傍観
6時に集まるのは決められたことなので、美沙は遅れないように早めに部屋を出た。
30分前だったが皆が集まっていて、来ていないのは杏子と倫子ぐらいだった。
恐らく部屋でいろいろと弁明を考えているのだろうと、政孝は苦笑していたが、本人たちにとっては笑い事ではないのだから、仕方がないだろう、と美沙は少しムッとした。
しばらくして杏子がやって来て、美沙は慌てた様子で10分前に来た。
美沙は、倫子を見て心の中で思っていた…何を言ってもとにかくは庇えるだけの材料を探してあげるから、何か言って、と。
まだ分からないとか言っていたら、申し訳ないが縄稼ぎに吊らせてもらおうとも、思っていた。
あまりに愚かな子だと、庇うとこちらまで疑われる可能性があるからだ。
倫子が席についたのを見て、政孝が口を開いた。
「じゃあ、みんなが揃ったので、始めよう。カウントダウンは無視していい。もう座ってるんだからな。」
全員が、黙って頷く。二回目ともなると、どう追放されるのか分かっているだけに、皆の緊張具合も昨日より数段高いようだった。
「昨日に比べて、しっかり議論はされて来たと思う。占い師の占い先は、さっき決めた通りにしてもらいたい。」
そこで、あのカウントダウンが始まった。モニターに数字が現れて、10秒前は読み上げられる。
無視しようと言っていた政孝も、その間はさすがに黙り、じっと終わるのを待って、そしてまた話し始めた。
「それで、吊り先指定なんだが…今の時点で、全員に話を聞いたところによると指定していた中から二人に集中していた。なので、この二人の弁明を聞きたいと思ってるんだが、いいかな?」
皆が、頷く。
政孝が杏子と倫子の方を向いて、言った。
「3番の杏子ちゃんと、5番の倫子ちゃん。杏子ちゃんは初日からかなり怯えていた風だったのに、役職が決まった途端に憑き物が落ちたように落ち着いたこと、昨日の投票先に加えて今日の占い先の投票でも考察がおかしいのではないかということで、票を集めているようだ。倫子ちゃんは完全グレーなのにも関わらず、しっかりした考察も無く緊張感が無さすぎるので、自分が襲撃されることがないと知っている陣営側なのじゃないかって、あと占い先の投票もどうしてそうしたのか理解出来ないということで、票を集めている。じゃあ、杏子ちゃんから話を聞かせてくれ。」
杏子は、倫子の匠を挟んだ向こうの席で、緊張で青くなった顔を上げた。匠も、険しい顔でそれを見ている。杏子は、言った。
「私の行動の変化がおかしいと言われるのは心外だなと思っています。こんなゲームに放り込まれて、出られないのだと悟った時、自分を守れるのは自分だけだと思ったんです。泣いていても、誰も助けてはくれない。だから、必死に前を向いて考えたんです。投票にことについては、他の人と考え方が違うなら仕方がないかなと思っていますけど、昨日京介さんに投票しなかったのは私だけではないし、私には私なりの理由がきちんとありました。今日の占い先の指定ですけど、私は結さんに白出しされて、結さんを真目に見ています。なので、真占い師の結さんが望むほうにと、投票しただけなんです。何気なく理由もなく投票したと聞いている、倫子ちゃんの方が余程怪しいんじゃないでしょうか。」
美沙は、倫子が身を固くしたのを見て、気の毒に思った。恐らくこれまで、ここまであからさまに敵意を向けられたことなど、今まで無かったのではないか。
それでも倫子は、青ざめた顔を上げた。その顔は、何かの決意に満ちていた。
政孝が、倫子を見る。
「じゃあ、倫子ちゃんは?」
倫子は、持って来ていた便せんをぐっと握りしめた。何かをメモして来たのだろう、と美沙は思って見ていた。
「私は、確かに最初の日から全く実感もなく、考えることは要とか頭のいい人に任せておけばいいって感じで、深く考えずに来ました。でも、自分の一票もとても重いのだとやっと気付いて、私なりに考えたのです。」と、便せんに視線を落とした。「初日からのラインを考えて、京介さんが黒なら満さんが真霊能。そうなると黒くなるのは匠さん、そしてそれとラインが見える結さんです。白を出している洋子も同じ。そうなると、人狼人狼狂人ということになって、人狼が全露出になりあり得ないことになってしまいます。でも、考えたら、真占い師も私のように、変な動きをして怪しまれているのかもしれない。となると、あるはずのラインは、本当は無いのかもと思ったんです。」
