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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
22/53

五日目へ

その日の投票は、あっさりと終わった。

慎一郎は純へと投票し、そうして、匠の時と同じように、何の声も上げずに、地下へと沈んで行った。

思った通りそれで終わるはずもなく、慎一郎が何だったのかも今の時点では分からない。

しかし、少なくても人狼では無かったことはこれで証明された。

機械的な声が夜のターンに備えろといつものように言い、その日の追放は終了した。


美沙が、スッと立ち上がった。

「これで…狐の脅威に脅かされることは無くなったということね。でも、私は慎一郎さんを信じていたから、きっとこれは杞憂だとは思うけど…それでも、勝つことで信頼に応えられる。明日も、みんなで正しい判断をしましょう。」

政孝が、ゆっくりと立ち上がった。何も言わず、手に要の手帳を握りしめて、肩を落とした様子で出入り口へと向かう。満が、急いでその背を追った。

倫子も、政孝が心配で急いでそれを追おうとしたが、美沙が倫子の腕を掴んで、首を振った。

「きっとつらいのよ…こんなことの決断を押し付けられて、間違っていたらと居たたまれないんだと思うわ。そっとして置いてあげましょう。必要なら、向こうから訪ねて来るわよ。男の人って、変なところでプライドが高いから、あまり押しつけがましくなってはいけないわ。」

倫子は、美沙を見た。

「でも…今夜は、もしかしたら政孝さんかもしれないのに。」

美沙は、寂し気に微笑んだ。

「満さんの可能性もあるのよ。だって狩人が生きていたら、きっと政孝さんを守るでしょう。だから満さんを襲撃するかもしれないし、裏をかいて満さんを守ることを考えて、政孝さんかもしれない。分からないの。あの二人なら、気持ちは分かるでしょう。どちらにしろ、グレーの私達は生かされるわ。明日吊るために。」

倫子は、少しも嬉しくなかった。もうここまで来たら、自分も地下へと沈んで楽になってしまいたいような気がして来る。

倫子は力なく頷くと、美沙と共にそこを出て、部屋へと向かったのだった。


結局、それから誰の来訪も腕輪の通信も無かった。じっとベッドに横になって、天井を見つめて、倫子は何とかして眠りにつこうとしていた。部屋が閉まっている間は、どうしたって自分は役に立たないのだ。

ならば、明日の朝までしっかり眠って、朝一番に皆の様子を見に行かなければと思ったのだ。

今日は、なぜか洋子のことばかり思い出された。洋子は、いったいどんな気持ちで夜を過ごしていたのだろう。みんなの考えでは、洋子は狂人か、もしも別の考え方なら、狐だった。どちらにしても違う陣営で、要と倫子の話を聞きながら、どうしたらいいのかと心を病んで行ったのではないだろうか。

もしも、自分なら耐えられない。

倫子は思った。もしも狐だったのなら、背徳者が居たので少しは気が軽かったのかもしれないが、狂人だったとしたら、狼が誰なのか分からず、役職も分からないままに嘘をつかなければならなくて、対抗した真霊能者には厳しく接しられ、それはつらかったはずだ。

それでも、仲間のはずの人狼ですら、狂人が困っていても助けてはくれないのだ。

倫子は、段々に病んで行った洋子を心から気の毒に思った。確かに、自分に票を入れたのかもしれない。でも、そうしなければならなかった洋子の気持ちは考えたことも無かった。

もっと、普通に接してあげたら良かった…。

倫子は、心から後悔した。そして、次に会ったら、必ず謝ろうと思っていた。あれは死んでしまったのではなくて、きっと仮死状態になっただけなのだと、どちらの陣営でも、第三陣営でも、きっと帰って来れるのだと信じて。

そうして、倫子は浅い眠りに入って行った。


目が覚めると、もう朝日が差し込んでいた。

急いで時計を見る…5時を少し過ぎていた。

慌てた倫子は、急いで扉を開いて外へと飛び出す。すると、びっくりした顔をした美沙が扉の真ん前に居て、危うくぶつかりそうになった。

「きゃ…!ごめんなさい、あの、ロックが外れたのに気付かなくて。」

倫子が慌てて言うと、美沙は頷いた。

「いいの、呼びに来たところだったから。来て。」

美沙は、先に立って速足に歩いて行く。倫子は、急いでその後を追った。


向かいの列の階段よりの部屋のドアが、大きく開かれていた。

その部屋が政孝の部屋であることは、倫子にも容易に分かった。戸の外には、暗い顔をした靖と純がただ立ち尽くしている。倫子が美沙を追って扉へと近づくと、二人は黙って道を開けた。

もう、説明は要らなかった。

慣れてしまった血の匂いが、部屋に充満している。そして、ベッドでは、寝間着に着替えてもいない政孝が、まるで覚悟していたように、腹の上に手を組んで置いて、血に染まったシーツの上に横になっていた。

