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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
26/53

視点漏れの不安

部屋へ帰ったものの、いざベッドへと横になると、さっきまでの眠気はどこへやら、全く眠くなくなってしまった。

困った倫子は、しばらく何度も寝返りを打って眠気が来るのを待っていたが、どうにも眠れない。

そうしていると、頭に浮かんで来るのは、純の最後に放った言葉だった。

…もうどうやったって村人は勝てない…。

倫子は、背筋が寒くなった。自分は、何かとんでもないミスをしたのだろうか。

信じてはいけないものを信じていたのかもしれない。

そんな考えが湧き上がって来て、落ち着かない。

美沙は、怪しいところなど全くなかった。最初から、村のために考えていたように思う。それに、狩人のこともああして考えていたし、今日いきなり何も無く狩人だと出て来たわけではないのだ。

昨日美沙に疑われたのも、自分が狩人の情報を引き出そうとしたからで…。

そこまで考えてから、ふと何かが引っかかった。政孝の死…どうして、美沙はあの時唯一の共有者を守らなかったのだろう。黒出しを二回していた満は、もう村にとって有益な情報を落とすことはない霊能者だった。人狼は三人、最後の人狼を吊れば、ゲームは終わるからだ。

それなのに、政孝を守っていなかった。裏をかくために?…それでも、政孝は狩人の情報を含めて、持っていた唯一の共有者だったのに。

それを問い正してみたいが、倫子は怖かった。もしそれで、美沙が納得が出来る回答をくれなかったらどうしたらいいのだろう。どちらにしても、今日は純を吊るより選択肢はないのだ。純が人狼だとカミングアウトした時点で、それは決定事項だった。

倫子は腕輪をじっと見つめた。これで1を押して通話ボタンを押せば、美沙に繋がる。自分の疑問を不安を、聞いてもらうことが出来るのだ。美沙なら、きっと納得できる回答をくれるはず。

そう思うのに、倫子の指はそのボタンを押してはくれなかった。僅かな不安が確信に変わることが、怖かったからだ。

じっと悩んで腕輪を見ていた倫子だったが、気が付くと、8のボタンを押していた。そして通話ボタンを押すと、呼び出し音が鳴り始めた。

『倫子ちゃんか。』

確認するような満の声が聴こえる。倫子は、その声を聴いて一気にタガが外れたように、腕輪に向かって自分の不安をぶちまけた。

「満さん…!私、不安でたまらないの!純の言葉が耳に残って…美沙さんのことを考えて、純の嘘だと思おうとするたび、違和感を感じて胸が苦しいの!どうしたらいいの…美沙さんは、本当に狩人なの?純が言っていたのを思い出して…もしかして、狐なんじゃないかって。」

満の声は、冷静に答えた。

『倫子ちゃん、オレもそれは疑問に思った。実はオレは、大悟が狩人だったんじゃないかってずっと思っていたんだ。大悟は、最初の投票の時もオレと一緒の投票対象としてグレーの中から上がってて、それでも何かの覚悟みたいなのを感じたんだ。オレは、それを人狼かと思ってあの時は投票したんだが、後で思うと言えない役職…狩人だったんじゃないかって思ってて。』

倫子は、その時の大悟のことを思い出した。満と二人で同時に表した表情には、何かを悟ったような覚悟のようなものを感じたものだった。だが、気のせいかと思っていたのだ。しかし、満も同じように感じていたのだ。

満は、続けた。

『だから、大悟が死んだ時、狩人が死んだのではと恐れた。その夜政孝が生き延びられないかもしれないと言ったのは、狩人がもう居ないのを知っていたからじゃないかと思ったんだ。遺体の様子を見ても、覚悟の上だったのはうかがえた。あいつは着替えもせずに、ベッドの上に腕をきっちり組んで眠っていたからな。だが…昨日の夜美沙さんが部屋を訪ねて来て、自分が狩人だからオレを守ると言って来た。オレは驚いたよ…完璧に潜伏していた狩人なんだからな。その時は政孝の言葉を思い出して、最後に人狼を苦しめてやったぞと、喜んだんだが…。』

