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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
25/53

最終日

その日の夜は、眠れなかった。

ずっとベッドに突っ伏して、美沙に信用してもらえなかった自分の不甲斐なさと、そのせいで村人を帰してあげられなくなる罪悪感で、泣き続けていたのだ。

朝の光が目に痛く、寝不足の上、泣きすぎてぼってりと腫れた目を瞬かせて顔を洗い、服を着替えた。いつもならそれを聞いて飛び出した、ロック解除の音もどこか遠く、トボトボと力なく廊下へと歩み出ると、目の前に美沙が立っていた。

「え、美沙さ…」

「し!」と、美沙は今出て来た倫子の部屋のドアへと倫子を押し戻した。「中へ!」

言われるままに、訳がわからずまた部屋の中へと入ると、美沙はふーっと息をついた。そして、腫れあがった倫子の目を見て、苦笑した。

「ごめんなさいね…昨日はきつく当たってしまって。あのね、聞いて。私は、狩人なの。昨日は、満さんを守った。護衛を成功させるためには、これしかなかったの。あれは、私の演技だったのよ。」

倫子は、今聞いた事実に驚いて目を丸くした。…つもりだったが、腫れていたのでそう大きくはならなかった。

「え…え…美沙さん、狩人…え…」

美沙は、本当に困ったように笑った。

「あなたが狩人の話をした時、過剰に反応してしまってごめんなさいね。あなたを黙らせないと、私も危なかったからなの。人狼に私を襲撃させるわけには行かなかった。だから、あなたを疑っているように見せかけて、満さんを襲うように仕向けたの。上手く行ったと思う…あなたは生きてるし、私も生きてる。満さんの部屋のドアは開いていなかった。昨夜満さんに話して、ことの次第は話してあるから、満さんも知っていることなのよ。知らなかったのは、あなただけ。」

倫子は、やっと美沙が言っている意味が浸透して来た。そうだったんだ…美沙さんは最初から、純が怪しいと思っていて、それで私を攻撃して、自分の身を守ったんだ。私を疑ってたんじゃ、なかった…。

そう思うと、やっと止まっていた涙が、また溢れて来た。美沙は、急いで自分のポケットからハンカチを出すと、それで涙を拭った。

「さあさあ、涙を拭いて。もう、今日で終わるわ。これで、おしまい。最後の人狼は純だった。あの子を吊って、終わりにしましょう。」

倫子は、顔をくしゃくしゃにして笑って、何度も頷いた。ああ、勝ったんだ。人狼に、勝った。


扉を出て歩いて行くと、満が出て来て、待っていた。倫子は笑って満に駆け寄った。

「満さん!良かった…誰も、死ななくて…!」

満は、笑って倫子の頭をぽんぽんと叩いた。

「本当に良かった。政孝が言っていた通りだ…最後の最後で出て、人狼を決め討ったんだ。本当によく生きていてくれたよ、美沙さん。」

美沙は、ふふと肩をすくめた。

「でも、バレたかなと何度も思ったのよ…共有者に通信で護衛先を知らせろと提案したりとか、狩人のことが話題に上がったら、全力で阻止したりとかで。でも、大丈夫だったみたい。」

そんなことを話しながら、いつもの居間へと入って行くと、そこでは、純が立って待っていた。そして、美沙を激しく睨んだ…その後、倫子と満の顔を、交互に見た。満が、言った。

「オレが生きてて驚いたか?」

純は首を振った。

「違う。あなたじゃない。」と、倫子を見た。「お前、狩人か?」

倫子は、首を振った。

「違うわ。狩人は、美沙さん。」

純は、見る見る顔色を変えた。そして、言った。

「…そうか。やっぱりお前が狐か!」

美沙は、首を振った。

「何を言ってるのよ。襲撃が失敗しておかしくなったの?私が狩人よ。」

純は、険しい顔で断固とした口調で言った。

「よくもここまで騙して来てくれたものだな。ああ、オレは人狼だよ。最後の人狼だ!だがな、オレが昨日襲撃したのは、こいつだ!狩人は自分の身を自分で守れない。襲撃を自分でかわせるのは、狐だけだ!こいつは、潜伏していた狐だったんだ!」

