどうなったのか分からないわ。」

慎一郎が少し顔をしかめたが、大悟はおかまいなく美沙を抱き上げ、軽々とソファへと運んだ。がっつりとした体格の大悟は、その見た目通りにかなりの力持ちらしい。

美沙をそっとソファへと下ろした大悟は、その隣りに腰かけて言った。

「オレが知っている以外のことを、知ってるなら教えて欲しい。美沙さんはリーダーを任されてたんだろう。何か聞いてないか?」

美沙は、困ったように微笑んだ。

「美沙、でいいわよ、大悟。そうね、大したことは知らされてないと思うわ。こっちへ来て、指導者が全部指示するから、その通りにしてくれたらいい、と言われて来たの。だから、リーダーを任された時、その通知と一緒に腕輪が送られて来たの。皆の資料と、顔写真とか。」

大悟は、大きくため息をついた。

「ああ、それはオレも見た。じゃあ、オレ達と違うのは、腕輪が送られて来たことだけか。」

話している間に、気を失っていた者達が次々に意識を取り戻し始めた。倫子も、洋子と要と並んでソファの上へと場所を移り、皆が揃うのを待つことにした。

それぞれに青い顔をしながらも、命に別状はないようで、フラフラしながら支えられてこちらへ歩いて来る。

京介と杏子が、まだすっきりしないような顔をしながらも、大悟と美沙の横へと座り、そうして皆がソファへと思い思いに散り散りに座った。

だが、特に誰にも指示されたわけでもないのに、引率者の四人を挟んで左右に、高校生組と、大学生組が分かれて固まっていた。

京介が、頭がはっきりしないながら口を開いた。

「いったい、何があったんだ。ここも…何か見覚えがあるような気はするが、こんな到着の仕方をするなんて聞いてない。」

杏子が、活発そうな見た目とは裏腹に、やはりびくびくと不安げにしている。大悟が、言った。

「オレも美沙も聞いてないんだ。だが、どうやらこの腕輪が何かしたようで、オレ達が眠ってしまったのもそのせいじゃないかって。」

京介が、青い顔色を更に青くして言った。

「腕輪だって?!これは…美沙ちゃんがつけろと言ったんじゃないのか。」

美沙は、首を振った。

「私はそう指示をされただけ。何がどうなってるのか、私にも分からないわ。こんなことになると分かってたら、私だってこんなもの着けたりしなかったわよ。」

要が、口を挟んだ。

「じゃあ、やっぱり合宿の主催者が何か知ってるってことじゃないか。パイロットの顔は見てないけど、オレ達がこうしてここに無事に着いてるってことは、パイロット達はこうなることを知ってたはずだよね。パイロットまで寝てたら、無事で済むはずないんだから。主催者が、なんでか知らないけどここへオレ達を、眠らせたまま連れて来たかったんだ。」

14人は、お互いの顔を見合わせた。要の言う通りだ。そうなると、知らなかったのは引率者としてここへ来た四人も含めて全員ということになる。

「…何をさせるつもりなの?」気の強そうな顔つきが、今は不安げにゆがめられている結が、大学仲間達の中から言った。「私達は、就活のために自己啓発の集中セミナーを受けられると聞いて来たのよ。料金は、結果が出たらの出世払いだって、そこまで自信を持ってますって触れ込みだったから。大学の先生も、ここなら大丈夫だって言っていたわ。それなのに、何かの詐欺か何かなの?」

それを聞いた倫子は、高校生達の中から言った。

「わ、私達は、学習習慣をつけるために、生活習慣から徹底的に指導するって広告を見て、申し込んだんです…料金は、知らないけれど。」

要が、横から言った。

「同じだよ。効果が出なかったら、料金は支払い義務が生じないって書いてあった。後払いなんだ。」

大学生組の匠が言った。

「だったら、金目的の何某かじゃないな。こんな手の込んだことをして、飛行機までチャーターしてたんだろう。じゃあ、いったい何が目的でオレ達はここへ連れて来られたんだ?少なくてもこれが合宿だってんじゃあ、オレは金は支払わない。ここで何が学べるって言うんだ。」

じっと黙っていて政孝が、口を開いた。

「匠、そう言い切るのはまだ早い。オレ達は少なくても、今までに体験したことのないことを、今体験させられてるんだ。これがリアル脱出ゲームとかで、知恵を絞って逃れなきゃならないとか、そんなことかもしれないぞ?ま、高校生達とは目的が違うから、それだと高校生達の方は説明がつかないんだがな。」

政孝は、こんな時でも穏やかな口調だ。倫子は、それになぜかホッとした。

だが、京介がイライラと言った。

「そんな悠長なことを言ってて、あっちが殺そうとしてたらどうするんだ!オレ達は、籠の鳥なんだぞ!」

すると、慎一郎が言った。

「何を言っている。ここの状況も知らないで、怖がってばかり居ても仕方ないだろう。提案だが、ここから出てここがどういう場所なのか調べて来ようじゃないか。少しでも手がかりが欲しい。」

それには、何人かが頷いた。

「賛成!まずはここを調べて回ろう!」

要が、そう言うと立ち上がった。

その時、パッと暖炉の上のモニターに光が入った。

そして、声が流れて来たのだ。

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