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獣はヒトの夢を見る  作者:
美沙
36/53

流れのままに

気になった美沙は、五時になってすぐに腕輪から通信をすると、慎一郎は困ったような声で言った。

『大丈夫です。美沙さんは知っているでしょう、襲撃されても死ぬことはない。それよりこんな早朝から、オレと話していて誰かに知られたら大変です。起きるのが二人揃って遅くなれば同陣営だと疑われるかもしれない。』

美沙は、それは知っているが心配だった。

「いいから一度出て来て。別に廊下へ一緒に出てもおかしくないでしょう?」

それでも、慎一郎は譲らなかった。

『駄目です。徹底的につながりは絶たなくては。じゃあ、少し外へ出ますから。扉ののぞき穴から見てくだされば。』

慎一郎が頑固なのは知っていた。だが、自分自身より美沙を優先して考えてくれる慎一郎のことは、仕事していても知っていたので、心配だったのだ。

美沙はそれで妥協して、扉ののぞき穴から外を見た。

大悟と慎一郎は、11と10なので部屋が隣同士だ。

正面の慎一郎の扉を見ていたら、同時に隣の扉も開いた。びっくりした美沙がそのまま見ていると、大悟は慎一郎を見て少し、表情を緩めた。慎一郎は、声を落として何かを言っている。

美沙は、ぴったりと耳を扉につけた。この優れた防音設備の中にあっても、自分の聴覚なら何とか微かに聞き取ることが出来るその声は、こう言っていた。

「昨日今生の別れの挨拶をしたのに、顔を合わせるのは照れ臭いものだな。」

慎一郎がそういうと、大悟が答えた。

「ま、そう簡単にはね。お前がオレのことに配慮してくれてるから、お礼のつもりだ。だが、もしかして要がと心配してるんだがな。」

慎一郎は、頷いた。

「申し訳ないな。だが、オレ達の繋がりは知られない方がいい。お前までオレと一緒に疑われることになるかもしれないし、人狼に知られる可能性がある。オレが先に下へ行くから、お前はもう少し後で行け。」

大悟は、頷くと部屋の中へと足を向けた。

「分かった。オレもお前のことは、知らないふりをするよ。2、30分待ってから降りる。」

大悟は、部屋へ引っ込んだ。慎一郎は、こちらを見て、美沙がのぞき穴から見ていると知っているので、指を下へ向けて行った。

「あなたは先に行ってください。5分待って行きます。」

美沙は相手に見えないのを承知で頷くと、すぐに扉を開いて、そして階下の居間へと降りて行った。



美沙が降りて行くと、倫子と共有者の要、それに政孝が先に降りて来ていてソファに座っているのが見えた。それから慎一郎、満と続いて杏子、匠が降りて来る。

匠は、何やら疲れたような顔をしていた。寝不足というより、昨日の襲撃が心に重いのかなと美沙は思った。

洋子と結が一緒に降りて来て、大悟が入って来て、7時10分前ぐらいには純と靖が一緒に起きて来た。

それを見回した要が、必死に手帳を見ている。そして、呆然として、言った。

「…全部、居る。」と、政孝を振り返った。「昨日の襲撃は、失敗したんだ!」

美沙は、顔を険しくした。やはり、昨日慎一郎を襲ったのか。

なんて浅はかなと思ったが、それでも慎一郎が守られた事実は大きかった。他の皆は、まだ誰が襲われてどうなったのかは分かっていないだろう。人狼ですら、狐だったのか護衛成功なのか分からないはずなのだ。

政孝は、それでも険しい顔で頷いた。

「だが、狩人に出てもらう訳に行かない以上、それが護衛成功なのか、狐噛みなのか分からないな。」

慎一郎が言った。

「それでも吊縄が一本増えたことには変わりないだろう。これで振り出しだ。人外がまだ4人居たとしても、二回失敗出来るな。」

洋子が、疲れたように言った。

「あの…もし話し合いをするなら、少し待ってもらってもいいですか。ちょっと、何か飲みたいし。」

それには、大悟も同意した。

「ああ、オレも起きて来たばっかでさすがに腹が減った。半時間ほど待ってくれないか。」

確かに、まだ7時になったばかりだ。

とりあえずは皆が無事であることを確認したことを良しとして、話し合いはそれから一時間後にすることにしたのだった。


大きなソファにそれぞれに、11人は輪になって座っていた。

ちょうどみんなが向く方向になる位置に要が居て、一番年下にも関わらず誰よりもしっかりとした表情で座っている。

倫子と洋子が出て来てソファの空いている場所に腰かけると、13人が揃い、要が話し始めた。

「じゃあ、昨日の夜は狐噛みにしろ護衛成功にしろ、人狼は襲撃に失敗した。なので、吊縄が一つ増えて昨日の消費分がチャラになった感じ。あと6縄で、最悪4人吊ればいいってことだ。」

