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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
3/53

出発

促されて向かった先には、プロペラ機が止まっていた。

20人乗りだと聞いたが、こんな飛行機に乗るのは初めてだ。

あの後、皆で自己紹介を一当たりし、二週間共に過ごすのだから、ファーストネームで呼び合おうと決めた。

そして、美沙に促されてやって来たのが、このチャーター機の中だったのだ。

それぞれが緊張した様子で席へと座る中、倫子はそっと、一番最後に引率のリーダーだと言ってやって来た、美沙を盗み見た。

美沙は、美しい黒髪を前で分けて耳に掛けているだけで、他に目立って着飾っているわけでもなんでもない。顔立ちも、目立って美しいのではなかった。それなのに、どこか惹かれる雰囲気がある。

それは、男子達も同じなようで、皆がチラチラと美沙の方を見ているのは分かった。洋子も、これまであれだけ不愛想にしていたのに、そんなことも忘れたのか興奮気味に倫子に言った。

「ねえ、あの人すっごく綺麗。なんだろ、雰囲気が色っぽいっていうか。あれで私達より一つ年上なだけなんだよ?信じられる?」

倫子は、苦笑しながら答えた。

「みんなそう思ってるんじゃないかな。京介さんを見て、ずっと美沙さんに話しかけてるじゃない。それこそ、絶対どこかで会ってる、とか、運命的ななんとか、とか言っちゃって。」

要が、後ろの席から言った。

「確かに綺麗な人だけど、オレは何だか逆に警戒しちゃうな。ほら、魔性の女とか言うじゃん。」

洋子が、うるさそうに言った。

「あんたに女の何が分かるのよ。」

要は、心外な、という顔をした。

「姉ちゃんは知らないけど、オレ結構モテるんだよ?子ども扱いばっかしやがって。」

京介の怒涛のアプローチを軽くいなして、当の美沙が席に座っている皆に向かって、CAよろしく言った。

「当機はあと15分ほどで離陸します。それで、到着する前に注意事項を。」と、皆が自分の方を見ているのを確認してから、腕時計のようなものを手に言った。「これは、皆さんの健康管理をするためのものです。これから、一つずつお配りしますので手にしたらすぐに左手首に装着してください。それぞれに番号がついており、これからそれがあなた方の番号となります。何かの折に使うので、番号はしっかり覚えておくようにしてください。」

言うが早いか、美沙は自分の腕にそれを着けて見せた。

「大きさは、自動で調節されるようになっております。番号を押して、通話ボタンを押すと、その番号の相手と話すことが出来ます。結構優れものなんですよ。」

京介が、さっと美沙から他の腕輪を受け取って自分の腕に装着する。どうやら美沙の心象を良くしたいらしい。後ろへと回って来た腕輪を、皆が争うように我先にと腕へと装着し終えると、美沙は説明書のようなものを配り始めた。

「腕輪の取り扱い説明書です。到着までには時間がありますので、しっかりと読んでマスターしておくようにしてください。では、シートベルトをしっかりとお締めになって、出発です。」

美沙は、京介の横の席へと座った。途端にまた、京介が美沙に話しかけているが、機体の両脇についているプロペラが勢いよく回り出し、エンジンの音が激しく聴こえて来て、その声はかき消されてしまった。

機体はしずしずと、滑走路を進んで飛び立つ準備を始め、皆は無言で窓の外を見つめた。


思ったより、機体はすんなりと空へと舞い上がった。

滑走路を物凄いスピードで走り始めた時は大丈夫なのかと命の危機を感じたが、飛んでしまうと安定して、今は眼下に雲海を望みながら飛んでいる。

地上が全く見えないので、どこを飛んでいるのか分からないが、船でも一時間ほどの島だと聞いているので、そんなに遠くはないだろう。

倫子は、自分の左手首に収まった機械を見た。

パッと見、腕時計のようだが、そうではない。金属で出来たそれは、腕にぴったりと馴染み、離れる様子は無かった。

金属の板には番号があり、通話ボタンなどがついている。

そして、倫子の腕輪には大きく「5」と刻印されてあった。つまりは、倫子の番号はこれなのだろう。

ふと顔を上げて、相変わらず美沙に話しかけている京介に呆れながら、倫子はさっき自己紹介し合った面々を見渡した。

二座席ずつ二列に並んだ右側に京介と美沙、左側に杏子と、もう一人引率のアルバイトに来たと言う大学三回生の椎葉大悟(しいばだいご)が並んで座っていた。杏子は居心地悪そうだが、大悟の方は特に気にもしていないようで、ガッツリした体で強面の彼には似つかわしくない、小さな文庫本を開いて読んでいる。

前から二列目には大学四回生グループが四人陣取っていた。

この四人は皆、就活の後半戦を勝ち抜くために、これに参加したのだと言っていた。どうやら、そういうことも対象の合宿らしかった。

左から、キリリと頭の良さそうな顔立ちの女性である町田結(まちだゆい)、暗めの茶髪ですらりとした体躯の美形、相原匠(あいはらたくみ)、通路を挟んで穏やかで静かな趣の安藤政孝(あんどうまさたか)、黒髪に切れ長の目、冷たい印象の原慎一郎(はらしんいちろう)

三列目の左から、高校三年生のおとなしそうな印象の市井純(いちいじゅん)、その横に友達らしいハキハキと明るい田村靖(たむらやすし)、そして通路明けて右側には洋子、倫子。

後ろの座席には要と、反対側の隣には四回生達に無理に連れて来られたという三回生の木村満(きむらみつる)が座っていた。どうやら、大学のサークルが一緒だった関係から、お前も来年に向けて来い!となったのだと、要が愚痴を聞かされているのを聞いた。

皆、思い思いに腕輪の使い方の説明を読んだり、持って来た本を見たりと時を過ごしている。

そんな自分以外の13人を見ているうちに、倫子はうとうととした。

そして、すぐに着くのにとハッと我に返ったが、見るとあれほどうるさかった京介も、黙ってシートに背を預けているのが見える。その横の美沙も、頭がシートから通路側へと垂れていて、どう見ても眠っているようにしか見えなかった。

みんな寝てる…?

倫子が横を見ると、洋子も窓へもたれ掛かっていた。眠い…でも、眠っちゃいけない…。

倫子がなぜか強くそう思って必死に目を開けようと格闘していると、腕輪の辺りがチクっと痛んだ。

痛…っ!

倫子は、それを見ようとした。

だがしかし、そこで倫子の意識は完全に途絶えたのだった。

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