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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
31/53

襲撃と終わり

満と倫子は、純の隣の部屋の、14番の部屋に居た。

政孝が、使っていた場所だ。

ベッドはとうに新しくなり、そこに寝ていた政孝の遺体は当然のように居なくなっている。

満と倫子は、手分けしてあちらこちらの引き出しや戸棚、クローゼットなどを探しまくった。

机の引き出しの板が二重になっていないかとか、念入りに探した。

それでも、何も出て来なかった。

時間はもう、5時を過ぎている。6時までに見つからなければ、純か美沙のどちらかに投票することになるのだ。

倫子は焦って、部屋のカーペットまでめくりあげて必死に探した。

バスルームから、満が顔を出した。

「ダメだ…あいつは絶対に見つからない場所に隠すと言っていたからな。思えばそんなに簡単に見つかるはずがなかったんだ。」

諦めたような様子に、倫子は駆け寄って怒鳴った。

「そんな!あなたがそんな様子でどうするのよ!みんなの命が懸かってるのよ?あきらめちゃダメよ!」

満は、がっくりと肩を落とした。

「そんなことを言っても…政孝に、聞いておけば良かった。」

そんな満に腹を立てながら、倫子は自分もバスルームを調べようとあちこち見た。バスルームは、すっきりと片付いていて探さなくても何もないのは分かる。

「ここは何も無いわね…。」

がっかりして満を見上げると、満はふてくされた顔で言った。

「そうだろ?もう探す所なんてない。」

倫子は、頷こうと満に視線を合わせて、ふと視界の隅に気になるものがよぎったのを感じた。

何気なくそちらへ視線を向けると、バスルームの天井に、四角い切れ込みのような物があるのが見える。

四隅を丸いビスのようなもので留めてあって、何やら外せそうだ。

「あれ…天井裏か何かなの?」

倫子が言うと、満が上を見た。そして、頷いた。

「ああ、あれを開いたら天井が見えるんだ。こういうユニットバスは、一個の箱みたいになってて、組んであるから。家にはめ込んであるんだよ。」

倫子は、眉を寄せた。

「あの上に、何か置ける?」

満は、ハッとした顔をした。そして、慌てて頷いた。

「見てみよう。」

そして、バスチェアーを足元へ置くと、背伸びして四隅のビスをくるくると回して取った。そして、その板を外した後、淵に手を掛けて懸垂して頭だけ上を覗き込んだ。

「あ!何かある…!」

満は、一旦降りて、手だけを伸ばした。そして、バスタオルでぐるぐる巻きにされた何かを引っ張り下ろした。

倫子は、それを受け取って急いでバスタオルを剥いだ。この中に、刃物が…!

ガシャンと音を立てて、キッチンにあった果物ナイフや、包丁数本がバスルームの床へと転がり落ちた。そして、そこには、くしゃくしゃになった手帳も一緒に入っていた。

「要の手帳だわ!」

倫子は言って、それを拾って抱きしめた。要…きっと、助けてあげるからね。

満が、包丁を見ながら言った。

「きっと、共有者の間だけで知っておくべきなことが書いてあったんだろうな。自分が死んだ後、人狼に見られないためにここへ隠して置いたんだろう。」

満が、涙声で言った。倫子は、自分も涙ぐみながら頷いた。

「これは、持って置くわ。私が、要に返してあげなくては。」

パラパラと中を見ると、実にいろいろな考察が書かれてあった。書いてあるが、大きく×が書かれてあるのもある…どれだけのパターンを、二人で考えて行ったのだろうか。

満と共に先を見て行くと、ふと満が顔をこわばらせた。倫子は、今開いている三日目のメモから目を上げて、満を見た。

「なに?」

満は、黙って指を差した。

そこには、「狩人・大悟」、と書かれてあった。


「あったか。」

純は、満からバスタオルの包みを受け取って、言った。そして、ベッドの上で開いて、その中で先の長い、細い包丁を手に取った。

倫子と満が緊張してそれを見ていると、純は、二人に向き直った。

「よし。あの女をおびき出せ。ひと思いにやってやるよ。」

倫子は、目を涙で潤ませながら、要の手帳を胸から出した。

「これ…見つけたの。」

そして、三日目のページを開く。

純は黙ってそれを見ていたが、頷いた。

「思った通りだ。大悟が狩人だったんだな。これでお前らも、オレの言うことを信用する気になっただろう。」

2人は、ゆっくりと頷いた。もう、真実はこれしかないと悟ったのだ。

倫子が、手帳をまた胸元にしまい込んで、言った。

「じゃあ、私が美沙さんを呼び出すわ。」

純は、にたりと笑うと、包丁を構えた。

「あいつを殺れると思うと、せいせいする。要や政孝の時とはえらい違いだ。」

満が、ごくりと唾を飲み込んだのがわかった。

倫子は、覚悟を決めて廊下を一番奥の美沙の部屋へと歩いたのだった。


部屋の前に到着すると、純が倫子を制した。何だろうと思っていると、純は扉の横へと移動してそこで身を潜める。満は、少し離れた位置で、じっとこちらを見ていた。

倫子は、緊張気味にインターフォンを押した。

『はい?』

美沙の声だ。倫子は、極力何もないようなふりをして、声を掛けた。

「あの、もう下へ降りようと思って。美沙さんも、一緒にどうですか?」

美沙の声は、すんなりと答えた。

『ええそうね。もうあと半時ほどだし。ちょっと待って、すぐ出て行くわ。』

すぐに、電子音がして鍵が開く音がする。

純が、倫子に下がるようにしぐさで促し、倫子は、少し後ろへと下がった。

目の前の扉が、押し開かれた。

純が、その扉の後ろへとサッと移動する。目の端に見えるその素早さに倫子は驚いたが、視線を動かすと美沙にバレてしまうので必死で美沙を見たまま棒立ちになっていた。

すると、美沙が足を踏み出した。

「どうしたの、なんて顔をして…、」

美沙の声は、そこで止まった。

倫子の目の前で、純は確実に美沙の首の横を一太刀にしていた。

真っ赤な鮮血が、筋になって純が振り下ろした包丁の先から美沙の首へと繋がっているのが見える。

その吹き出す真っ赤な液体が、血液であるとは倫子にはすぐに認識出来なかった。

満が、声も出せずに呆然とそれを離れた位置で見ている。

倫子は、自分にも降りかかる生暖かいものが、何であるのかも分かっていなかった。

そんなことが一瞬で過ぎ去ったのだと、我に返って倫子は初めて知った。そして、慌てて美沙を見ると、美沙は冷静に自分の首を押さえて、じっと純を睨んでいた。純は、フッと笑った。

「終わったな。」

美沙は、手を真っ赤に染めながら言った。

「そうね。」

純は、その場にぐにゃりと倒れた。

目を開いたまま、そのままぴくりとも動かない。倫子は、純に駆け寄った。

「ああ純!純…私達のために!」

美沙が、冷たい瞳で倫子を見下ろして、言った。

「…無駄になった。どちらにしろ、私達第三陣営の勝ち。私は、こんなことぐらいでは、死ねないから…。」

ドサリと、傍らで音がする。倫子が慌ててそちらを見ると、満が不自然な形でその場に倒れていた。

「満さん?!」

ちくり、と腕輪の辺りが痛んだ。途端に視界がまるで、明かりが落ちたように真っ暗になった。

「安心して。何もかも無かったことよ。」

美沙の声が聴こえた気がする。

倫子は、その場に倒れた。

そして、真っ暗などこかへ、落ちて行くような感覚がして、倫子は何も、分からなくなった。

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