近くでは、満ががっくりと肩を落とした状態で、膝をついていた。

「ああ政孝さん…」

倫子は、涙が湧き上がるのを感じた。要と一緒に、村のことを必死に考えて皆をまとめて勝利に導こうとしていた。要が死んでからはたった一人で、それは辛そうだったが、自分ではとても手伝えないことなので、黙って見ているしかなかった。

満が、振り返った。

「昨日、オレか政孝かって、遅くまで話したんだ。9時を過ぎてからは、腕輪を使って。だが、10時に通信が切れて、それが最後だった。」

倫子は、言った。

「政孝さんは、狩人のことは何も言っていなかったの?」

満は、首を振った。

「何も言うべきでないからと。生きていたら、最後の最後にはカミングアウトするはずだから、人狼もせいぜい怯えていたらいいんだと言って。」

倫子は、下を向いた。ならば、狩人が生きているかどうかも、今はもう誰にも分からないんだ…。

美沙が、険しい顔をして倫子を見た。

「どうして狩人のことを聞くの?倫子ちゃん、こうしてみんなが居るところで狩人を特定したりしてはいけないでしょう。この中に、人狼が居るのよ。せっかく政孝さんが黙って逝ったのに、それは村を窮地に陥れることになるのよ。考えて発言しなきゃいけないわ。」

満が、頷いて立ち上がった。

「そうだ、確かにその通りだ。人数が少なくなって、それが最後の切り札になるかもしれないのに。怪しまれてもおかしくないんだぞ。」

倫子は、慌てて首を振った。

「そんなつもりじゃ…ただ、仲間が一人でも分かったらいいと思っただけで…。」

すると、純が扉の方から言った。

「君は、この期に及んでもまだきちんと考えていないのか。最初から、あまり考えていないような発言を繰り返してたが、さすがにここまで来たら命に関わるんだからしっかり考えるものだろう。」

靖が、険しい顔で頷いた。

「同い年の女がラストウルフだったなんて、オレは腹が立って仕方がない。そんな女のために、疑われて吊られそうになったなんてな。」

倫子は、状況が目まぐるしく変わっているのを感じた。胸がどきどきと苦しい…もしかして、また吊られてしまうような状況になってしまったの?

しかし、それには純が言った。

「まだそうとは決まっていない。靖、友達だからオレも見逃して来たが、お前だって怪しいことばかりして来たじゃないか。ここまで来たらオレも、正直勝ちたい。だから、早く狼を探して吊って終わりにしたいんだ。真剣に狼を特定したいと思っている。だからこそ言うが、どうして刃物探しをすると自分から申し出たんだ?」

それを聞いた他の3人が、顔を見合わせる。初めて聞いたことだったからだ。

「え…靖くんは、自分からあの、刃物探しをすると志願したの?」

純は、頷いた。

「政孝さんに聞いたら分かることだったんだが、あいにくこんなことになってしまったから。要がどうしても部屋を探したいと言って、誰かに探させようとした時、靖が真っ先にやることが無いから自分がやると言ったんだ。でも、一人では信用出来ないからダメだと言われて、それで側に居たオレが一緒に探すことになった。でも、実際は靖が一人で探していたけどね。オレは人の荷物とかあさるのは、嫌だったから。」

倫子は、それを覚えていた。確かに靖が一人で嬉々として部屋を探し回っていて、純はこちらで話し相手というか、こっちが話すことに相槌を打っていただけだったのだ。

「確かに…そうだったわね。」

美沙が、そう言った。倫子は、どこでも同じだったのかと美沙に頷いた。

「私も、そう覚えているわ。」

純は、頷いた。

「その理由を聞かせてほしい。ここまで来たら、友達だからとかそんな事で判断するのはすごく危険なんだ。オレが安心するような理由を聞かせてくれ。」

靖は、ぐ、と詰まった。戸惑っているようだ。

「それは…特に理由なんて無くて…本当にすることが無かったし、何か役に立てたらって気持ちだけで…。」

「待て。」満の声が飛んだ。「ここではそこまでにしろ。政孝はやっと楽になったんだ。静かに寝かせてやりたい。さ、寝間着のままの子も居るだろう。着替えて、朝食を食べたら始めよう。時間なんか指定しなくても、どうせ7時には部屋を出なきゃならないんだ、この人数だし、適当に集まろう。」

倫子は、自分が寝間着のジャージのままなのに気がついた。思えば目が覚めてすぐに飛び出して来たのだ。

美沙もフッとため息をつくと、扉へと向かう。

去り際ちらと満を振り返ると、満は新しいシーツを出して来て、政孝を覆ってやっていた。そしてその目には、涙が浮かんでいたのだった。

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