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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
18/53

三日目・昼

刃物を探す件は、すっかり忘れていた。

倫子が部屋へ入って便せんを前に考え込んでいると、不意にインターフォンが鳴って、純と靖の二人が訪ねて来た。

共有者達はいつ狩人から連絡があってもいいように部屋から出られないというので、二人組なら問題ないだろうと、この友達二人が白羽の矢を立てられたらしい。

だが、あの話が出てすぐに回っていたのならいざ知らず、一旦部屋に帰ってしまったら隠してしまうことは分かっていることなので、あまり意味はないことだろうと倫子は思った。

靖はどうあれ、まだグレーであるのに純のことは、倫子はなぜか疑う気持ちになれなかったので、普通に部屋に通して、中を調べられるがままにした。

1番の美沙から順番に回っているらしく、純は薄っすらと呆れたように微笑みながら、靖が一人であっちこっち嬉々として調べて回るのを見守っているだけだ。

純は思った通り話すのがあまり得意ではないらしく、倫子がいろいろ話しかけてもたどたどしく答えるだけだった。

そんな様子にも好感を持ってほのぼのとした気持ちになりながら、何も無かったと残念そうにしている靖と二人、出て行くのを見送った。


そうやって時が過ぎて行き、お昼も過ぎ、そろそろではないかと倫子が思っていた頃、腕輪から呼び出しがあって、階下へと降りて行った。

パラパラと集まって来る中、洋子が一人、皆と視線を合わせないようにしながら部屋へと入って来るのが見える。

みんなに狂人だと思われてしまっている洋子には、今では要さえも近づこうとはしない。

反対に人狼ではないかと疑われている匠は堂々としていて、政孝や大悟とも普通に話していた。

…あれじゃあ、敵陣営ですと言っているようなものなのに。

倫子は、洋子のびくびくと怯えたような様子に、そう思っていた。確かに気の毒には思ったのだが、それでも洋子が倫子に重い一票を入れた事実は、倫子には許せなかった。

なので、洋子と一瞬視線が合いそうになった時も、スッと自分から視線を反らして横を向いたのだった。

皆が揃った途端、政孝が言った。

「まず、刃物の件だが、見つからなかった。」要が、横でむっつりと黙っている。政孝はそれを横目に苦笑しながら続けた。「まあ部屋へ帰ってしまったから。あったとしても、どこか見つからない場所へ隠した後だったろうが。それから、純と靖が別の物を見つけた。」

政孝が、二人の方を見たので、皆の視線が二人に向く。純はびっくりしたように身を縮めたが、靖は驚きながらも思い切ったように口を開いた。

「結さんの、遺体が、無くなっていたんです。」

皆が、目を見開いた。

「え…朝見つかったばかりの、結さんが?」

靖と純が、同時に頷く。政孝が言った。

「知らせを受けて要と見に行ったんだが、ベッドの血のりも綺麗になくなっていた。ただ、床はまだそのままだったがな。」

美沙が、口を押えながら言った。

「それって…荷物は?」

「荷物はまだあった。もしかしてと杏子ちゃんの部屋も調べたが、杏子ちゃんも居なくなっていて、そっちは荷物すらなかった。京介の所では、同じように荷物が無くなっていた。」

政孝が、疲れたように言った。美沙は、考え込むようにして言った。

「もしかして…椅子と同じ原理かしら。ベッドごと下へ連れて行かれてるのよ。荷物は、私達が出歩けない時に持っていかれてるんだわ。」

政孝は、小さく何度も頷いた。

「だろうな。どういうつもりなのかは分からないが、あのままってわけにも行かなかったから、それはそれで、良かったのかもしれない。」

みんな、神妙な顔で頷く。あと何日続くか分からないこのゲームで、夏の今亡くなった人を長く置くのはつらいだろう。

しばらくそのままだったが、政孝が気力を奮い起こすように顔を上げると、身を乗り出した。

「それで、狩人から連絡があった。」

全員が、一斉に顔を上げた。

「それで…一人だったの?」

騙りは無かったのかということだ。政孝は、首を振った。

「一人だ。普通に考えてここで騙るほど狼は馬鹿じゃないだろう。狐も然り。この役職の数を考えても、もう出るのは限界なんだ。狼が手伝ってくれたお陰で占い師が二人、霊能者が二人、ここで狩人が二人出たら、五縄で誰か一人残して全部吊ったらいいわけだからな。」

「その考えは危ないぞ。」大悟が言った。「狂人と背徳者を合わせて人外は6。そうなると出てるのも6だが、真が3混ざってるんだ。どっちにしろ決め討って行かないと縄が足りなくなる。狩人だって、乗っ取りがあり得るわけだろう。もう狩人が死んでいる可能性は?」

要が、自分の書いたメモに視線を落とした。

「今までの犠牲者は3人。結さんが占い騙りの狩人っていうのは考え辛い。京介さんは、あれほど抵抗したんだから何かあったらあそこまで追い詰められたら絶対役職カミングアウトしたと思う。杏子さんも同じだ。逃げ出すほど怖かったんだから、役職を持っていたら言ってたと思うよ。」