大悟が言った。

「昨日の京介が人狼か狐だったら更に余裕が出来たってことだろう。」

要が、首を振った。

「それはそうなんだけど、狐の可能性は無いと思う。」

大悟は、驚いたように要を見た。

「え、なんでだ?」

それには、匠が答えた。

「他に追放者が出なかったからだ。昨日は14人全部居た。狐と背徳者の二人が揃っていたはずだ。背徳者は、狐が追放されたら一緒に追放される。だから京介は、少なくても狐ではないんだ。」

満が横から言った。

「それはそうだ。京介は人狼だったからな。」

美沙は、鋭く満を見た。そうか、やっぱりこっちが霊能者なのか。

要が、あっさりと言った。

「ああ、そうか。満さん、霊能者だったんだ。だから昨日、あんな風に村人として潔白に見えるように振る舞ってたんだね。」

満は、頷いた。

「吊られる直前に霊能者だったと叫んで行こうとは思ってたけどね。でも、結果を残さなきゃならないから、出来たら吊られない方向でって、必死に考えてた。」

美沙は、納得して聞いていた。大悟と同じように、落ち着いた覚悟を感じた。満が真霊能者で間違いないだろうな。

すると、洋子が思い切ったように言った。

「違うわ!京介さんは白。私が霊能者よ。」

皆の視線が一斉に洋子に突き刺さった。

狂人だ。

美沙は、思った。村人には何が何だかわかりづらいだろうが、狐目線では分かる。自分が狐で慎一郎が背徳者、匠の黒さは人狼のそれなのだから、洋子は狂人でしかないのだ。

それにしても、厳しいことになるのに。

美沙がそう思って見ていると、同じように思ったのか要が、明らかに戸惑った顔をした。どうしたらいいのか、分からないようだ。

すると、横から政孝が言った。

「じゃあ…とにかく一旦霊能者問題は置いといて、占い師の結果を聞こう。後出し出来ないように、一斉に占った人を指さして黒か白か言ってくれ。それじゃあ行くよ、せーのっ」

匠と慎一郎と結が、一斉に手を上げて言った。

「村人!」

「白!」

「白。」

指していたのは、匠が靖、慎一郎が美沙、結が杏子だ。

全員が全員、白判定を出していた。

要が、息をついて言った。

「じゃあ、匠さんから、占った理由を聞かせてほしい。」

匠は、分かっていたことらしく、すぐに頷いて言った。

「倫子ちゃんはすごく白っぽいと思ったんだ。靖は元気なやつなのに、役職がわかってからおとなしいから、怪しいと思って占ったけど白だった。」

次に慎一郎が言った。

「オレは美沙さんが結構傍観してる感じがしたので、潜伏してるのかなと思って占ってみた。だが、白だった。」

結は、物凄く残念そうな顔をしながら言った。

「私は…結構最初は怖がって泣き叫んだりしてたのに、役職が決まってからしっかりした顔つきになったから、怪しいと思って占ってみたの。白だったし呪殺も有りかなと思ったのに、この子は元気で。だから、ほんとに白ね。」

要は、疲れたように三人を見た。

「今日は、呪殺も黒出しも無し。確定白も居ないから、この情報の中から吊ることになるんだけど…」と、満を見て、洋子を見た。「占い師3人、霊能者2人。本物はこの中で2人だけとなると、ここに人外が3人って事になるんだ。その内訳は恐らく…狂人、背徳者、人狼、じゃないだろうか。」