政孝は、倫子から思いもかけず考え込まれたようなことが出て来たので、驚いたようで目を丸くして、言った。
「ほう。じゃあ、どう思ったんだい?」
倫子は、顔を上げた。
「もしかしたら狐か背徳者も混じっていて、噛まれたり吊られたりしないために人狼と上手くやっているように演じてるのかもと。そう考えて見てみたら、結さんは杏子さんを占って白を出しているし、杏子さんは結さんと同じように投票している。どちらかが狐で、どちらかが背徳者の、ペアなんじゃないかって。他にこの二人みたいに、お互いに庇い合っているような間柄は無かったので。」
倫子にしては、よく考えている…。
美沙は、そう思った。だが、今この時に、杏子以外の者達を批判するのは票をいたずらに増やすだけだ。
人狼は今の所上手くやっている結からヘイトを向けられないために、倫子に入れるのではないだろうか。今の話は興味深いし、狐の自分からは願ったりの展開だが、杏子と倫子の二人を限定して吊り先にしようとしている今、その話は明日にした方が良かった。このままだと倫子は、狂人、人狼二人、結と杏子からは確実に票をもらうだろう。今日は、杏子に限定した話をするべきだったのだ。
皆は、顔を見合わせた。そう言われてみればそうかもしれない、と思っているようだ。
しかし、そこで結が言った。
「私は真占い師よ。今日匠を占って、もしも黒だったら必ずそう言うし、吊ってもらって霊能者に見てもらってもいいわ。私と変なつながりは見えないと思うから。私は、結果を正直に言っているだけだもの。私が慎一郎を占いたかったのは、必ず黒を出してそれを吊ってもらって霊能者に証明してもらって、真占い師と確定させたかったからよ。慎一郎の方が黒っぽいと思ったからだわ。匠の出方の速さだと、人外でも狐や人狼じゃないでしょう。慎一郎との対立を考えても、背徳者だと思うわ。杏子ちゃんが真占い師の私を信じて吊られることになるのなら、こんなに馬鹿らしいことないわ。また吊縄が犠牲になるのね。」
すると、慎一郎が言った。
「そう言うよりないだろうな。だが倫子ちゃんの怪しい所なんて、さっきの占い先投票ぐらいのものなんだ。そもそもいきなりこんな所へ連れて来られて、真剣になれって言っても高校生相手に難しい。こうしてしっかり考えて来ているし、それが当たっているかどうかは分からないが、それでも白いと思う。人狼だったらこうではないと思うぞ…他の人狼が入れ知恵するからな。狐もそうだ。背徳者がついているのに、ぼーっとしていて吊られるなんてことには、ならないようにするはずだ。」
倫子ちゃんを庇うのね。
美沙は思って聞いていた。もちろん、倫子の方が扱いやすそうなので、美沙としては残って欲しかった。あの子なら、最後の村人になっても、こちらについてもらうためにどうとでも言いくるめられる。
慎一郎も、そう思ってのことなのだろう。
他のことについてはフンフンと頷いているだけだった他の人達も、慎一郎のこの言葉にはハッとしたような顔をした。そうなのだ。人狼にも狐にも仲間が居る。仲間がぼーっとしている仲間をそのまま放って置くはずなどないのだ。数が少ないのだから、吊られないように指導するだろう。
政孝が、手をパンパンと叩いた。
「じゃあ、あと30分弱ある。ここからは個人個人で考えて、思いつくままに質問して慎重に投票先を決めてくれ。縄の数は限られているぞ。よく考えて欲しい。」
慎一郎の援護射撃が、驚くほどに効果的だったのは雰囲気の変化を感じて知っていた。美沙は、思ったより場が慎一郎を真目に見始めているのを肌で感じていた。大悟は慎一郎と目が合うと軽く目を細めて笑う。慎一郎が軽く目で会釈するのも見ていた。他がそれに気付いているかは分からないが、満もどうやら慎一郎の意見を聞いていることが多かった。
美沙は、もしかしたら、慎一郎と最終日まで行けるかも、と期待し始めていた。
二日目の投票が近づいていた。




