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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
30/53

狼視点4

次の日は、何人残っていたっけか。

そうそう、オレと靖、満、倫子、美沙だったな。つい昨日のことなのに。

この日は政孝のことなど別に何も思っていなかった。死んでいて当たり前、オレが殺したんだからとさっさとその日の議論へと進めたい気持ちだった。

何しろ、オレは今日靖か倫子を吊らなければならない。狐を処分したと思っていたオレは、後は自分が生き残ることだけを考えるべきだったのだ。

どこか何か忘れているように思えたんだが、一人での考察は誰も間違いを指摘してはくれない。

まして、自分より考察が出来てない奴らと一緒なら尚更だった。

ここまで、靖が夜も襲撃を恐れてよく眠れていないこともオレは知っていた。倫子かどちらかと思ってはいたが、オレはあいつを早く楽にしてやりたかった。

そんな風に思ってあいつが疑われるようなことを言ったが、本当のところ、オレはあいつに人狼だと失望されたくなかったのかもしれない。

だから、最後の最後、あいつが吊られると思った時も、オレはあいつに投票しなかった。もう、オレの一票ではどうしようもないのを知っていたからだ…あいつは、最後までオレを信じて地下へと行った。あいつがオレを恨んでいる顔は見ずに済んだとホッとしたのを覚えている。


そして、夜の襲撃だ。

まさか、と思っていた。

オレは、倫子をこれ見よがしに攻撃する美沙を見て、反対に怪しいと思った。

こいつは、これまで倫子を庇うような動きを見せていたのに。人狼に噛ませる先を、これで決めさせようと思っているのか…。

そう、あいつが嘘つきなのはその時に見抜いていたのに。

だが、もうその時では遅かったがな。


オレは、あんな女が嫌いだ。自分に不利になりそうな時だけ適度に発言する。だが、村のためなんてこれっぽっちも思っていない。それなのに、自分は役に立ってるという風に、堂々としている厚かましい女だと思っていたからな。

自分は人狼だからどうでもいいことだが、本質的に厚かましいヤツは嫌いなんだ。

どっちにしろ要らない女だったので、オレは襲撃先にあいつを選んだ。

あいつを殺して、少しすっきりしようと思っていた。


だが、ナイフを持って電子ロックをはずしたオレが見たのは、あの、初日に慎一郎を襲撃した時と同じ、ロックに阻まれて開かない扉だった。

オレは、混乱した。

狩人が、生きていたのか。だとしたら、考えられないほどお粗末だが倫子が狩人だとしか考えられない。美沙が狩人だったら、自分は守れないはずなのだ。

そう、自分を襲撃から守れるのは、狐だけ…。

狐。

オレは、その瞬間にパアッと視界が開けた。そうなのか。あいつが狐か。それならば慎一郎が背徳者。初日に狐を囲ったのだ。

美沙が、あまりに慎一郎を吊るのに積極的な発言をするので、考えてもみなかった。いや、少しは思ったはずなのだ。それなのに、慎一郎が白く見せようとしているのと、美沙の慎一郎を吊るという発言に、すっかり頭から抜けてしまっていた。

慎一郎が背徳者なら、狐のために、死ぬだろう。

オレは、ナイフを持ったまま美沙の部屋の前で頭を抱えた。もう、終わりだ。明日は四人、村村狐狼。村人はどうやっても勝てず、自分は狐を吊らねばならない。だが、悔しいが村人からは、自分は疑われる対象だろう。倫子なら散々伏線を張っていたから吊れると思っていたが、これまで積み上げて来た、美沙の白さには勝てない。

それに、あいつは恐らく、何か手を打ってあるはずだ。人狼のオレがどうやっても勝てないように、自分を村人に見せる工作を。

そこで、ふと思った。

今日オレが満を噛んでいたら、しかしこれで終わっていたのに。美沙にとっては、これは悪い方の手だったはずだ。本当は、オレが満を噛んで、ここでゲームオーバーにしたかったはずなのだ。