倫子は、言った。

「…出来過ぎてるんですね。」

満の声は、頷いたようだった。

『あまりにも出来過ぎている。昨日ああは言ったが、もしも美沙さんが狐なら、オレが噛まれても良かったんだ。オレに噛みが来るように倫子ちゃんを攻撃したと言っていたが、純は違うと言った。考え方が二通りあって、どちらにするかは純次第、もしも美沙さんを噛んでも死なず、生きていて守られたと思ったオレは美沙さんの潔白を証明するだろう。もしもオレが噛まれていても、死人に口無しだ。こんなやり取りがあった事実は伏せられるし、何より狐1狼1村人1になってゲームは終わる。狐が勝利する。どっちに転んでもいいように、昨日から伏線を張っていたのだとも取れる。』

倫子は、安心しようとして通信した満の言葉から、俄かに焦りが湧き上がって来るのを感じた。あまりにも、あまりにももっともらしい答えだったからだ。これが正解なら、もう村人の勝利はあり得ない…。

「じゃあ…本当に、狐かもしれないと?」

満の声には、苦悩が滲み出ていた。

『…この五日間で疑う癖がついちまってるからな。本当に言葉通り、美沙さんが狩人なのかもしれないんだ。だから、今更とやかく言うべきじゃない。どっちにしても、どうにも出来ないことなんだから。』

倫子は、本当に美沙を信じたいと思った。だが、純の話を聞いてみたい。どうせもう最後なのだったら、純に聞けることは全部聞いて、もしも戻れなくて地下のどこかに籠められた時に、少しでも、要や村のみんなに説明が出来るように…。

倫子は、キッと腕輪を見た。

「満さん、それでも、情報を集めなきゃいけないわ。」満の声が、驚いたように詰まった。倫子は続けた。「もしも負けて暗い地下へ行くことになっても、みんなに申し訳が立たないでしょう。なんて説明するの?何も分からなかったと言うの?最後まで生き残ったのだもの、私達には出来る限り知っておく責任があるわ。純の所へ行きましょう。そして、聞けるだけのことを聞いて来るの。」

満の声は、戸惑ったようだった。

『知るのが、不幸なこともあるぞ。』

倫子は、見えないのを承知で首を振った。

「それでも、知っておかないと。純は知っているんだもの。」

少し黙った後、満が言った。

『…わかった。そうだな。何が起こっていたのか、オレ達は知らなきゃならない。オレが純に通信して鍵を開けてもらっておく。美沙さんには知られない方がいいだろう。タイミングを合わせて、さっと純の部屋へ入ろう。』

倫子は、手はずを話し合ってから通話を切った。純の所へ行こう。そして、聞けることは全部聞いて来るのだ。その結果、美沙が狐だという疑惑が強まったのとしても、それでも行かなければならない。それが、生き残った自分の使命なのだから。


満から準備が出来たと通信が来たのは、それからほんの5分後のことだった。

倫子は、そっと扉を押し開いた…ここの防音設備が完璧なのは知っている。

美沙が、部屋に居る限り、外での出来事は全く分からないはずだった。

さっと廊下に出ると扉を閉め、鍵を掛けて横を見ると、満も同じように出て来たところだった。

2人は、向かい側にある純の部屋の扉へと一目散に走って行き、そしてそのドアノブに手を掛けた。

扉は、すんなりと開いて二人は中へと飛び込んだ。

すぐに鍵を掛けて振り返ると、純が椅子に座ってこちらを見ていた。

「二人揃って何の用だ?もうオレには用は無いはずだろう。それとも、あの狐に投票する気になったのか?」

倫子が、首を振って純に歩み寄った。

「違うわ。あなたの話を聞くために来たのよ。人狼としてここまで生きて来たのでしょう。あなたの知っていることを、教えて。みんなを襲撃して来たんだから、あなたにはその義務があるはずよ。」

純はじっと倫子の顔を睨んでいたが、息をつくと側の椅子を顎をしゃくって示した。

「座れよ。オレ達だって好きで人狼になったわけじゃない。だが考えたら、村人から見たら想像出来ないぐらいの恐怖だろう。これからどうなるのかは分からないが、オレの知っていることを話してやるよ。」

満と倫子は目を合わせて頷き合い、そして、純の前の椅子へと腰かけた。

「何から話そうか。」純は、言って身を乗り出すと、膝の上に腕を乗せて前で組んだ。「そうだな、最初にここへ来ることになった経緯からにするか。時間はまだある…全部話してやるよ。」

そうして、純は話し始めた。

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