満は、諦めたような顔をした。

「ああ、狐も混じってるかもしれないがな。出てるなら占い師だろう。呪殺を避けるために。だが、ローラーするならまず霊能か?」

要は、政孝と顔を見合わせた。

「いや…確かに縄は6あるけど、役職ローラーしてたらその内訳だったら縄が足りなくなるんだよ。間違えられるのは2回だけ。満を信じるなら3回だけど。」

満は、自信満々に頷いた。

「もう1人狼は吊った。だから、あと人外は3人だ。」と、洋子を指さした。「こいつは恐らく狂人だ。昨日から狼が誰なのかやけに切羽詰まった感じで見てやがると思ってたんだが、投票は大悟、理由は分からないから無いと。何のつもりかと思ってたんだが、今日分かった。対抗に出て来たからだ。人狼だったらあんなに変な動きはしない。誰が人狼なのか知っているし、探す必要がないからな。それに、人狼はローラーされやすい霊能を騙っては来ないだろう。そんなリスクを冒してまで京介が人狼だったと知られたくなかったのか?いや…一人吊られたと分かったぐらいの方が、村にはいい刺激になる。何しろ人狼を先に吊ってしまったら、狐にやられてしまうからだ。村は狼よりも、狐が最優先だと更に力を入れるだろう。だから、人狼は出ていない。こいつは、狂人か、いいとことち狂った狐だ。恐らく占い師に、人狼は居る。」

いい考察だわね。

美沙は思って聞いていた。満が真なのは、やはり間違いないようだ。

洋子が青い顔をしている…無理もない、いきなりこんなゲームに放り込まれて、騙りで出なければならなかったのだ。まだ高校生の女の子に、これは精神的に無理だろうと美沙は思っていた。

しかし、洋子は言った。

「私は、満さんほどうまく話せませんけど、でも見た結果だけは知らせておかなければと思ったんです。満さんだって、昨日大悟さんに投票しているし、理由だって後からどうにでもなるでしょう。私から見たら、満さんは京介さんを人狼だと思わせることで、村人を油断させて狐ケアを優先させて、吊縄計算を狂わせて逃げ切ろうとしている人狼のように思います。あえて対抗を狂人ということで、霊能ローラーより占い師ローラーをさせようとしているように見えますから!」

満は、ぐっと洋子を睨んだ。自分が言ったことをこういう風に覆されるとは思っていなかったらしい。先に言ったことで、洋子に反論の材料を与えてしまったようなものだった。

洋子は、うまく満が言ったことを利用して反論したのだ。

だが、美沙にはこじつけにしか思えなかった。満が狂人だとしたら、こんな出方はしなかっただろうと思えたからだ。昨日の時点で、恐らく人狼が出たのが分かって、潜伏に回って何とか村を混乱させようと考えたはず。

満には、それが出来るだけの自信のような物を感じるからだ。洋子の方は、そんな考え方を出来そうにないから、どうにかして仕事をしようと霊能を騙ったようにしか見えなかった。

だが、そんな意見を村に落とすつもりは無かった。目立つと人狼の噛みを引き寄せ、そうして自分が狐と知れるからだ。

しばらくじっと睨み合っている二人を見ていたが、政孝が、口を開いた。

「…じゃあ、洋子ちゃんは霊能ローラーしてもいいと思ってるってことかな?」洋子は、え、と政孝を見た。政孝は続けた。「洋子ちゃんの言い方だと、対抗の満は人狼だってことだよね?だが洋子ちゃんの考え方でオレ達が二人を見ると、どっちが人狼なのか分からない。だから、洋子ちゃんの意見を採用するとなると、二人とも吊るのが一番なんだ。余分な吊縄二本のうち、一本を使ってね。確実に、一人の人外を吊れるってことを前提に。」

洋子は、ためらうような顔をした。

「でも…まだ人狼だと決まったわけでもないし。狂人の可能性もあります。場を、混乱させて。」

そこは、嘘でも吊ってくださいと言わないと。

美沙が、思わず苦笑すると、同じように政孝も、苦笑した。

「そうだね、狂人の可能性がある。」政孝は、ため息をついた。「だが、満は黒を出した。京介さんの白黒は、結構重要なことだったんだ。京介さんは目立った動きをしていたから、いろんなラインが見えてただろう。これが黒だと、そういったラインも全部怪しくなるし。そういった人に狂人が黒出しするのは、実は結構リスクが伴う。本当に黒だった時、そのライン上の全てが芋づる式に吊られてしまうからだ。しかも、満の方が先出しだった。だからオレの考えでは、満は霊能者か、人狼だ。先に黒出しが出来るのは、こういうケースだと結果に確信を持ってる人でないと無理だからだ。」

皆が、じっと聞いている。真剣になるあまり、睨むように見ている者達も居た。政孝は続けた。

「一瞬洋子ちゃんを信じたんだが…」と、洋子をじっと見た。「君には、覚悟がない。オレ達は役職ローラーするつもりは無いと言っていたじゃないか。狐を探すのが、どちらにしても最優先だ。人狼は吊れるに越したことはないが、絶対ではない。まだ縄はある。決め討ちしたいと思っている。」

え、あの状態で一瞬信じたの?