女狐め。

オレは、立ち上がった。恐らく、次の日はオレは吊りを免れることはない。だが、それでも、誰が安穏とあいつを勝たせてやるものか。

村人たちに散々に恨まれて、過ごせばいい。

村人たちは、自分達の愚かさと、ついでに人狼の愚かさを思って、後悔すればいい。

オレは役職COする。そして、皆に事実を話す。そして、もうどうやっても勝てないのだと知らせてやろう。

村人は、人狼と狐なら、人殺しを選ぶぐらいならと、狐を勝たせる判断をするだろう。それでも、いい。


そうして、オレは部屋へ戻り、朝に備えた。

そして、朝になり、階下へと降りて、お前達が来るのを待った…恐らく、勝ったと喜び勇んで来るお前達に、絶望を突き付けてやるために。




長い、純の回想が終わった。

満も美沙も、最初の方に一言二言質問をしたぐらいで、残りは一切口を挟まずに聞いていた。

窓の外は、まだ明るいものの日が傾いて来ている。ふと時計を見ると、あれから、1時間半ぐらいが経過していた。

倫子は、人狼の動きが見えて、全てがわかったような気がしていた。

細かい役職などは本当はどうだったのかまで分からない。

ただ、人狼は間違いなく京介、匠、純の三人で、洋子が恐らく狂人だったのだ。

パアッと視界が開けるのを同時に、人狼側も必死だった事実を知った。襲撃を一回でも怠れば、全てが失われるのだ。

そう考えると、こうして倫子と満が今無事で居るのも、匠や純が毎夜自分の手を汚していたお陰だったのかもとすら思えた。

満が、やっと言った。

「なぜだろう…人狼のお前が話してるのに、それが嘘だと感じられない。全部、本当のことだって…。」

言葉は、尻切れトンボになった。全部本当のこと、つまり美沙が狐だということだからだ。

純は、何かを堪えるようにククッと音を立てた。

「今さら嘘をついて何になる。そもそもオレは、もう死ぬのかもしれないんだ。オレが最後の人狼だし、他の2人がまだ生きていたとしても、一緒に葬られるのかもしれない。ま、要や他の2人だって殺して来たんだし、仕方がないな。」

純は、もうすっかり覚悟が出来ているようで、椅子の背にゆったりともたれ掛かって窓の方へと視線を向けた。

しかし、倫子はそんなことは無理だった。つまりは自分も、満も、もう絶対に勝てないということなのだ。

自分達も、地下で一緒に葬られてしまうかもしれないのだ。

「そんな…そんなことがあるはずはないわ!」倫子は、立ち上がって叫んだ。「美沙さんに…美沙さん本人に聞いて来る!あなたは、狐なんですかって!」

満は、もうあきらめたように首を振ってそれを止めた。

「分かったところでどうなると言うんだ。オレ達にはどうしようもない。美沙さんを殺すのか?…そしたらルール違反でお前も死ぬぞ。」

それを聞いた純が、ふと、何かに気付いたようにこちらを向いた。

「…そうか。お前達が生き残る道がもう一つ、ある。」

倫子と満が、同時に純を見た。満が、顔をゆがめた。

「何を言っている…これ以上、余計な希望は持たせないでくれ。ルール上、どうあってもオレ達は勝てないじゃないか。」

純は、息をついた。

「その通りだ。しかしルール上ではないことが、現に起こっているじゃないか。もしも大悟が生きていたら?洋子が生きていたら?今とは変わっていたはずだ。それでも、こうしてゲームは進み、オレ達は今、狐の勝利間近に居るんだ。」

満は、首を振った。

「美沙を殺せと言うのか。無理だ、そうすると村人が一人減り、狐が居なくなってもお前ともう一人の村人の二人になって、お前ら人狼の勝利になるだろう。もう、オレ達にはどうすることも出来ない。」

純は、フッと笑って身を乗り出した。

「お前らにはな。だが、オレが美沙を殺したら?」

満も、倫子も息を飲んだ。

そんなことは、あり得ない。人狼が、狐をルール違反で殺して、村人を勝たせるなんてことは。

「でも…あなたはそんなことを、しようとは思っていないでしょう。」

純は、ふふんと鼻を鳴らして笑うと、椅子へそっくり返った。

「言っただろう、オレは覚悟はできているんだ。理由はどうあれ、オレが要と政孝を殺したのは事実。もしかして村人が勝ったら、それが帳消しになるかもしれないんだろう。あいつらが、生きて帰って来る可能性があるんなら、オレはやってもいい。靖にも、それで言い訳が出来るだろう。オレが戻れなくても、お前達があいつに説明してくれるだろうしな。少なくてもあんな女に勝たせるよりは、ずっといい。」

満と倫子は、じっと純を見つめた。本気で言っているのか。

「本当に…本当にやってくれるの?あなたと仲間は、戻って来れなくなるかもしれないのに?」

純は、笑った。

「数の原理だ。オレ達は4人、狐は2人。村人は8人だ。だったら村人が戻った方が命の消費は少なくて済む。簡単なことだ…オレはもう、疲れたんだよ。」

満と倫子は、顔を見合わせた。確かに、それしか村人が勝ち残る方法はない。だが、本当に純はそんなことをしてくれるのだろうか。やけになって、皆殺ししようとするのではないのか…。

しかし、みんなを助けようと思ったら、それに賭けるよりなかった。

「…時間がない。」満は、早口に言った。「お前に任せよう。オレ達は、どうすればいい?」

純は、頷いた。

「政孝の部屋を荒さがしして、キッチンから持って出たナイフか包丁を持って来てくれ。そうしたら、あの女の部屋へ行って、オレが待つ廊下へおびき出せ。それだけでいい。あとは、オレが心得てる。」

満と倫子は、もう一度顔を合わせると、頷き合った。

そして、足早に純の部屋を後にしたのだった。

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