大悟は、満足げに頷いた。

「じゃあ、護衛先を教えてくれないか。」

要が、メモを持ち上げた。皆、匠でさえ、じっと身を乗り出している。

「…1日目、慎一郎さん。2日目、政孝さん。」

「1日目、慎一郎で護衛成功してる!要を守ったんじゃなかったんだ!」

満が、叫ぶ。大悟は、頷いた。

「ということは、慎一郎の真目が上がるな。だが、もしかしたら他を噛んで狐だったからそっちでダメだった可能性もあるが、それは狼にしかわからんだろう。」

政孝が、匠をちらと見た。

「それで、朝の議論に戻るが」と、匠が視線を合わせるのを待って、言った。「匠、黒か?お前、慎一郎を噛んで殺せなかったから、狐だと思って吊ろうとしてるんじゃないのか?昨日の夜は誰を噛んだ。政孝で護衛成功されたのか?結を噛んだんだとしてなぜあいつなんだ。慎一郎が狐だから、結が真占い師だと思って噛んだんじゃないのか。今日黒を出されて、黒が2になって、慎一郎を確実に吊ることが出来ないことを考えて。」

匠は、じっと政孝を睨んで黙っていたが、しばらくして、フッと笑った。

「オレは慎一郎を占って黒が出た。だから吊ろうとしているだけだ。疑うなら、オレを吊ったらいいだろう。どっちにしても、ゲームは終わらない。」

慎一郎が、匠を探るように見つめながら、言った。

「…だったら村のために、両方吊るのがいいだろう。村から見て、恐らくどっちかが黒。霊能者は満が真だ。洋子ちゃんはあまりにも自信が無く稚拙だからだ。狂人は人狼が誰だか分からないし、アドバイスも受けることが出来ない。前にも言ったが、人狼なら仲間が何かしら未熟な相手には指示をするだろうからだ。洋子ちゃんにはバックに誰かが居る自信が感じられない。だから、霊能は真狂だろう。そうなると、占いに人狼が居る。結は夜に死んだから人狼ではない。同じ役職に狐と背徳者の二人が出ることは考えられない。オレ目線、結は狐だから残る匠は人狼だ。村目線、残りの占いの中に人外が一人居るなら不安要素は消してしまうべきだ。」

大悟が、慎一郎を見て反論した。

「お前は護衛されて生き延びてるんだ。吊るなら匠を先に吊って、色を見て次の日の占い結果を落としてくれ。まだ他に人狼が居る。それを探すためにも、例え白だろうと情報が要るんだ。お前を疑うのは、明日の霊能結果を見てからでいい。」

慎一郎は、息をついた。

「…難しいな。まあオレは縄を無駄にしたいわけじゃない。だから、匠を吊りたいというのなら、その方がオレもいいんだ。だがどちらにしろオレが生き延びられるかどうか分からないし、霊能者もそうだ。オレの真目を下げるためには、霊能を噛むのが一番だろう。オレを噛んだら、匠の偽が確定した上に、オレの真目が上がる。村に情報をたくさん落とすことになる。だが霊能を噛んだら、匠の色が特定出来ない上、オレが生きているのでこっちも吊る必要がある。オレの出す占い結果も完全に信用出来ない。だから狩人は、霊能を守るべきだ。もちろん共有者も視野に入れながら、人狼との駆け引きになるがな。」

皆が、シーンと黙った。今慎一郎が言ったことを、どこかおかしくないか考えているのだろう。

元々、みんな人狼ゲームのプロとしてここへ集められたわけではない。

純のように、ほとんど知らないまま参加させられている者達まで居る。

どちらからどう見て考えたら真実にたどり着けるのか、誰の言うことを信じたらいいのか、本当に分からなかった。

重い空気を破ったのは、慎一郎だった。

「…さて、じゃあオレが生き延びたとして、今夜誰を占ったらいいか、共有者が指定してくれないか。オレがその中から、選んで占う。」

要が、頷いた。

「慎一郎さんが占ってない人の中でだね。後で直接言うよ。」

狩人が居るからだ。

倫子は、咄嗟にそう思った。そう思って考えてみると、自分は狩人でないし、さっきの狩人が護衛先を知らせている間、靖と純は外で刃物を探し回っていた。違うとみていいだろう。そうすると、残るのは、大悟。

だが、既に占って白が出ている美沙ということも考えられる。何しろ、腕輪で護衛先を言う方法を提案したのは、美沙だったからだ。

「じゃあ、もういいか?」匠が、立ち上がった。「どうせ今夜はオレだろう。明日からのことはオレには関係ない。オレが居なくなった後の村なんて、知ったこっちゃないからな。好きなものでも食べて、好きに過ごす。」

政孝が、険しい表情で言った。

「勝利陣営の側なら、戻って来れるんだぞ。村側なら何が情報を残して逝くのが普通じゃないか。」

匠は、そんな政孝に背中向けてヒラヒラと手を振った。

「どっちにしても、オレは仲間に期待してるよ。オレの力なんか無くても勝てるってな。」

そうして、そこを出て行った。

本当に匠でいいのか…。

慎一郎を信じたいのに、どこか信じ切れていない自分に、倫子は苦悩していた。

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