それには満が、呆れたように肩を落とした。

「また狐か。お前は狐狐と、それで慎一郎を吊ったんじゃなかったのか。何人狐が居るって言うんだ。昨日は、オレを噛んだんだろう。倫子ちゃんに入れると宣言した美沙さんを残して、フラットに見ると言ったオレを噛んで自分に票が入らないように。」

純は、首を振った。

「そんなに分かりやすいことはしない。倫子を指定した美沙を噛んで、倫子が人狼だから吊り回避のために噛んだんだと言うつもりだったんだ!それなのに…こいつは残った。オレは、倫子が狩人で残っていたからかと思ったが、違うのなら美沙は狐だ!慎一郎は背徳者だ…だから、あんなに簡単に吊られ、初日に美沙を囲ったんだ!今日オレを吊るなら吊ればいい。だが、村人は勝てないぞ!狐が残る!」

倫子と満は顔を見合わせた。ここに狐が残っていたなら、村はどうあっても勝てない。今夜狐を吊って、夜襲撃を受けて、そして人狼と二人になって、人狼勝利になる。

しかし、ここまで狐が残っていたというのを信じろという方が難しかった。人狼は、苦し紛れにこんなことを言っているとしか思えないのだ。

満が、呆れたようにため息をついて首を振った。

「お前の狐予想は聞き飽きた。お前が人狼なんだろう?だったら、今言ったように今夜お前を吊らせてもらうよ。それで、全てが終わる。オレ達はこんな狂ったゲームを、もう終わらせて帰るんだ。」

純は、ふんと踵を返した。

「それが村人の選択ならオレはもう何も言わない。だが、村人は勝てない。人狼の勝利だったら狂人と合わせて4人が戻って来るが、狐の勝利なら戻って来るのは二人だけだ。結局最悪の結果になるってことだ。だかそれを選んだのは、他ならないお前達二人だからな。あっちでみんなに謝ればいい。オレも…狐を残してしまったお詫びを言わなきゃならないからな。」

それだけ言って、純はさっと三人の横をすり抜けて部屋へと上がって行った。

美沙が、嬉しそうに言った。

「さ、今夜で終わりだし、何か食べましょう。食材はあったし、何か作るわ。やっとそんな余裕も出来たんだしね。」

倫子は、美沙に促されてキッチンへと足を向けた。

美沙について歩いて行くその途中で、戸惑いながらちらと満を見ると、満は不安そうに純の消えた方向を見ていた。

倫子も、純の迷いのないはっきりとした態度に言葉の真実を見たような気がしたが、それでも何も言わずに、美沙と一緒にキッチンへと入って行ったのだった。


冷蔵庫にあった食材で美沙と一緒にいろいろな料理を作り、満と三人で久しぶりにまともな食事をした。

温かい味噌汁がこんなにおいしいものだとは、倫子も今まで気付かなかった。倫子の母が味噌は美容にいいとか言って、毎日のように食卓へ並べていたが、それがもはや当たり前になっていた倫子には、それが有り難いものだとは思っていなかったのだ。

そうしてしばらく、美沙に聞かれるままに進学のこと、将来のことなどを話していたが、朝が早かったこともあり、そしてホッと力が抜けたのも手伝って、倫子は眠気をもよおした。

「なんだか眠い…6時まで部屋で休んでます。」

倫子が言うと、満も立ち上がった。

「ああ、オレも眠い。少し休んで来よう。」

美沙は、肩をすくめた。

「まだお昼を過ぎたばかりなのに。分かったわ、じゃあそうしましょう。どうせみんな6時にはここに来なきゃならないのだしね。」

倫子は、立ち上がった。そして、満と美沙と三人で二階へと上がって行ったのだった。

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