美沙が少し政孝に呆れていると、洋子は、悟って目を見開いた。

「じゃあ…、」

政孝は、気づまりそうに頷いた。

「試したんだ。勝利陣営なら戻って来れる。ここで吊られる覚悟はあるかな、とね。満は昨日覚悟した。それは見ていて知ってる。君は、昨日から他と少し行動がずれている。何かに迷いがあるようだ。状況証拠でしかないが、オレは君は狂人だと思う。」

洋子は、唇をかみしめた。倫子が、庇いたそうにしているが、自分にまで疑いが掛かるのを恐れているのか、黙っている。

すると結が、控えめに割り込んだ。

「でも…普通の人狼ゲームとは違うわ。昨日、あんな風に追放されるのを見たんだもの、吊られると思ったら、誰でも怖いから逃げようと思うと思うの。私も、きっと怖いから吊らないでって思ったと思う。」

それには、対抗占い師の匠も同意した。

「対抗でなかったらよかったのにな。結とは意見が合う。オレも、それは思ったんだ。まだ高校生なんだぞ?それで狂人と決めつけるのはかわいそうだ。そもそも、政孝もグレーなんだぞ。要の意見はどうなんだ。」

要は、ハッと顔を上げた。じっと政孝を見つめる。政孝は、小さく頷いた。

「あの」要は、洋子の方を見ないで言った。「政孝さんは、共有者の相方です。オレ達は、お互いにお互いが白なのを知っている。今は白確を増やそうと思う。政孝さんの意見に、オレも…賛成だ。おそらく、姉ちゃんは狂人。人狼にしては、動きがおかしかった。狐が、わざわざ出て来るはずもない。今日は、グレランか、占い師の決め討ちか、どっちかかなとオレは思ってる。」

もう出るのか…あまり政孝は賢い方ではないらしい。

美沙はそう思って見ていた。せっかく要が出て居るのだ。しかも、要は賢い。今日の議論も、政孝がしゃしゃり出て来ることは無かったのだ。事前に話し合って、要が進めたらそれで良かったはずなのに。共有者の潜伏は、それなりに意味があるのだ。二人出たら、襲撃の可能性が上がるのではないのか。それに、恐らく要の方が頭の回転が速い。

美沙が思って見ている前で、匠と結が顔を見合わせる。政孝が、言った。

「いや、占い師はお互いに占わせよう。そしてオレ達は、狐を探してグレランをする。」

ここでお互いを占わせるなんて!

美沙が心の中で叫んだ。確かにその方が自分は助かるが、本物の占い師が混じっている以上、グレーの中から占わせておいた方が後々情報になるのではないのか。

慎一郎が、口を挟んだ。

「それは、オレ達が占った白も避けてってことか?」

政孝は、迷うような顔をした。

「そうだな…しかしそうなると、残るグレーは倫子ちゃんと大悟と純の三人になる。結構白いから残った子達ばかりだし…真占い師が確定してない今、占われた子達も入れよう。つまりは、美沙さん、杏子ちゃん、倫子ちゃん、大悟、靖、純。この六人の中から誰に投票するのか、会合までに決めてくれ。最終、質問などがあったらそこで聞こう。」と、占い師の三人を見た。「君たちはお互いに誰を占うのか話し合って決めてくれ。それで、会合で報告を。」

それぞれが、力なく頷く。

占った人も投票に加えたら、人外を吊れる確率が下がるように思うけど。

美沙はそう思っていたが、それでも黙っていた。別に、村が勝っても人狼が勝ってもどっちでもいいからだ。

まだ昼にもならないのに、これから夕方まで、また投票を待つのかと思うと、美沙は無駄な時間に思えて、博正と真司の二人の容体ばかりを案じていた。

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